第15話 5月3日 いつから? ——side 園田陽菜美(ヒナ)、幼馴染み視点

「ただいまー」


 返事はない。お父さんもお母さんも出かけているみたいだ。

 今日はゴールデンウィークの初日。タツヤの妹、千照ちゃんと一緒に遊んでいた。


 まさか、ショッピングモールでタツヤに会うとは思わなかった。

 さらにびっくりしたのは、タツヤの隣に高橋さんという女の子がいたこと。とても綺麗な子だと思った。それに、千照ちゃんと楽しそうに話しているのを見て、いい子なんだろうなって感じた。


 タツヤとも話したのだけど、私が知っているタツヤと少し雰囲気が違うような気がした。

 前より落ち着いていて、何かを悟ったような、そんな違いをなんとなく感じたのだ。

 そのあと、タツヤに言われたとおり千照ちゃんと違うところに行って遊んで帰ってきた。


「シャワー浴びようかな」


 お風呂にはまだ早い。だけど、汗を流したくなった。

 なんとなく、だけど……。


 私はシャワーを浴びたあと、キャミソールにショーツだけの姿でベッドに横になった。ブラつけるのが面倒くさい。


「うーん。私はタツヤのことをどう思っていたんだろう?」


 スマホに映るタツヤとのツーショットを見ながら、ぶつぶつ言う。

 高橋さんと一緒にいるタツヤを見て、もやっとした気分になって、変に気をつかって話してしまった。

 モヤモヤと私の中に苦いものが広がって行きかけたとき、タツヤは私と遊びたいのだとハッキリ言った。

 その瞬間、その苦いものは全部消え失せ、代わりに温かくぽかぽかするものが体中に広がっていくのを感じて、すごく嬉しくなってしまって。

 昨日まではなにも感じなかったのに……身体からだの中心が熱いのはどうしてだろう?


 もう一度スマホに映っているタツヤの写真に目をやる。

 とくん……とくんと心臓が高鳴る。


 無意識のうちに私の左手のひらが、心臓近くの……胸に触れた。


 乳房に触れているという感覚だけで、それ以外は何も感じない。

 でも、もしこの手のひらが、タツヤのものだったら?

 そう考えた瞬間、


「あっ……」

 

 腰がビクッと震え、声が出た。

 キャミの上から胸の先っぽを指で転がすと、ピリッと電流が走ったような感覚がして、思わず仰け反った。


「んんっ……ふっ……」


 勝手に変な声が出る。


 いつだったか、千照ちゃんが私の胸を触って、感じる? って聞いてきた。

 千照ちゃんは私より色々こういうことに詳しいみたいだ。一人でするって言ってたし……今の中学生はみんなそうなのだろうか?

