第2話 「UFOクレープ」

 レンタルポイントのコンビニにスクーターを返すローラを見ながら、サダミツはスマートウォッチを開いた。

「せ・ん・ぱ・い! 分かりましたよ」

 スマートウォッチの画面に、目を輝かせた少年の顔が映し出される。中学校の後輩、鳥居とりい時彦ときひこだ。

「母に聞いたら、『昔うちの店で出してたメニューです。良かったら特別に作りましょうか』って」

「よし、今から客と2人で行くから用意しといてくれ」

「あれ、今日は『火星展』に行くって言ってましたよね。ひょっとしてデートですか」

「違うって」

 興味津々のトキヒコをいなすと、サダミツは通信を切って時刻を確認した。11時になろうとしている。その画面に影が差した。顔を上げると、ローラがサダミツをのぞき込んでいる。

「まだ分かりませんの?」

 少し眉根を上げながらローラが尋ねた。顔立ちが整っているのでかえって愛嬌よく見える。サダミツはローラを安心させようと笑顔で答えた。

「良かったな、『UFOクレープ』食べられそうだぞ」


 鳥居時彦の家がやっている『ケーキショップ リッチ』は陽光原駅前の商業ビル内にある。サダミツとローラは奥の喫茶エリアに通された。

「いらっしゃいませ」

 エプロン姿で水の入ったコップをお盆に乗せたトキヒコが出てきた。繁忙時は店員のアルバイトをしているのだ。

「うちの本店はもともと喫茶店で、老朽化で閉店するまで『珈琲とクレープの店』でした。そこで出してたのがこの『UFOクレープ』だそうです」

 ローラはサダミツを見やるとトキヒコに呼びかけた。

「ありがとう。食事代は私が持つわ。アイスコーヒーを二人前、でいいかしら」

「アイスコーヒーを二人前ですね。クレープ代は先輩のお友達ということでサービスします」

 トキヒコは復唱すると一礼して引き下がった。


 5分ほどして、トキヒコが「UFOクレープ」を運んできた。二枚重ねのクレープ生地の中央に、盛り上がった部分がある。おそらくアダムスキー型円盤を模しているのだろう。

 ローラは早速画像を撮影してからクレープにナイフを入れた。UFOの中央には生クリームとフルーツが入っている。一口食べると目を細めて満足そうにうなずいた。

「こんなにおいしいクレープ、初めて食べましたわ。どうして止めたのかしら」

「こんな形だから持ち帰りできないし、火星に入植しているような時代に『UFOクレープ』っていうのも時代遅れだから、と母が言ってました」

 アイスコーヒーを持ってきたトキヒコが説明する。

「昔からあったメニューでしたのね」

「そこまででもないですよ。僕のご先祖がUFOを見たという記録があって、そこから祖父が思いついたみたいです」

 サダミツはアイスコーヒーを飲みながらトキヒコの話を聞き流していた。トキヒコが宇宙人に興味を持ったのは、この先祖がきっかけだと何度も聞かされているのだ。そこにクレープを食べ終わったローラが呼びかけた。

「サダミツ、これから私をタワーまで送って欲しいの。お礼はするわ」

「あ、ああ」

 あわててアイスコーヒーを飲みほすサダミツに、トキヒコがしれっとささやきかけた。

「先輩、クレープ代おごったんですから『火星展』のお土産、買ってきてくださいね」

 サダミツは「参ったな」という風に眉間へ指を当てた。

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