第22話 人面犬より犬面人

「うげぇぇぇ……」

 帰還したトマ、乗り物酔いである。

 どうも、あの世と、この世は道が悪いせいか、移動には悪路にゃ強いが乗り心地なんて求めていない、そんな感じのようだ。

 それ以前に、身体の急激な変化と魂レボリューションを同時に熟しているのだ吐くくらいは許してあげたい。

 ひとしきり吐いて、落ち着いてくると周囲の静けさに気づく。

「静かだ…」

 だが、耳に聴こえる聞きなれた娘2名の悲鳴…

「静かというか…うるさいのだが…なんだ?」

 そう、騒がしいのは周囲だけで、静かなのは己だけなのだ。

「というか…心臓の鼓動を感じない…」

 そう騎士団長トマ・トアッカイ…死亡しているのだ。

 肉体的には…。

「月が綺麗だな~」

 満月の力を死んだ身体いっぱいに浴びて元気いっぱいで復活を遂げたトマ。

 以降『吸血騎士団長(仮)・トマ』と呼称したい。

「寄るなー‼ 変態ー‼」

 完全に吸血鬼『ヌラッチョ』改め『マック』に遊ばれているクイのソウルフルな叫びが寝ぼけているトマの目を覚まさせる。

「クイ殿…騎士団長トマ、今参る‼」

 まだ自分が死んだことを受け入れていないのか気づいていないのか…とにかく急げトマ‼ クイに後遺症が残る前に‼


 ………

「抜いていいのかな~」

 変態をクイに押し付けて、自分だけ魔剣ダレヤネンの元に逃げてきたココ、狼男を地面に張り付けて一応、動きを抑えている現状は理解している、それゆえに抜いていいやら悪いやらで悩んでいるのだ。

「抜いたら暴れるしな~、抜かないとクイを助けに戻れないしな~」

「おっふぅ…はっふぅ~」

 なんかいい感じに仕上がっている狼男ダックスの恍惚の表情を受け入れられたのは、顔がイヌ面だからである。

 コレが人面だったらココがまた「ひゃぁぁぁ…」となるはずである。

 それほど気持ち悪く生気を吸われ、恍惚に浸っている狼男ダックス。

「抜いてくれよココ…もう大丈夫だって、胃もたれしそうなんだ俺」

 魔剣ダレヤネン、謎の金属で構成されたボディのどこが胃なのか解らないが、どうも満腹であるらしい。

「えっ? じゃあ抜いてみる?」

「おう‼ ズポッと抜け‼」

「いくよー‼」

 ズポッ………

「はぅん……」

 しばしの沈黙の後、狼男ダックスがムクッと起き上がった。

 月を見てボーッとしている。

「何アレ? なんか悟ったような顔をしてる…あの犬」

「女には解らんだろうが、賢者タイムというやつだ…ソッとしておいてやってくれココ」

「賢者タイム? 犬のくせに」

「それより戻るぞココ‼ クイの方が心配だ…色んな意味で‼」

「そうね‼ 戻るのは気が引けるけど…色んな意味で‼」

 変態の元へ戻ること、そして、クイに変態を押し付けたこと、色んな意味で戻りたくはないのだが、そうも言っていられない。

 ダッシュで変態の元へ駆けつけたココ。

「トマ?」

 ヌラッチョ伯爵…吸血鬼マックの前に剣を構えたトマが凛と立っていた。

 ココが『?』になったのも無理はない、その立ち姿は、あのトマとは思えないくらい頼もしかったのである。

 現に吸血鬼マックを気迫で押しているように見える。

「紳士が…縮んでいる…」

 ココがボソリと呟く。

 そう、あの紳士が委縮していたのだ。

 ココに気づいたクイがココに走り寄りゼーッ、ゼーッと荒い息を整えている。

「ビックリしたわよ実際、トマがとんでもねぇ速度で助けに来たときにはさぁ」

 ココの背中に隠れて座り込むクイ。

「トマが助けに来てもねぇ…」

 ココが魔剣ダレヤネンをカチャッと構える。

「いや…ココ…トマなのか?アレ」

 魔剣ダレヤネン、トマの背中に違和感を感じていた。




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