第6話 新たな主人公達

 翌日、タンジェに連れられ職員室に向かった。


 貴族が多い学園の中はキラキラとした人達が溢れていた。ただ、全て行く道でタンジェは僕の視界を体で遮っている。


 職員室に着くと他の生徒が先に待っていた。


「はぁー、疲れた」


 タンジェは職員室で学園長へ話に行き、あまり体力がない僕は近くの椅子に座ることにした。


「あら、どうしたのかしら?」


 隣にはいかにも貴族の雰囲気を出した女性が座った。彼女も何か用事があって職員室に来たが、あまりにも人が多くて椅子に座ったのだろう。


「すみません。人が多いところに慣れていないので」


「別に謝って欲しく聞いたわけではありませんわ」


「すみません」


 前世が日本人だからかすぐに謝ってしまうため、女子生徒は呆れていた。


「だからそんなに謝らないで頂戴。私はマリア・カーティスです。マリアと呼んでね」


「マリアさんですか?」


 顔を傾けながらマリアを眺めた。マリアは漫画やゲームの世界にしか存在しないほど、髪型がドリル型のツインテールだ。しかも、キラキラと輝かしい雰囲気もあり見惚れてしまう。


「あのー、そんなにみつめられると恥ずかしいですわ」


「キラキラしてて綺麗だったので――」


「私には婚約者がいるのよ!」


 指差したそこには職員室に飾られている写真があった。そこには乗馬大会優勝者と書かれた紙と、王道王子様を思わせる風貌の写真があった。


「すごいキラキラしてますね」


「だって彼は王族だから仕方ないわ。でも、あなたもそこら辺に埋もれないぐらい綺麗ですわよ?」


「それはないですよ。モブですよ?」


 その辺に紛れる顔なら分かる。だから何を言っているのか理解できなかった。モブが埋もれないぐらい綺麗って全てが間違っている。


「モブ? 」


「いえ、気にしなくていいですよ。兄が呼んでいるので中に行ってきますね!」


 貴族なのに親切に話しかけてくれたマリアに僕は満面な笑みを向けた。若干頬を赤く染めているマリアはどこか可愛らしかった。


「これはレオン×カイトがいいわね」


 小さく呟くマリアの声は僕の耳には入って来なかった。





 学園長室に入るとタンジェとイケオジが待っていた。やはり乙女ゲームの舞台である世界の学園長もイケメンだ。


「待たせたね」


「いえ、大丈夫です」


 長身でダンディな姿に僕はドキッとしてしまった。それにしても、またタンジェが僕の視界を邪魔してくる。


「明日からAクラスに所属してもらうから、学年首席であるマリアさんに来てもらいました」


 後ろにある扉から金髪ドリルヘアーのマリアが入ってきた。


「さっき挨拶させて頂いたマリアよ。今後もよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」


 前世の記憶もある僕は学力だけで、Aクラスに編入することになった。この世界の学力はゲームのプレイヤーに合わせてそこまで高いわけでもなく、大体が中学生で学ぶ範囲内だ。


 ゲームの世界独特の魔法については、一般的なRPGゲームをしたことがあれば、少し勉強すれば大体はわかるレベルだった。


「中々Aクラスに編入することが難しいのに今年は二人もいるのよ。まだ到着はしていないけど、あと一人女子生徒が転入してくるから一人じゃなくてよかったわね」


「そうなんだ!」


 一人だけの編入者じゃなくて良かった安堵した。モブの予定なのにここで目立ってしまったら、今後の学園生活が楽しめない。


 話が終わり僕はタンジェと共に外に出た。


「カイトが心配だ」


 職員室では甘えることができなかったタンジェは、後ろから僕に抱きついてきた。僕の肩に顔を置き、声を震わせている。


「兄さんは何が心配なの? 僕はモブだから大丈夫だよ?」


「だって、学園に来てからカイトの目がキラキラしているぞ……」


 さっきも学園長の顔を見て目を輝かせていたのだろう。二次元の人物がそのまま三次元になっているから、かなりのイケメンだった。


「僕は兄さんから離れないから大丈夫だよ」


 ぼくは兄さんの頭を優しく撫でた。落ち込んでいる兄さんってかなりタチが悪いからな。


 以前も店番をしていた時に同じことが起きて、僕は部屋に閉じ込められてしまった。その時は両親がいたから良かったが、学園には両親がいない。


 せっかく乙女ゲームの世界に転生したから今を楽しまないと勿体ない。


「こんな兄さんでごめんな」


「気にしなくていいよ!」


 僕は落ち込んだタンジェの手を取り、寮へ戻った。

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