9.追憶の真昼


『まひる!まひる!!あそぶよ!』

『まってよ!ちからがつよい!』


 小さい頃飼っていたオスのコーギーは私にとってお兄ちゃんのような存在だった。

 私は小さい頃から動物の声が聞こえた。自分の言葉を動物に伝えることができるのも同じ時期だったと思う。

 両親はそれをすごいと称賛し、当時飼っていたペットの犬の通訳をお願いするくらいには私を信じてくれた。


「真昼、なんでずっとそこでおしゃべりしてるの?」

「うさぎたちとお話ししてるの」


 でも小学生になると、ウサギ小屋の前でウサギたちと会話している私がおかしなヤツだと気味悪いとクラスメイト皆に広がり、遂にはいじめにも発展した。


「真昼のそれは誇らしい力だけど、信じることが出来ない人は多いから」


 それは母から散々言われたことだ。いじめられたことも相まって私はこの力を隠すようになった。

 散歩に連れて行かれる犬を見ても、ペットショップで展示されている猫たちを見ても、駅で見かける鳩やゴミ捨て場にいるカラスを見ても私は、彼らの言葉を無視するようになった。

 でも私は人の気持ちを理解することが出来なくて、クラスの中で孤立することが多かった。動物の言葉が聞こえても人間の気持ちは理解できなくて、いつの間にか私は体調を崩しやすくなった。

 両親からの気遣いでまた犬を飼ってくれたけど、やっぱり10年すれば死んでしまった。


 そんな生活を送る中両親は交通事故で死んだ。

 私は唯一の血縁であるおばあちゃんに引き取られることになった。


「この家猫でも飼ってるの?」

「飼いたいんだけど、この歳だから飼えないのよ」


 おばあちゃんが飼いたいと言っていた猫が誰なのかはすぐにわかった。

 飼い猫かと疑うくらい毛並みのキレイな三毛猫だった。図々しいような態度に腹が立ったけど、人間の言葉を理解できる猫を見るのは初めてだった。


「なにあの図々しい猫」

「でも律儀に私のご飯食べてくれるのよね」


 おばあちゃんも私の力は多少知っていたけど、そんなおばあちゃんも持病があった。

 私も病院に通っていた。医者にも自分の力について話すことが出来なくて、遠回しに嫌なことを話せば医者からは「人の感情に敏感になっているんだね」と言われた。間違いではないので少しだけ腹が立った。

 そんな祖母も倒れて、入院することになった。医者からは余命僅かであると言われた。


「みーちゃんのご飯あげないと」

「私があげてくるから」


 そんな祖母は私よりも猫ばかり心配していた。

 祖母から猫まんまの作り方を聞き忘れてしまったのでかりかりとか色々持ってきたら、多少疑われたけど、ある程度は食べてくれた。

 興味本位でその猫と会話をしてみた。おばあちゃんは8歳くらいと言っていたけど、確かにこの猫は猫にしては賢かった。


 私はこの三毛猫を何が何でも欲しくなった。動物を飼うにはお金も手間もかかるのは知っている。それでも子猫と一緒に来た時は普通に嬉しかったし、家に入ってくれたからそのまま一緒に住んでくれるものだと思っていた。


 だけどアルバイトから帰って来てみれば、これでもかというくらいに散らかしまくった部屋にはミケはどこにもいないし、散らかした犯人であろうチビクロがしれっとした顔で毛繕いをしていた。

 説教してやろうと思った矢先、病院からおばあちゃんが病院から居なくなったという連絡を受けた。


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