第35話 地獄のレベル上げ合宿
「カモがネギ背負ってやってきたってところか」
俺は魔王討伐隊志願者の名簿を眺めながら、そう言った。
そこには、あのアルト・フランシフォンの名前が刻まれていた。
最初、俺はなんと厄介なことになったと思った。
なんで俺に破滅をもたらす勇者アルトが、こんなところにいるんだと。
だがよくよく考えてみると、これは好機じゃないか?
クレア姫と俺は、今は形だけの婚約状態にある。
だが俺がアーデと結ばれるためには、ゆくゆくはいずれ、クレアをなんとかしないといけないわけだ。
俺は考えた。
よし、クレアをアルトに押し付けよう。
ていうか、そもそもの話、もとのゲームではクレアとアルトは結ばれるはずなんだから、なにも問題はない。むしろそっちが正規ルートなんだから。
今からアルトを全力で鍛える。そして光の勇者として覚醒させるのだ。
そうすれば、きっとアルトは簡単に魔王を倒してくれるだろう。
奴にはそのポテンシャルが十二分にある。
そうなれば、クレアもアルトを見直して、奴に惚れるに違いない。
俺はといえば、陰の立役者に徹すれば目立たずに済む。
魔王を直接倒したりなどの、目立つ手柄はすべて、アルトにくれてやるのだ。
そうすれば、王様もアルトのほうを評価し、クレアとアルトの結婚に文句はいわないだろう。
クレアももともとはアルトのことを好きになるキャラなんだから、ちょっと手助けすればすぐにくっつくだろう。
俺は魔王を倒せなかった力不足の男として、ひっそりとフェードアウトすればいい。
よし、完璧だ。なんと完璧な作戦だ。
俺のやることはただ一つ。
この歪んだ物語を軌道修正して、アルトをもとあるべき位置に戻すのだ。
そうすれば、面倒なことからすべておさらばできる。
面倒は全部アルトに押し付けてしまえばいい。
しかも、完璧なことに、こうすればアルトに恩を売れるわけだ。
俺はアルトに魔王討伐させることで、奴から師匠として慕われる。
そうすれば、アルトに断罪され、破滅フラグになることもないだろう。
まあ、そもそも俺は断罪されるようなことはなにもしていないんだが。
とにかく、むしろ篤人は俺のことをかばってくれるようにすらなるはずだ。
完璧じゃないか。
「よし、そうと決まれば……」
俺は志願者たちに選抜試験を行った。
さすがに戦闘に向かない、明らかに才能のないやつや、やる気のなさそうな奴を弾いていく。
書類選考と面接で、なんとか数を50人ほどに絞る。
集まった志願者たちには、とりあえずドミンゴに指揮をとらせて、自主訓練をしてもらおう。
俺は隅のほうでぽつんとしていたアルトに、話しかける。
「おいお前、アルトとかいったな(すっとぼけ)。なんで魔王討伐隊に志願した?」
「ああ、エルド隊長。俺は、間違ったことや悪を許せないんです。なにか俺にできることがあるんなら、黙ってみているわけにはいきません」
アルトは、そんなふうに答える。
やはりな、アルトの性格からして、そんな理由だろう。
魔王討伐隊ときいて、こいつが来ないはずはないのだ。
アルトのレベルを調べてみると、奴はレベル6になっていた。
入学式のときはまだレベル1だったのに、この短期間で大したものだ。
そこはさすがは主人公補正というべきか。
学園の授業だけで、そこまでレベルが上がっていたなんてな。
この分なら、すぐにアルトを強くできるかもしれないな。
「よしアルト、君には才能があるようだ。俺が特別に修行してやろう。君にはゆくゆくは、リーダーを任せたい」
「お、俺がですか!? ありがとうございます」
アルトは大喜びで食いついた。
アルトは平民の出だ。
俺のような貴族からのこんな申し出は、喉から手が出るほどだろう。
まして今のアルトはまだ力にも目覚めていないし、クレアとも知り合っていないんだからな。
「よし、じゃあドミンゴと戦ってみろ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
俺はドミンゴとアルトを模擬試合で戦わせる。
結果はもちろん、レベル1700のドミンゴの圧勝だ。
ちなみに、俺はドミンゴに
だから――。
――ボキィ。
――ズギャバキ!
アルトはぼっこぼこのコテンパンにやられてしまう。
「ぎゃああああああああ!!!! いでええええええええ!!!! 骨が、骨がああああああああ! 腕があらぬ方向にいいいいい!!!!」
苦しむアルトに近づいて、俺はすぐさま回復魔法をかけてやる。
「エクストラヒール――!」
「こ、これは……?」
一瞬で痛みが引いて、アルトは不思議そうに俺を見上げる。
「お前の怪我はすべて俺が治そう。だから立ち上がれ、勇者アルトよ! そしてさらに高みを目指すのだ!」
「は、はい……!」
俺はアルトをその調子で鍛えていった。
何度もアルトに怪我をさせ、治し、鍛える。
負けても負けても、何度もドミンゴに立ち向かわせる。
強者と戦えば戦うほど、経験値は得られるものだ。
ふつう、強者と戦うのなんて、危険もいっぱいで怖いはずだ。
だが、俺の回復魔法でアルトをハイにして、何度でも立ち向かわせる。
これでレベル上げは完璧だぜ!
ちなみに、回復魔法と同時に、ちょっと気分がハイになる魔法をかけている。
ま、そのくらいは許せ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます