水筋変化予報

第9話 暗がりの中の鬼灯

「誠陵忠ってぇーマジですごくない!?祓い屋ランキング四位だってよ!?今年の!」


 わざとらしい女声が俺の目の前でひびく。


「それな!しかもイケメンだし!……でもねぇ……」


 教室のど真ん中で話している三人のうち、残りの女子二人は、わざとらしくクスクスと音を立てながら、この中の一人の言葉の続きを聞いている。


「弟がこれじゃあねぇ。」


 続きの言葉が発されたあと、今までよりさらにわざとらしく、大きな笑い声をあげたあと、その場から去って行った。


 俺の方をわざとらしく見ながら。


       ◻︎▪︎◻︎


「お帰りなさいませ。実様。」

「……ただいま戻りました。」


 学校から帰った、俺は教室で起こったことで頭が一杯になりながら、広い我が家の玄関にいる使用人たちに挨拶をし、重い足を引きずり、居間へと急ぐ。


「実、早く食べてしまいなさい。」

「承知いたしました。母上。」


 母上が座っているともにらんでいるともつかない目で冷たく言いはなつ。

 普段は優しく細めた目で話す「母さん」なのだが、今はそんなわけにはいかない。

 だって、父上がいるから。


「実!お前は、どこをほっつき歩いていたんだ!?」

「あ、あの……それは……」


 食事用の席に、ついた俺はそういわれて、動揺する。


なぜなら生田目さんのところへ行っていることは、生田目さんたちと俺と母さんだけの秘密だからだ。

 その理由はというと、長男とは違って出来の悪い次男を業界の人間に父上は晒したくないからだ。だからこれがバレると大分まずい。


「門限は7時までだろう!!」


 父上が顔を真っ赤にして叫ぶ。


 弟子入り三日目で、早くも時間を越してバレそうになったと言うわけだ。


 今日、母さんから郵送された直筆の口止め願いのハガキを生田目さんの家で見てしまった俺は、こんな自分に情けなくなるとともに目頭まで熱くなってくる。


「聞いているのか!?」

「やめてください!あなた!」


 父上がこぶしを握りしめて、振り上げた。母さんがさっきの冷めた表情からは一転、血相を変えて止める。


「申し訳ありませんでした。父上。母上も。」


 そういうと、俺は居間をあとにした。「出来損ないめ!忠を見習え!」という父上の叫びを背中で聞きながら。


       ◻︎▪︎◻︎


 翌日も学校の門の前に来てからというもの、急に吐き気が止まらなくなった。


 自分でいうのもなんだけど、俺は人付き合いが特別下手なわけではない。

 だから、中三までは可もなく不可もなくやれていた。まぁ、そのときから流行りの話の時は浮いていたけれど。


 だけど、ここ、「私立祓い屋育成高校」に入ったときから俺はいじめられるようになった。

 仕方ないといえば仕方ない。この学校は名のとおり祓い屋として優秀な奴が偉いのだから。

 そして、この学校のVIP枠の兄を持つこの学校の落ちこぼれ。おまけに家は代々エリート排出となれば、いじめっ子からすればこんなに面白いことはないのだろう。

けれど、祓いの職業やこの学校自体まず国内での知名度が皆無だからそんなことに囚われているのは馬鹿みたいだ━━と言えたらどんなにいいか。


 自分のクラス、2━Bのドアを開けようとすると同時に、俺は異変に気づく。


 クラスの中で、「キャー、イケメン!」などと女子が、「うわっ!マジモン!?」などと男子がいう声が、聞こえたのだ。


 更に緊張しながら俺は恐る恐るドアを開けたら、そこには━━


 濃い桃色で長めの髪と、だいだい色の目をした、紺色のセーターにネクタイ、黒色のズボンを身につけた、背の高い男の人が立っていた。


「無鱒名魁……?」

「やぁ、少年。」

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