第24話 5月5日 対決(1)
5月5日(金曜日・祝日)
朝起きると、ヒナからメッセージが届いていた。
「悪い夢は見なかったよ。その代わりタツヤとした夢を見ちゃった。ありがとうね」
そして、照れたようなスタンプが届いた。
うーむ、最後までした上に、ここまで感謝されるとなんか複雑な心境だけど、ヒナが悪夢に襲われないのはよかったと思う。もう大丈夫かな。
俺は一言、「よかった。不安な時はいつでも教えて」とグッと親指を立てたスタンプを返した。
「ふう」
一息つく。メッセージを送ってから酷い罪悪感に苛まれる。
別に昨日ヒナとしたことに後悔とか罪悪感を抱いたわけじゃない。
実は、俺も肌色多めの夢を見たのだった。
ただ、その相手はヒナじゃなくて優理だった。
節操なさ過ぎだろ、俺。夢だから選んで見たわけじゃないけど、ヒナとした直後にコレとは、さすがに落ちこむ。
いや、むしろ今までずっと我慢していた反動なのかもしれないけどさ。
こんなんで優理まで手を出したらさすがにクズ過ぎる。もっとも、優理とすることなんて無いだろう。
朝食を摂り、出かける準備をする。今日はいつも起きているはずの千照の姿が見えなかった。
まあ、休みだしゆっくりするのもいいだろう。
それに、昨日のことをしつこく聞かれても恥ずかしいし。どうせヒナに直接聞くのだろうし。
「いってきます」
俺は優理の家に向けて歩き出す。
☆☆☆☆☆☆
インターホンを押すと、少しして玄関のドアが開く。そこには私服姿の優理が立っていた。白いワンピースが清楚さを際立たせていてとても似合っている。
「おはようございます、たつやさん」
「おはよ、優理。上がっていい?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう……ワンピース可愛いね」
俺がついそう言うと、優理は頬を赤らめながらはにかんだ。
そんな仕草も可愛くてドキッとする。
優理の部屋に入ると、既にお菓子が用意されていた。
それをつまみながら、本題である【花咲ゆたか】の話をする。
「昨日送って貰った全身の写真だけど、念のためお母さんの他の写真見せて貰ってもいい?」
「はい、いいですよ。うんしょっと」
そういって俺の隣に来て、スマホを見せてくれる優理。近づくと、良い匂いと優理自身の香りも少し感じる。
今朝見た艶めかしい夢を思い出して、俺の顔が熱くなっていく。
いかんいかん、朝から何を考えているんだか。頭をブンブン振って邪念を払った。
っていうかお母さん若いな。優理の隣に並んでいる写真があったけど、お姉さんにしか見えない。
当然面影があるけど、もっと綺麗系というか。優理は少しあどけなさがあって可愛らしさもある。
「美人だね。優理も可愛いわけだ」
「た、たつやさん……その、恥ずかしいです」
なんか普通に可愛いとか言ってしまう。うーん、俺チャラくなってしまったのか?
多分昨日、してるときにヒナに言いまくっていたからかも。
「だって、本当だからね」
「も、もう……」
両手で顔を覆って恥ずかしがる優理を見てチョロいなーと思いつつ、俺は写真を送る準備をする。
確かに、お母さんがこんなに若く見えるのならアプリで加工したとしても不自然さが少ないわけだ。
これなら送ってもいいだろう。また顔などを要求されても対策ができる。
「送信!」
「はいっ!」
優理はそわそわしなが待っている。なんだか——。
「楽しい?」
すると、優理はちょっと恥ずかしそうに言った。
「はい、すごくワクワクします。たつやさんとちょっと悪いことしているのが新鮮で」
と微笑む優理。
「あっ、返信来ましたよ!」
その言葉と同時にスマホが振動した。返信を開く。
『いいねえ、スタイルもいいね。モテるでしょ、彼氏もいるんじゃない?』
どうやら【花咲ゆたか】はノリノリらしい。しかも返信が早い。
はーあ。俺と優理で返信を考える。
『いいえ、誰とも付き合ったことありません。花咲さんは彼女さんいらっしゃらないんですか?』
『意外! 僕は今フリーだよ。ってことは、処女?』
はーあ。コイツさあ……。
優理は顔を真っ赤に染めながら俺の文章を直してくれた。
どうやら優理のことをそのまま答えるだけで、このネカマ女子中学生「真白」のキャラクターになるみたいだ。
『はい、処女です。キスもしたことがありません。恥ずかしいです』
送信して一息ついた。
「優理さ、こんなん答えたら男は勘違いしちゃうよ」
「え、そ、そうなんですか?」
「うん。初々しいし、チョロそうだなーってちょっと気があるように見える。もしメッセージするなら塩対応した方がいいよ」
「そうなんですね。気をつけます……たつやさんに返信するみたいにしてたらそうなってて。ちなみに……たつやさんは……その」
何か言いかけてもじもじする優理。
「どうしたの?」
「あ、あの……経験……あるのですか? キスとか……その」
うっ。昨日最後までしました……って言うべき?
でもな。こういうので嘘つくのもヤだな。
「うん、一応」
そういうと、うつむいていたのに急に俺の顔を見上げる優理。
目がキラキラしている。なんで?
「え、えと……その、え、えっち……もですか?」
「うん」
「すごいですね。さすが、たつやさんです」
なんで嬉しそうなんだよ。さすが、というのもよく分からない。
「ということは、たつやさんに色々教えてもらうことも出来るんですね」
何を!?
「ねえ、優理。それさあ、誰でもいいの?」
そういうと、ぷくっと頬を膨らます優理。
「いいわけないですよ……たつやさんだからです」
そっか。ならいいか——って良くない。
「そういうの、あまり言わない方がいいよ? 誰に対しても」
「は、はい……。ごめんなさい。
これは時間をかけて再教育が必要だな。
などと思っていると、返信が来た。
『じゃあ、僕が真白ちゃんに色々教えてあげるよ』
優理はこれを見て、うっ、と声を漏らした。
「たつやさんと違いますね。なんだかイヤです」
「でしょう? 教えてくださいは、ダメ、絶対」
「はぃぃ」
よし。これで妙なことはもう言わないだろう。
だいたい、頼まれたってダメだよな。ヒナとエッチしておいて、優理ともするなんてあり得ないでしょ。全部終わってから、ヒナとの関係を改めて考えてからならともかく。
でも……もし……。
俺の心にチクッとした痛みが走る。
もし、ヒナの時のように、優理と最後までしないと不幸を回避できないときが来たら……?
それでもなお、俺は優理を抱くべきなのだろうか?
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