前のエピソード――③空疎と電子の花束を／花撫寺

タイトル：ポストずんだロックなのだ

作詞作曲：世界電力

動画制作：同上

ボーカル：ずんだもん（VOICEVOX）

https://www.nicovideo.jp/watch/so40804257

https://www.youtube.com/watch?v=J6G-6el37GE

　ニコニコ動画の株式会社ドワンゴが主催する『The VOCALOID Collection（通称ボカコレ）』は今年も大盛況を越えた大盛況で、選出するのが難しいぐらい悩まされました。

　しかし楽曲投稿イベントは、それだけではありません。

　公式チャンネルから投稿され、映像は実に質素。得られるメインの情報は楽曲とボーカルぐらいなもので、インターネットらしい匿名性を強調した『無色透名祭』に参加した楽曲がこちらになります。YouTube版は参加後に本人投稿されたものです。

　ある意味、今年を代表するAdo「新時代」よりも今年を物語っていると呼んでも過言ではない楽曲です。マスコットキャラクターからいい意味でも悪い意味でも頭角を現した『ずんだもん』によって代弁される、ウィズコロナの日常と虚無。

　初期のボカロよろしく、シェアキャラクターとして味つけされてきたがゆえの、「誰かなのに誰でもない」言葉を、人あらざるが存在ならではのあっけらかんとした声のポエトリーリーディングが、ポストロックの無情なサウンドに乗せて綴られます。

　長い前奏は嫌われると言われるファスト消費社会に真っ向から喧嘩を売った約2分もの間奏がある「まにまに」然り、AI音源どころか完全無機物音源の『足立レイ』を採用した「熱異常」然り、今年ボカコレを制した二大巨頭のように、世間一般の流行とは異なる楽曲がのし上がることが、ボカロ界隈ではままあります。その特異性を存分に感じさせる珠玉の一曲です。

　同作者の『太陽の王国』もオススメです。