第45話:新たな予定


 「茜色の空、暁の翼」のラスボスは、魔王クリスでもなければ帝国皇帝でもない。

 ゲームの最終局面において戦うのは、古代種。

 帝都地下遺跡にあった巨大な古代機構に封じられていた、古の怨念だ。


 主人公達が帝都に攻め込み、進退窮まった皇帝は居城の地下にある遺跡に逃亡。

 そこで、古代機構を起動して最期の逆転を計る。


 この時、古代種が意識を乗っ取るわけだが、その対象が問題だ。

 古代種が宿るのはその時最も好感度の高いヒロインなのである。


 遺跡を発動させ、古代種の力を得るための条件は、古代種の末裔であること、そして女性であること。


 皇帝は宿った古代種を使役することを狙うが、それも空しく即座に消し飛ばされる。


 古代種の目的は強大なエネルギーを集めて、自らの位階を神へと引き上げること。

 遺跡は巨大な生け贄を支える祭壇であり、これまで戦乱で死んだ人々のエネルギーが集められている。


 古代種は覚醒し、遺跡は起動。ヒロインは背中から暁色の翼を生み出し、空は週末のように茜色に染まる。

 それが、「茜色の空、暁の翼」の最終決戦の始まりだ。


 この後、ヒロインを解放したり、ヒロインのデータを元に作られたラスボス第二形態が現れたりする。


「オレはこれを前提に動いてきたんですけど、全て台無しになりました」


 ヒロイン部分を用語を変えつつ、クラム様とフォミナ、ついでにクリスに向かってオレは説明をし終えた。


「クラム公、この男、気は確かですか?」


 事情を知らないクリスが正直な感想を言った。そりゃそうだ。


「妾もそう思いたいが、マイスはちと訳ありでな。今の話はかなり真実を言い当てている」

「ですね。だいぶ良くないです」


 事情を知るフォミナ達がいうと、クリスは腕組みをして悩み始めた。


「むー。荒唐無稽な話ですが。納得がいく部分もいくつかあるのは確かです。皇帝陛下は学術好きで、地下遺跡を先頭切って調べていた所、豹変しまして」

「なんらかの事情で機構が起動したんだと思う。帝都に他に異変はないのか?」

「そういえば、妙に疲れた人間が多いと最近は報告があったな。戦争で国民が疲弊していると解釈していたが」

「ふむ。もしかしたら、生きた人間からも生命力を集めているのかもしれぬな。その古代機構が生け贄から力を集めるものであれば、多少は応用も効こう」

「えっ、それだと帝国の人達も危ないって事ですか?」

「マイスの言うとおりなら、遺跡の力は周辺数カ国まで広がっているのであろう。中心にある帝国なら、影響は相当であろうな」

「ま、まずいです。すぐにどうにかしないと! 部下を集めて皇帝を討てばっ!」


 クリスが慌てて立ち上がるが、それをクラム様が手で制した。


「待つのだ。古代種は妾と同じく、今を生きる者達とは別種の存在よ。一筋縄ではいかん」

「マイス君、なにか考えはありますか?」


 じっと黙っていたオレに全員の視線が集中する。

 

 最初からオレの想定は崩れていた。既にラスボスが覚醒していて、皇帝を乗っ取っていたんじゃ話が違う。侵略のスピードが違うわけだ。皇帝は男、ということで情報をしっかり確認すべきだった。

 フォミナがオレのまとめた資料を見た時に突っ込みがなかったが、多分、皇帝の性別について言及していなかったためだ。まさか、そこが違うとは思わなかったから、詳しく書いていなかった。


 ……今更悔やんでももう遅い。それに、知っていてもとれる手段は多くなかったかもしれない。似たような道順をとっていた可能性は高い。

 こうなれば、次にオレが取るべき手段は一つしか無い。


「一刻も早く、皇帝を倒しに行きましょう。それしかない」


 ラスボスを倒す。これしかない。

 幸い、まだ王国と帝国の戦端は開かれていない。つまり、戦死者を生け贄とする古代機構はゲームの展開ほど力を溜めていないはずだ。

 それに、ゲームではラストバトルの戦況を踏まえて、ボスの能力が上下していた。戦乱の犠牲者が多いほど、ラスボスは強くなる設定だ。

 つまり、今の段階なら、最弱の設定よりも弱いラスボスと戦えるはず。


「勝算はあるようだな?」

「戦争が続いて死者が増える前に結着をつける。与える時間が長いほど、敵は強くなります」

「それはわかりますけど。どうやって帝都まで行くんですか? それに、皇帝を倒したら帝国内は大騒ぎになって、その後どうなるか読めませんけど」

「そこの魔王に協力して貰う。いいだろう?」


 フォミナの言うとおり、いきなり皇帝がいなくなったら帝国内は大混乱。余計なことが起きる可能性は高い。

 だからこそ、ここは魔王様に力を貸して貰う。さっきの様子を見る限りだと、自力で皇帝を止める気があったみたいだしな。


「……色々と思うとことはあるが、承知した。あたしにまた死ねとか言わないわよね?」


 ちょっと怯えた目をしながらの了承を受けて、予定より大分早いラスボス討伐に向けてオレは動き出すことになった。

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