第11話 修学旅行③


なぜか連れて行かれた楓。


「ここなら、大丈夫か...」


「あの!いきなり何なんですか?」


その先生はじっと楓を睨みつけ、ため息を吐いた。


「あなたは気づかないのね...ふふ、私の変身術が成長した証拠ね」


そう言って、先生がドロドロと溶け出した。そして溶けて現れた姿を見てすぐに楓は気づいた。


「お、お前は!?」


灯篭院桃花とうか。楓と幼なじみで、同い年。変身術式を得意とする、楓の初恋。


「なぜ、お前がここに!?」


「ここにじゃないわよ、あなた朱鳥村に派遣されたの?」


「あ、ああ...」


そう言うと、桃花はがっかりしたような表情を見せた。


「久しぶりに会えて嬉しい。けど、こんなところで会いたくなかったわ」


「お、俺も会えて嬉しい...」


楓は顔を赤く染まり、すぐ顔を背けた。


「...私たちは落ちこぼれよ」


赤く染まった顔はすぐに興醒め、彼女の顔を見た。


「お、落ちこぼれだと?」


「私たちは連盟の捨て駒よ」


「そ、そんな捨て駒なんて...ありえない」


「...まあいいわ、”城守家”についてだいぶわかったから、この機に乗じて連盟に乗り込む予定だったけど、あなたが来たということはきっと私は死んだと思われているみたいだから、絶対に城守家について教えないもんね」


懐かしい。かつての楽しそうな桃花そのものだった。


「...楓、任務は?任務はなんて言われた?」


「城守家を調べてこいと...」


正直に答える。


「ぷははは!!」


急に桃花は笑い出した。


「お、おい、何で笑うんだよ」


「さすがの楓も連盟の嘘には見抜けなかったのかって...私よりまだまだだなって」


「はあ!?」


「私は気づいていたよ、連盟の嘘も連盟の思惑も。私はあえてそれを飲み込み、連盟に見せつけてやろうかなって思っただけよ。私を切り捨てたって後悔させてやるってね」


楓は笑いながらもどこか哀愁と復讐の炎を携えた彼女を見るだけしかできなかった。


「さて、そろそろ子供達が待っている。詳しくはホテルでね、よろしくね!楓!」


変身術式の発動。すぐにもとの担任の佐々木先生に戻り、子供たちのもとへ向かった。


「さあて、みんな少し紹介するね〜雑用の楓くんね〜」


「は?なんで雑用なんだよ!と、ウグッ」


足を思いっきり踏まれる。ハイヒールぞ?


「楓さん、よろしく〜」


子供たちの笑顔はそんな痛みをすぐに忘れさせた。俺がここでやらないといけないこと。


・京都観光

・桃花と話す、連盟との因縁

・コタローとの約束、結菜の覚醒


俺、しんどくね?と感じた楓だった。


▪︎


鬼門に建っている旅亭、はるか昔に鬼が泊まったとされる戌亥旅館。陰陽師連盟本部より北西にあることから名付けられた。つまり、連盟との関係が色濃く残っている。まさかその旅館に泊まるなんてな。確かこの旅館を決めたのは桃花だったはず、やっぱり連盟に復讐を...


「キレイなホテル〜」


「旅館よ!」


子供達は楽しそうだ。彼らにとっては村を出ての旅行。楽しみに決まっている。


「今日はもう夜遅いから、明日から観光ねー!わかった〜?」


(今日の夜、私の部屋に来て)


楓にアイコンタクトを送る桃花。目の動きだけで大体の意思疎通が取れるようにと確か俺と桃花がちっちゃかった時に編み出したやりとりだったよな。


懐かしい気分になる楓。


子供達はは〜いっと元気よく返事をして、今日とまる部屋に入らせた。


女子部屋と男子部屋、そして先生(桃花)の部屋の三部屋。俺は男子部屋で泊まることになった。梅木くんと直己くんの部屋に俺がいる。


「なあ!楓はさ、結菜のにいちゃんでいいのか?」


なんで、呼び捨て...


「いや、まあ親戚のにいちゃんってところだ」


そういうとなぜか直己くんが照れ出した。それに察した梅木。


「なあ、楓さ〜結菜に好きな人っているか?」


は〜ん、そういうわけか...


「多分いないぞ」


直己くんがほっとし出した。


「...つまり、直己くんは結菜のことが好きってことか」


直己は顔を赤く染め、布団に突っ込んだ。


「ぷははは!楓くん、直球すぎ!!!」


「ふふふ、大丈夫だよ、直己くん、絶対に結菜には言わないから、むしろ俺らは応援しているぞ」


「...〜〜!!!」


ついに声を出すのが恥ずかしくなった直己であった。


それが黄昏時のこと。まさかこの時から、闇の中でとんでもない化け物が動いていたとは...




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