第7話 城守家


朱鳥村の隠れたお屋敷がある。東山にある神社の鳥居10軒のうち、途中7軒で道を外れると白い霧の中に包まれて見えてくる謎の屋敷。


「城守家の後継が来られたのか...」


どこか口調の端々が古めかしく妖しい黒上ロングの美女。


「城守零が逃げて数年...なかなか足取りが掴めずにいたが、ようやっと発見できた。よくやったよ、順道」


あの時の教授がいる。


「たまたま私の研究領域の蚊帳に、大きな虫が止まっていただけですよ」


二人の笑みはどこか不可解。


「...でも、まずは先にこの陰陽師殿に”城守”という名を叩き込まねばな」


大きな水晶に映っている謎の青年を見て、そうお答えなさる。


「城守結菜にはまだ、我々のことを伝えるなよ!順に私たちのもとへ引き摺り込み、を後悔しないために...ね」


「わかりました、妖天女様。」


甲高い笑い声が屋敷を響かせた。


▪︎


桜の花が咲きほこる。


「明らかに学校よな〜??」


一人の青年は目の前の木像建築物に右往左往している。彼の名は、灯篭院とうろういんかえで。京の都より数百年、初代灯篭院定正さだまさが生み出した陰陽道を使い、妖怪を払拭してきた陰陽師の家系である。現在、灯篭院の名は全国に伝わり、天皇家に次ぐ名家として語り継がれてきた。実質この国を裏より支えてきた一族である。


しかし、ある地域を除いて灯篭院の名は語られない。

永世中立な場所、そこが朱鳥村である。


朱鳥村は妖怪信仰の厚い地域であるがゆえ、悪しき妖怪を討ち祓う灯篭院を何百年嫌悪し続けてきた。さらに、そこには妖しき統べなる者がおり、人間と妖怪百鬼夜行との共生を果たした地でもある。今はそんな姿には見えないが、かつては妖怪と人間が共生していたことは灯篭院の記録に記されている。


そんな地に、なぜ今更陰陽師が来ているのか。


『楓、お前は朱鳥村に行き、城守家と接触しなさい。いいか?接触するだけで良いぞ』


ただ、そればかりしか言われなかった。それでも、私は悪しき妖怪を祓うのみである。


そんな時、一人の少女が私に声をかけてきた。


「ねえ、お兄さん...大丈夫?顔色悪いよ?」


私は相当歩いてきたらしい。腹が減った。そして、私は少女の目の前で倒れてしまった。


▪︎


コタローは怯えていた。結菜がいきなり連れてきた男。急に倒れてしまって看病をすると言っている。でも、彼にはわかっていた。そいつは京の陰陽師だと。我々を打ち払いに来たかと思ったが、周りに他の陰陽師が見えない。こいつは単身で来たみたいだ。


目が覚めやがった。


「うぅ...」


「目が覚めた?お兄さん...」


結菜はずっと彼のそばを離れなかった。彼女に聞いた話ではいきなり目の前で倒れた者だから、心配だと。もしかしたら私のせいかも。そんなわけはない。奴を見た限りではただ腹が減っているだけだと伝えると、彼女は台所へ向かった。


「おい、そこにいる妖怪!」


今は微弱な妖力を察知したのか。


「なんで、お前はここにいる?人間の家だぞ」


「人間だからなんだ。別にワイがどこにいようと勝手だろ」


「...いつもならすぐにお前を払うのだが、お前を今払えば彼女が悲しむ。腹へって倒れた俺をここまで看病してくれた彼女を悲しませるわけではない」


「........いい陰陽師になれそうだな」


彼には人としての良心はありそうだ。陰陽師の連中のごく一部は妖怪完全撲滅の思想をもつ者がいるが、彼はそうではない。


「なあ、妖怪...」


「コタローだ、河童のコタロー」


「なんだ、があるのか...まあ、いい。コタロー、城守家の当家はどこにある?俺はそこを目指して、陰陽師連盟から派遣された」


城守家、畏れある三大妖怪百鬼夜行のうち一つ、この地に住まうヒトと妖怪が混じった妖人。この陰陽師は外道な奴らによって嵌められたと思った。


「この家の娘は城守結菜だ」


「ここが...」


このまま、こいつをここに置いとく方がいい。きっと彼が京に帰ったとしても居場所はないのだから。

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