第30話 誠の愛

なんで、私は━━


あ、そうか。

これもなんだ。


私はいつも空っぽだった。


一緒にいる友達も来てくれた人とだけ仲良くするだけで、特に選り好みはしない。

彼氏も、告ってくる人全部興味ないから作らない。

今日のご飯も、着るものも、暮らすところも本当に全部どうでもいい。


私は冷酷で中身のない人間だ。


……でも、それでも最近はちょっと違う。

そんな空っぽの入れ物にも時折あたたかいものが込み上げてくる瞬間があるのだ。

その瞬間は、なにもかもがどうでもいい私にとって最も重要な、最も価値のあるものだった。


誠陵実くん。貴方が笑ったその瞬間ときが。


たったそのとき、そのときだけが私にとって価値のあるものだった。

でも、私は気づかないふりをした。


弁才天様がいるから。


私は、今の今までなぜ好きになったのかなぜ好きなのかも思い出せない相手のためにこの大切な気持ちを必死に封じ込めていたのだ。


滑稽極まりない。


本当に馬鹿みたいだ。


でも、私はベンザイテン様しか知らない。

本当の愛を知らない。


これからどうしたらいいのだろう。

これからどうしたいのだろう。


そうか、私は━━


「生田目さん!俺は━━僕は」


声が聞こえた。愛しい人の声が。


「好きだよ!愛しい!愛してる!」


私は、誠の愛が欲しいんだ。


        ◻︎▪︎◻︎


「生田目さん!!」


私が目を開けると、目の前には、実くんの顔があった。


「実くん……」

「はい。実です!」

「ありがとう」

「えっ!あっ!当然です!」


実くんが恥ずかしそうに返す。褒められ慣れてないのだろう。

そういうところも可哀想だと思う。


守りたい。

支えたい。

……抱きしめたい。


自分の気持ちに気づいてからというものの、感情が溢れ出してくる。


弁才天様のことは、なぜか抱きしめたくなったが、守りたいとも支えたいとも思わなかったから戸惑う。


本当にはじめてなのだ。


人のことを愛おしいと思うのは。


夢に出てくる、草原の中でいつも私をまっすぐに見つめてくれる顔の見えないあの人はきっと実くんだ。


間違えだらけの恋愛だったけれど、これだけは、間違えない。


だから、何度でもいいたい。


「実くん、好きだよ。愛しい。愛してる」

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