第3話  出会い

聞きなじみのあるそれと同じ特徴を持っていた。

きっと河童だ。古来よりいたとされる妖怪、恐ろしい存在として伝えられてきたが、私はなぜかそう思えない。


「え〜っと...城守結菜です。最近ここに引っ越しして来ました!よろしくお願いします!」


「え?あ...うん、えっと...ワイは河童のコタローと名乗ってる...」


風当たりがよい。三月の中旬、芽吹きはじめて生まれる暖かな風が私たちを覆う。


「...って、なんで自己紹介してんねん〜!お前、ワイのこと、怖くないのかよ!あと、早う池に入りたいねん、そこどいてや!」


「え、あ...はい、すみません」


私は少し横にずれる。コタローさんはせやせやと思っている素振りをしながら私の横を足を引きづりながら通る。水臭い匂いが私の鼻を刺激する。


ポチャンっ


「お前さ、そろそろ帰りいや?この辺、妖がうようよ出始めっからよ」


「え、はい...」


私は何事もなかったように来た道を戻ろうとする。

数歩歩いたところで振り返る。


「あの!ありがとうございます。心配してれて...」


「そんなん、言ってないで早う帰り!」


私はその場を離れた。まるで現実にはない理想郷に迷い込んだような感覚を覚えた。


「あの子が、最近引っ越しして来たって言う子か...」



辺りはすっかり暗くなる。街灯なんて数本しかない中心の町を通り、ラボの居住棟へ向かう。きっとお父さん、怒るだろうなぁと思いながら真っ暗な闇を少しばかりの光をもとに歩く。


ラボに着く。父がいる。父、怒る。そして、私は父の愛情を知り、眠りにつく。夢は一つ、今日の出来事について。


「結菜までいなくならない...よな?」


父はただ想う。



山から聞こえる。吠える声。この地域は自然豊か、狼だっている。群れでいる。そのリーダーはヒト型をしている。いわば、人狼。妖だ。


「ワオーッン!!!ケッ、ウマソウナヒト、イッパイ、オマエラ、クウゾ〜〜!」


まわりの狼は遠吠えをし、山中を響かせる。もちろん、池の中までも。


「うるさいな〜...もしや、またあいつらが来たんかいな?...懲りひんな〜」


人狼は狙う、人間共を。満ちた月を背景に飢えた牙が向かう先には...


◾︎


夢の中、まるで夢のようだった今日の出来事のフラッシュバック。河童のコタロー、私は彼?のことが忘れられなくなってしまう。


また、逢いに行こう。そう思い、今日は寝た。


明くる日、再びあの池へ向かう。父がとても心配するだろうが、私の好奇心は誰にも止められない自信があった。その道中、村人をちょくちょく見かけるが、あまり私に対して良い目はしてない。私を不審に思っているような...そんな目だ。

あまり気分は良くない。


そして、あの御池へ繋がる道のスタート地点に着いた。太陽は出ているが、その道は暗く、木々雑草で生い茂っている。ヒトが定期的に通ったのだろう。森のトンネルのようになっている。


歩いてみよう。虫の声、鳥の声が響く。どこか遠くでも...



そして、10分が経った。私は御池の前で押し倒されている。牙を見せた人狼に...!!!!



池の周りはジメッとしている。ほぼ泥と言っても過言ではなかった。周りに多くの狼、獣臭が漂う中後ろから聞こえる足音、ペチッぺチッ...


「なんや、あんた、また来たのかよ」


「ぐへへ、来やがったぜ。ここの主がよ」


この声は昨日の河童さんだ!


「人狼さんや、その子はなして、さっさと北へ帰りな」


「...嫌だね、北の餌はもううまくねえんだ。極上で別嬪なもの、求めて南へ来た。あるんだろ?」


「で、その子、食うわけか?」


「ああ、そうだぜ?」


ひいぃ食われる〜はっきり食うって言った〜


「やめときな、その子、都会人だし、バレたらお前ら一族根絶やしにされんで」


え?なんであの河童さんは私が都会から来たって...


「人間なんか怖かねえが、まずいんなら、要らね」



私をひょいっと投げ飛ばした。


「大丈夫か、怖くなかったか?」


私は震えながらも縦に振った。


「じゃあよ、主さん?俺に飯をくれ!群れ一同、腹減ってんだ。」


「あげて、早々に帰るならいいがな。もし、すぐに帰んなかったら知らんで?」


「ああ、もちろん」


人狼は不快な笑みを浮かべる。


「結菜、あんたは帰りな。そして、二度と絶対にここに来るなよ!絶対に!」


私は彼?とはじめての約束をした。私は気になりながらも言われた通り、元来た道を戻る。



「さて、行こか」


河童は足早に人狼らを連れて、奥地へ進む。つるに噛まれた鉄筋コンクリートのかたまり。元はここに大きな病院があった。今では廃れており、至る所が壊れている。


「ここは自殺の名所、ようさん人間がここで死ぬ」


「...肉、いっぱいだな〜でも、悪いが俺ら腐ってる奴は喰わねえぜ?食うのはアレみたいなんや」


後ろから、腕を鷲掴まれた結菜の姿。


「えへへ、捕まっちゃった♪」


「おい!なんで着いてきたんだ!」


結菜は自分の知的好奇心に負けてしまった。


「俺らはフレッシュが好きなんよ。新鮮肉こそ至高だぜ」


「はあ、どいつもこいつも......」


そう言うみどりの生命体。雲行きが怪しくなってきた。


「お前ら、河童の雨乞いは覚えてねえか?」


人狼の首領含め群一同固唾を飲んだ。それは紛れもない屈辱な歴史、かつての昔の出来事。人狼が住まう集落にてが引き起こった。


それらの天変地異はあるが原因だ。そのうちの一体が今人狼らの目の前にいる。


「くへ、ちょうどいい。我ら人狼一族、積年の恨みを今晴らすぞ」


人狼らの目的が変わった。


「嬢ちゃん、これは借りや。いつか絶対に返しに来いよ?」


そう言うと、結菜を助ける無数の白い何か。人狼らはなんと私がいなくなったことに気づいてない。


「水遁、激流天下天叢雲剣げきりゅうてんげアマノムラクモ!!」


牙狼点睛がろうてんせい!!」


黒く染まる雲々から降りかかる無数の雨の矢、それは集中的に人狼に刺し抜く。人狼共は、血飛沫をあげて倒れ込む。その様子を見た結菜、そこに映っていたのは圧倒的強者として立ち尽くす...






あれ?さっきまでわたしの身長以上にあったはずの河童さんが!私の身長の半分にまで縮み、老人みたいな見た目から若々しい子供の見た目になってしまった。


「どや、これが弱肉強食の世界や!人狼共!!」


ちっちゃな体で高く出す声。


「...ヤッベェな、こんなにもが...妖魔力すべてなくなっておる...しゃあねえ、嬢ちゃんよ!コダマが言っておったこと、聞いてるな?ワイはこれから嬢ちゃん家に住むからな!」


結菜は唖然と驚き、ちっちゃくなったかっぱを手に乗せた。








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