 私はまだやり方を知らない。


 千照ちゃんに触られたときは、くすぐったいだけだった。昨日まで自分で触れてもくすぐったいだけだった。

 でも、今は……自分で弄りながら、タツヤに触られてるって考えただけで……随分違う刺激を感じる。


 「んんっ……はぁはぁ……なにこれっ……?」


 今まで感じたことのない感覚が全身に走り、息が荒くなる。



 タツヤとは家も近くて、両親の仲も良く家族ぐるみで遊ぶこともあった。

 彼の妹、千照ちあきちゃんはとても可愛らしく、私は絶対美人になると太鼓判を押していた。

 タツヤと千照ちゃんと一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝ることもあった。

 でも私が中学に上がるとき、両親の都合で引っ越し疎遠になった。

 中学を卒業してこっちに戻って来て再会すると、家族ぐるみの付き合いが復活する。


「ただの幼馴染としか思ってなかったはず。なのにさぁ、どうしてこんなに胸の奥がモヤモヤするのかなぁ?」


 再会して一年、お互いに暇なときはどちらかの家で遊んでいた。時に、千照ちゃんと三人で、時に二人でいろいろなところに行ったりもした。

 タツヤと付き合っているという噂も立ったけど、私にはそんな感覚が無かった。

 男子から告白されることもあったけど、その気になれなくて全部断っていたのも、噂を加速させていた。

 そんな日がずっと続くと思っていたのに。


「変な夢を見たんだけど、あれのせい?」


 黒い猫が私の前を横切った日の夜だ。凄く綺麗な猫だったので、やけに覚えている。


 夢自体は支離滅裂だ。全体的に暗かった。

 振り返ると、涙に濡れたタツヤがいたっけ。

 私がひどいことを言ったみたいだ。千照ちゃんも泣いていた。私に何か相談していた。私はそれを一人で解決しようとしてうまくいかなかったみたいだ。

 それと……あの人。高橋さんだ。恨むように私を見つめていた。


 夢を見たときは、それが誰なのかピンとこなかった。

 でも今日、あれは高橋さんだったことを確信する。


 タツヤと同じクラスのお嬢様。違うクラスの私でも噂を聞いたことがあった。


 今日、タツヤの隣にいた人。近くで見て思ったけど、綺麗と可愛いが同居したような人だ。

 私と高橋さん、どちらかを選ぶなら、男の人のほとんどは高橋さんを選ぶんじゃないのかな。たぶん、タツヤもそうだ。とても敵わない。


 でも、結局私がいまこんな変な気持ちになったのは夢が原因じゃなくて。


「こうなったのは、タツヤと高橋さんが並んで歩いたのを見たから……だよね」


 二人が仲よさそうに歩いているのを見た瞬間、ドキッとして、さらに、


『俺がそんなに優理を想っているように見えるか?』


 このタツヤの言葉で、初めて彼に「男」を感じた。

 その瞬間、何かが私を貫ぬき、からだの中が熱くなって、ようやく自分の気持ちに気付いたのだ。

 ああ、なんで今さらなんだ。一年間も気付く時間があったのに。

 私はタツヤが好き。だから、明日私と遊びたいと言ってくれたとき、あんなにも嬉しかったのだ。


 いっそのこと高橋さんがイヤな女の子だったら、遠慮無くタツヤを引き剥がそうとしただろう。できただろう。

 でも、高橋さんは……たぶん、私が嫌いなタイプの子じゃない。


「多分、私も高橋さんと仲良くなれそう。いい子っぽいし、タツヤも褒めてた」


 気付くと、触っていた胸の先端がツンと固くなっていた。

 もう一度、確かめるように手のひらで胸全体を包むように触る。


「んっ……あんっ」


 声が抑えられない。胸の先端が敏感になり、刺激が全身に伝わる。

 気付くと、私は無意識のうちに、足がもじもじして股をきゅっと閉じてしまっている。

 足の付け根、身体の中心に熱を感じた。

 これって、もしかして……? 千照ちゃんが言ってた濡れるってやつ?

 ショーツの中に手を入れて、私の、女の子の中心に触れる。


「あっ!?」


 その入り口は、ぬるぬるとした液体で濡れていた。


「えっ……うそ、こんなに?」


 どれだけ濡れているのか調べるために指を動かす。

 ぬるりとした潤滑油のおかげで、つうっとなめらかに敏感なところを指が滑る。

 もし、これが、タツヤの指だったら?

 男の人を受け入れるために愛液が中心からあふれ出る。

 そう思った瞬間、私のからだの中心が敏感になる。


「……んふっ……ふわぁっ……んくぅ……」


 自分とは思えないような甘い声が出た。さすがにびっくりして止める。

 もう少し続けたいような、そんな気もしたけど自分が自分じゃなくなるみたいで、ちょっと怖くなってきた。


「ふぅ……だめっ……これ、はまっちゃう……やめっ」


 手を止めた。

 すぐに、頭の中に暗くぞわりとした何かが入ってくるような気がした。ゾクッと背筋が凍る。

「何? 今の?」

 一瞬、タツヤじゃない別の男の影が、私の上に覆い被さっているような、そんな悪夢のような光景が頭に浮かぶ。

 タツヤ以外? いや、それはいやだ。タツヤじゃ無きゃダメだ。

 必死にタツヤのことを思い浮かべると、すうっと暗いものが去って行く。


「はあ……はぁ」


 今のは何だったんだろう。考えても答えが出ない。


 いつのまにか下着の濡れた部分が冷たく感じる。私は起き上がり、ショーツを脱いだ。

 ぬるぬるとした粘液は透明で、汚れているようには見えない。

 でも、もう一度シャワーを浴びたくなった。してしまったという後悔を洗い流したくなった。それに、あの何か嫌な感じの記憶も。


 何よりも、タツヤに対して罪悪感を抱いた。おかずにするってこういうことなんだ。彼のことを勝手に想像してしまった。使ってしまった。


 みんな、こういうことしているのかな?

 千照ちゃんはたくさんしているみたいだ。

 高橋さんは? 全然こういうことしてなさそう。


「あーあ。明日どうすんの」


 タツヤの顔をまともに見る自信が無い。どんな顔をして会えばいいのか分からない。

 だけど……私の気持ちは……もう抑えられない。

 好き……大好き。


 明日、私はタツヤとデートする。そこで告白しようかな。……もう手遅れかもしれないけど。

 そう考えながら部屋を出た。


 不思議だ。ダメだった時のことを考えても心が落ちこまない。

 もしかしたら、タツヤを好きになったこと自体が嬉しいのかもしれない。別に付き合わなくても、幼馴染みという関係でずっと傍にいられたらいいのかも。

 そうしたら、高橋さんですら受け入れられそうな、そんな気持ちになった。


 ああ、でも……タツヤを使ってあんなことを……よくないよね……。


 そんなことを思いながら、私は浴室の前までいき、濡れた下着を洗濯機に放り込んだのだった。




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