07.結婚式だ。みんなグラスは持ったな!?


 ガブリエラ・マインズフィール。21歳になりました。



 現在未婚。婚約者はいますがまだ結婚してません。

 婚約者は爵位と年齢が釣り合うこともあって第三王子のルード・アルセール殿下。本人の希望もあって王位継承権は放棄済みで、最低限の公務以外にはゆっくりすごしたいなぁーと本気で言っている人だ。



 問題は、相手は王位継承権を放棄しているとはいえ王族。結婚した後は新しい公爵になる予定の相手である以上、自分の趣味に付き合わせるのはどうかと少ない(ここ重要)常識がささやいた。



 自分が自由に生きるため。

 水の研究こそが私の人生と本人に告げたうえで、貴族としての良い妻にはなれないから婚約破棄させてほしいといったことがある。



「あぁ、趣味に没頭するのは楽しいよねぇ。僕はそれでもかまわないよ」



 そう言われて婚約破棄は失敗した。ちっ。

 考えようによっては、理解のある夫となるわけだからいいかなーと思えるようになった。ここ1・2年の話だけどね!さらば前世から続いた独り身よ……。



 さて、今回の本題にはいろう。

 当人があんなん(不敬)であっても、さすがに結婚しないわけにはいかない年齢だ。むしろ、よくこの年齢まで伸ばしてくれたものだと驚いているくらいだ。あ、マインズフィール侯爵家は私の上に5人もの兄がいます。ですので跡取りとサポート役。出稼ぎ役とばっちりなので私がいなくても何とかなるでしょう!唯一の女の子といったことで溺愛状態なので、いつまでも家にいてくれとか言ってる兄様方(プラス父)は無視です無視。



 結婚式に関しては水の話題はあまりない……わけではない!



 今回、私は日本の伝統的な婚礼儀式。

 『水合わせの儀』をやろうと計画中だ。



 儀式の内容をまとめると、互いの家から水を汲んできて、それを混ぜる。混ぜた水を二人で飲んで、それによって新しい家族が生まれたという意味合いを持たせる儀式だ。現代ではアレンジされた儀式いくつもある。お互い違う色を付けた砂をまぜたり、一つの樹木に二人で水を注いだり、大きな瓶に果実を詰め込んでお酒を流し込んで果実酒作りなんてものがあった。

 


 前世でもやってみたかったが結婚はしていなかったのでできずに終わった。せっかく、機会を与えられたのであればぜひやってみたい。

 問題は、今の世界の考え方でこの儀式が受け入れられるか、だ。



 まだまだこの世界における水の衛生基準的なものは低いし、毒物なんかの混入の危険もある。加えて貴族同士の結婚は家の存続が目的。新しい家を作るという考えは否定されそうだなと考えてしまったのだ。珍しく、真っ当な思考である。



「大丈夫だと思うよ?今後、僕は王弟として一代限りの公爵になるから新しい家が生まれるってのはあながち間違いじゃない。あ、それと新しい公爵の名前なんだけど何か良い案は……」



 相談したはずが、新しい公爵家の名前相談をされてしまった。この人と話しているいっつもペースが乱されるんだよなぁ……。



「あの人、私を見てる目が人というよりは珍獣を眺めている目なのよねぇ。害はないからいいけどさ」



 その勘は当たっている。



 ルード・アルセール第三王子。別名、完璧超人されど趣味人。彼にとってガブリエラ・マインズフィールという侯爵令嬢は既存にないものを考え、生み出している面白い観察対象なのだから。

 一応、結婚した後は彼女が貴族として致命的なまでに無頓着な部分である、名声や利益の管理などを父であり現在の国王からも頼まれており、本人も了承しているので――



 僕はそれはもう『良き協力者』になることは間違いなよ?ふふっ。by腹黒王子



 そんなことはつゆ知らず、気づいたとしても気にしないであろうガブリエラは考え続ける。この世界で水合わせの儀を行うのであれば、どんなアレンジをすのかを。



「せっかく魔法のある世界だし、殿下も水魔法は使える……。ならば!!」



 案は定まった。




 半年後の結婚式当日。




 新郎ルード、あなたはガブリエラを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?



