第7話 光刃

――マリアに助けてもらって無事に家に帰った後、その夜にリンはベッドの上で自分の指を眺める。意識を集中させて魔力を指先に集めると、白炎を光の刃へと変化させた。



「……できた」



折れた短剣の刃を魔力で再現した時のように、今度は指先に魔力を集中させて刃物を作り出す。指先にできあがった光の刃を見てリンは名前を付ける事にした。



「光刃、と呼ぼうかな。名前がないとあれだし……」



今度からは魔力で造り出した刃の事を光刃と呼ぶ事に決め、指先で造り出した光刃を見つめながら身体を起き上げる。光刃の切れ味を確かめるために何かないのかと部屋の中を見渡すと、昼間に刃が折れた短剣を発見した。


刃が折れたので短剣はもう使い物にならず、マリアからも捨てるように言われた。リンは短剣の柄の部分を持ち上げると、光刃を近づけて切れるかどうかを確かめる。



「くっ、意外と硬いな……」



指先の光刃を短剣の柄の部分に構え、そのまま切りつけるが時間が掛かってしまう。光刃は鉄以上の硬度を誇るが切れ味の方はそれほどでもなく、柄を切りつける事ができたが切断には至らない。



「このままじゃ駄目か。もっと刃の切れ味を上げるには……」



意識を集中させてリンは光刃の形状を更に鋭くさせると、その状態で柄に振りかざす。すると今度はあっさりと切り裂く事ができた。



「あ、切れた!?」



刃物の形を変えた途端に簡単に切れた事にリンは驚き、これならば武器としても十分に扱えそうだった。この方法を一角兎と戦う前から知っていればあれほど苦戦する事はなかったかもしれない。



「これは魔法……とは違うのかな?」



光刃を見つめながらリンは自分が魔法を覚えたのかと思ったが、あくまでも光刃は魔力を「硬質化」させただけに過ぎず、マリアの扱うような魔法とは言えない。


ちなみにマリアは風の魔法を得意としており、昼間に彼女が使った魔法は「スラッシュ」と呼ばれるの魔法だとリンは教えて貰った。マリアによれば魔法といっても様々な種類が存在し、その中で彼女が得意とするのは風を操る魔法だと語る。




――この世界の魔法の種類は「風」「火」「水」「雷」「地」「聖」「闇」の七種類に分かれており、種類以外に魔法には段階が存在する。例えばマリアが使用した「スラッシュ」の魔法は風属性の魔術師が最初に覚える「初級魔法」と呼ばれ、他には「中級魔法」や「上級魔法」が存在する。


段階が上がる事に魔力消費量も増えるが威力も大幅に上昇し、一流の風属性の魔術師ならば竜巻を作り出す事もできるらしい。しかし、自分の力量以上の魔法を使えば命を削る危険な行為と化す。



「僕の光刃はどの属性なんだろう……色合い的には聖属性かな?」



白色に光り輝く光刃を見てリンは不思議に思い、聖属性の魔法は白色の光を放つと聞いた事があるので彼は光刃の正体が聖属性の魔力かと思った。しかし、形を定める前のリンの魔力は白色の炎を想像させるため、もしかしたら火属性の可能性もある。



「う〜ん……考えても分からないし、とりあえずはこれをどう扱っていくかな」



指先に作り出した光刃を見つめ、これからリンは魔力を利用した戦闘法を編み出す事にした。昼間に魔物に襲われた事を思い返し、危うく自分とハクが死にかけた事を思い出して身体が震えた。


マリアによればこの森に魔獣が現れた事自体が珍しく、本来ならば一角兎もファングもこの森には生息しない魔獣だった。それが急に現れた事を考えたらもしかしたら森の中の生態系に大きな変化があったのかもしれず、これから森の中で生きていくのならば身を守る術は身に付けておかなければならない。



(ハクは僕のせいで怪我をしたんだ……今は元気になったけど、あの時に僕がしっかりと戦っていればあんな怪我をさせなかったのに)



ハクはリンを守るために二度も一角兎からの攻撃を庇ってくれ、もしも最初からリンが光刃を扱いこなしていればハクが怪我を負う前に一角兎を仕留める事ができた。だからリンはこれからは魔獣に襲われても自分で対処できるように戦う術を身に付ける事にした。



「強くなるんだ、今度は僕が守るんだ」



もうを失うのは嫌だと思ったリンは自ら強くなり、どんな危険な相手が現れても自分一人で戦える力を身に付けるため、もっと魔力を使いこなした戦法を考える事にした――






――色々と悩んだ末にリンは最初に取った行動は本棚を漁り、魔力に関する知識を深める事にした。そして彼は自らの魔力を増やす方法を見つけ出す。



「あった!!これをすれば魔力を伸ばす事ができるのか……」



本を読んだ結果、リンは魔力を増加させる方法が記された書物を見つけた。この書物によれば魔力を伸ばすためには限界まで魔力を使い果たし、その後に魔力を完全回復させる。それを繰り返す事で徐々に魔力の限界量を伸ばす事ができるという。



「何度も魔力を使い切って回復するのを繰り返せば魔力が増えていくのか……あれ、だけど魔力を使い切ったら大変な事になるんじゃ……」



過去にリンは魔力を使い果たしたせいで倒れた事を思い出し、あの時は夜に外で魔力を操る訓練をしていた。この時はマリアに助けられてもらい、寝ぼけて外に出て眠ってしまったと誤魔化したが、あの時の事を思い出すだけで顔色が悪くなる。


魔力を使い果たすと激しい頭痛と疲労感に襲われて意識を保てなくなり、数時間の間は眠り続ける。起きた後も身体が重くてしばらくはまともに動けず、ずっとベッドで身体を休める羽目になった。



「あんなのを何度も体験しないといけないのか……ほ、他に方法はないのかな?」



リンは魔力を使い切った時の出来事を思い出し、魔力を使い切る以外に魔力を伸ばす方法がないのかを調べた。すると本には別の方法が記されており、大抵の魔術師はこちらの方法を利用して魔力を伸ばしている事が判明した。



「何々……一般の魔術師は魔力を回復させる特殊な薬草を調合し、それを日頃から飲用することで魔力の限界量を伸ばす。注意すべき点は毎日少量ずつ飲用する事であり、下手に飲み過ぎた場合は体調不良を引き起こす、か」



魔力を回復させる薬草に関してはリンもマリアから聞いた事があり、この森に生えている貴重な代物だった。マリアは時々森に出向いてはこの薬草を採取し、それを利用して薬を作っている。



(師匠が時々飲んでいる青色の液体の薬、もしかしたらあれが魔力を回復させる薬なのかも……でも、勝手に僕が飲んだら絶対に怪しまれるよな)



マリアならば魔力を回復させる薬を調合して保管しているだろうが、それを無断で飲む事は流石にできない。そうなるとリンが残された手段は一つしかなく、彼はこの日から魔力を伸ばす方法を実践する。



「やるしかない、か……」



薬を当てにできない以上はリンが残された手段は魔力を使い切り、自然回復するまで身体を休ませるという手段だけだった。この方法ならば薬などいらず、時間さえあれば何度でも試す事はできる。だが、魔力を使い切る度に彼は意識が保てないほどの苦痛と疲労感を味わう羽目になる。


本音を言えば薬を飲む手段の方が手っ取り早く、大した苦労も味わわずに済む。しかし、マリアに迷惑を掛ける事はできないと判断したリンはこれから毎晩は魔力を使い切り、魔力を回復させて限界量を伸ばす手段を実行した――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る