姉妹百合とエピローグ

 弓波侑杏と夢咲葵というVtuberの話をしよう。

 最近やけに界隈で話題に上がるのが、この二人だ。

 身バレするのも厭わずに、公開告白をしたり。

 自分らに付き纏うストーカーを撃退したり。

 そんな過激な投稿をし、人気を爆発的に伸ばしたVtuberである。

 しかし。その後すぐに引退配信をしたことで二人は伝説のVtuberとなった。

 だから、彼女らの姿を見たものはあの日以降いない。

 けれど彼女らは今日もどこかで笑って、喜んで、呆れて、悲しんで、そしてまた笑い合っている。


 え? なんでそんなことを知っているのかって?


 だって。私は夢咲葵で、白羽舞だから。

 弓波侑杏は妹で、白羽唯だから。

 私の好きな人は侑杏で、唯だから。

 これ以上の説明なんて、蛇足になるのだろう。


 だから私は、今日も地球のどこかで、妹とイチャついている。

 誰にも見せることのない、ただ二人の空間で──。


「──まーいー」


 不意に声がする。

 唯が私を呼んでいた。

 せっかく人が締めようとしていた時に、と軽く溜息を吐きながら笑みを零す。


「はーい、どうしたのー?」


 世間はすっかり、春の色に馴染んでいた。

 私たちが今訪れているのは、近所の一つの小さな公園。

 満開になった薄紅色の桜を、ひと目見ようとやってきている。

 唯は子犬のように公園を楽しげに走り回ったのち、離れたところから私を呼んだ。

 私はそんな唯に歩み寄る。距離を寸前まで縮めたところで、唯は両手を大きく広げた。

 ハグしてってことなのだろう。唯はまだまだ子供だなと思う。

 しかし幸いなことに、辺りには人の目は無い。


「もー。唯はこれから高校二年生になるんだから。学校に私はいないんだからね」

「舞の方こそ、大学生になるんだから。大学に私はいないんだからね」


 唯は無邪気に笑い『今のうちに堪能しなさい』とでも言いたげな表情だった。

 大学には自宅から通うので、別に家に帰ればいつでもできると思うのだけど。

 『まぁいいか』そう心の中で呟きを漏らし、唯の頭を軽く撫でてから、ゆっくりと彼女を抱擁する。春の温かみが乗じて、安心感すら覚えるハグだった。


 視界の端で、桜の花びらが踊っている。

 耳の中で、小鳥のさえずりが木霊している。

 鼻の奥で、春の匂いがくすぐっている。

 心の中で、唯のことを想っている。


 互いに、ゆっくりと距離を置く。

 いつまでも、新鮮さを帯びるハグだった。

 唯が手を差し出し、応じるようにそれを繋ぐ。

 そして私たちは、一本の桜の前まで歩く。

 辿り着いたところで、唯は桜には目を当てず、私を見た。

 それはもう、桜以上に、満開の笑顔で──。


 どうも。白羽舞と白羽唯でした。



 〜了〜

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