  ――誓います。



 新婦ガブリエラ、あなたはルードを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか? 


 

  ――誓いますわ。



「では、お二人の結婚を祝い、水合わせの儀式を行っていただきます」



 神父様に対する誓いの言葉とともに儀式を促され、二人が前に出る。

 本来であれば持ち込んだ水を混ぜ合わせて飲む儀式だが、そのままだとつまらない。



 ここが最初で最後の見せ場よ、私!



「みんな、グラスはもっへぶぇ!?」



 前世ではとても有名だったセリフ風に言おうとしたら殿下(結婚するんだから旦那さま?なんかこっぱずかしいわね!)に無言でどつかれた。結婚式で新郎にどつかれる新婦という、衝撃的な光景は来賓たちの記憶に深く刻まれたことだろう。



「失礼した。皆、グラスをもって少し高い位置に掲げてほしい」



 水合わせの儀という、聞きなれない言葉に戸惑いながらもルードの言葉通りに全員がグラスを掲げる。



「ほら、ガブリエラも」



「う~~、はい」



 痛みをこらえながら差し出された手を取って立ち上がり、二人で何も持っていない手を天へと伸ばす。



「「アクアクリエイト」」



 発動させたのは、水魔法でも初歩中の初歩。ただの水球を発生させるだけ魔法だ。それぞれがバスケットボールサイズの水の球体を作り出し、少しずつ、息を合わせえてその形を変化させていく。二つの球体が砂時計のような形でつながり、混ざり合い、一つの大きな輪っかとなる。

 この時点で周りの人間が息をのんだ。別々の人が使う魔法を合わせるのは合成魔法というれっきとした高等技術。行使しているのが初心者レベルの魔法でもそれは変わらない。互いの制御技術の高さと息が合わないと成功しない。にもかかわらず、それをやっている二人の顔に苦戦している雰囲気は欠片もなく、むしろ楽しそうですらある。



 そして今も、二人は顔を合わせてう頷きあった。



「「アクエリアス・ウォルト」」



 水の輪っかが次第に下へと降りていき、ツボのような形へと作り変わる。

 水でできたツボは少しだけ傾け、その中から来賓が掲げているグラスへとめがけて飴玉サイズの水が飛んでいって一瞬にしてグラスが満たされた。



 合成魔法に続いて多重遠隔操作。そして飛んで行った水を起点とした更なる水の増加。二人が見せた技術は宮廷魔術師すらも超えており、驚きのあまり来賓の全員が口を大きく開いて固まっている。



「これより僕はルード・アクエリアス。彼女はガブリエラ・アクエリアスと名乗る。皆、よろしく頼む」



「ちなみに、この魔法は私が考えたオリジナル魔法ですわ(どやっ」



 私的には魔法のほうが重要なのでどやってみた。あ、アールとお母様が呆れた顔になってる。



 今まで発表されていなかった一代限りの公爵としての名前の公表。そして二人がかりで発動するオリジナル魔法。

 まったくもって普通の結婚式で行われることではないが、良い意味でも悪い意味でも楽しめる。話題性にことかかない結婚式となった。


 

 アクエリアス公爵夫妻。

 水にあやかった家名を名乗った二人は、次第に影でささやかれるようになる。



 ――水の貴公子と水の賢者、と



 公爵としての二人に王都からは飛び地となっていた王領が領地として与えられた。

 その領地選択にガブリエラの意向が――ガッツリ関与しているのを知っているのは一握りである。もちろん、そうなるようにあれこれと他方への手配したのは完璧超人のほうです。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


更新が遅くなって申し訳ありません。

いつもそう言ってる気がする大熊猫小パンダです。


ヒロインがさらに暴走するためのジョブチェンジ。もとい公爵夫人となりました。

どうか、作者ともどもあたたかーい目で見ててあげてください。


P.S 体調ってどうなればよくなるんだろう……


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