第19話 腹が減っては戦はできぬ

 消えた焚火に頭を突っ込むように倒れた狼男ダックス、その姿を咎める伯爵。

「はっ…伯爵さま~」

 情けない声でHELPを求める狼男。

 満月の強キャラのイメージを感じない。

「隙あり‼ …ですねん」

 倒れた毛のない狼男に剣を突き立てる騎士トマ。

「ギャンッ‼」

 狼男の尻にちょっぴり剣の先端が刺さり、毛のない尻尾がピンッと立つ。

「ホッホッホッ、無駄ですよ~満月のダックスを普通の武器で傷つけるなど、並の腕では出来ませんよ~」

 ヌラッチョ伯爵が馬鹿にしたように笑う。

「確かに、トマは並以下の騎士よ、だがしかし、コレならば‼」

 ズブッ‼

 クイが銀製のフォークをダックスの尻に深々と突き刺した。

「ギャワワワーン‼ 痛っーーーー‼はっ…は~くしゃく様~」

 尻を抑えて転げまわる狼男ダックス。

「おのれ~、銀製とは…侮りがたし…処女の小娘~、コレはおしおきが必要ですね~」

 紳士を月明かりに晒していた伯爵、紳士は月に向かってそびえ立ち完全回復を遂げていた。

「もう嫌だ~‼ カオスだ~‼ 変態と毛のない犬…嫌いだ~‼」

 ココはもうキャパを超えた世界に混乱気味である。

「うっさいわね~、叫んでないで剣を振りなさいよ‼ アンタそれしか能がないんだから‼」

 クイがココを怒鳴る。

「うわぁぁぁぁー‼」

 半狂乱のココが魔剣ダレヤネンを大きく振り被って伯爵の、そそり立つ紳士の

 根元目掛けて振り下ろす。

 ギィィーンッ‼

「えっ?」

 まさかの金属音…

「うそ?」

 動揺するココ、そそり立つ紳士が硬くなることは知っている。

 大きくなることも知っている。

 だけど金属音がするとは…予想外だったのだ。

「う~ん? どうしましたお嬢さ~ん、アテクシの紳士が何か?」

 伯爵がニタニタしながらココの顔に紳士を近づける。

「いやぁぁああー‼ ダレヤネンより堅~い‼」

 様子を見ていたクイ。

(マズイ…相性が悪い…)

 そうココとヌルッチョ伯爵は、どうも相性が悪い。

「チッ‼ 変わりなさいココ、アンタは犬をやるのよ‼」

「そうする~…アレ嫌~い‼」

「トマ‼ フォークを‼」

 トマ、一生懸命毛の無い狼男に剣を突き刺していたが、すかさずフォークを装備した。

「銀は有効よね? 吸血鬼さん」

「ヌフフフ…試してごらんあれ」

「遠慮なくいきますねん‼」

 トマが両手にフォークを待ち伯爵に向かっていった。


「とはいえ…アタシ…この毛の無い犬も苦手です」

「ココ…話がある」

 魔剣ダレヤネン真剣な声でココに話しかけた。

 狼男ダックス、ダメージは大きいようで未だ地面で、のたうち回っている。

「なんか…変だ…俺」

 言われてみれば、いつになく禍々しさに欠けているような気もする。

「なに? チャンスなんだけど、今ならイケそうな気がするんだけど」

「まさか?」

 詠唱に入ろうとしていたクイがダレヤネンの異変に気付いた。

 魔剣ダレヤネンから魔力を感じないのだ。

「枯渇…」

 クイが小さく呟いた。

「オホホホ、処女のお嬢さ~ん、気づきましたか? アテクシの紳士を切り落とせないのも満月のせいだけではありませんよ~」

「そういうこと…なのね」

 クイは理解した。

 魔剣ソウルイーターは生きている者の精気を吸って魔力へ変える。

 アンデッド相手では魔力を吸われているのでは?

「そのと~り‼」

「人の心を勝手に読むんじゃないわよ‼」


 魔剣ダレヤネン…魔力枯渇

「窮地にピンチを重ねるなー‼」

 クイが満月に吠えた。

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