さまよい人

あじみうお

-1-

この春、美空は転校した。今までの整然とした住宅地とは全く違う、お母さんのふるさとの古くからの城下町だ。

いたるところに路地があって、くねくねと様々につながっている。

一見行き止まりのように見えても、行ってみると家と家との垣根の間や板塀のあいだに細い道が通じている。

この辺りに住む人は、誰もが路地を知り尽くしているようで、子どもはもちろん、立派な身なりのおじさんや艶やかに着物を着こなした女性までもが、猫の通るような細い路地を平気で通り抜けていく。


美空が祖母と暮らす古い家の垣根の脇にも隣の家との境目に、側溝にふたをしただけの細いスペースがある。そしてそこもあたりまえのように、道として利用されていた。

小学校に行くには確かに近道となり、便利だった。こんなところを通るのかと初めは驚いていた美空も毎日のようにそこを通るようになっていた。


その路地で、手紙らしきものを発見したのは梅雨の初めの頃だった。

傘をもって通るのが困難なためか、雨の時期は路地を通る人も少なく、見かけるのは、常に路地を行き来している猫たちぐらいのものだった。後ろからおいたてられることもなく、美空がゆっくり歩いていると、垣根の奥にひっそりと、白い紙が結び付けられているのが目に入った。

気になりだすと目が行くためか、その日以来たびたび垣根に結び付けられた紙を目にするようになった。毎回違う紙だった。黄色や赤の色紙の時もあれば、きれいな千代紙の時もある。

こんなところで誰が手紙のやりとりをしているのだろうかと、あれこれ考えるようになっていたある日、ふっと魔が差した。

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