第42話:割と話せる奴

 魔王クリス。ゲームにおいては敵であり味方。戦乱ルートでは全ての元凶ともいえる重要キャラだ。普段は暗黒騎士として皇帝に仕え、各所で色んな活動をしている。

 通称は「理想の上司」。報告、連絡、相談を欠かさず、必要とあれば現場に自ら乗り出して事態の解決に当たる。失敗した部下へのフォローは忘れず、まず話を聞く姿勢を見せる人物でもある。


 おかげで、オレも話す機会を得ることができた。

 戦乱ルート以外では主人公とヒロインを見て戦争へ向けた陰謀を取りやめるくらいの人格のできた人なのだ、彼女は。

 話せば何とかなるかもしれない。そう考えてきた状況を作ることに、オレは成功していた。

「まず自己紹介だ。オレはマイス。冒険者だ」

「知ってるわ。ただの冒険者じゃないでしょ。ムスペルにメッセージまで持たせて、名前まで名乗ったんだから、それなりに調べたわ。三次職おめでとう」


 本当にしっかり調べられていたらしい。結構前からオレがここにいることに気づいていたのに、なにもしなかったのか?


「なんでここにいる? オレのことを知っていたなら、なんで何もしなかった」

「不気味だからよ! こっちが工作しようとした所、先に塞いで来るし! なんかおっかないプリーストの上位職みたいのと一緒にいるし! 妙に気配に敏感だし!」


 慎重派め、一瞬でもオレに殺気を向けていればもっと早く気づけていたのに。しかし、結構有効だったんだな、イベント潰し。


「まあ、いいわ。こうして一対一で話せるんだもの。あんた、なにが狙いよ」

「平和だ。戦争をやめてくれ」

「……無理ね。帝国は商業連合と開戦して、連戦連勝。この流れがある以上、あたしの手ではどうこうできないわ」


 クリスの回答はわかっていたことだった。勝ってる国は早々停戦しない。このままいけば、どうしたって一戦交えることになってしまうだろう。


「そこをなんとか。魔族の移住先におすすめの場所を教えるから」

「あんた滅茶苦茶言ってるわね。それ聞いて、たとえあたし達にとって有用でも止まれないって言ってるでしょ」

「いっそ魔族を率いて帝国から脱出して欲しい。そうすればオレ達が楽になる」

「あたしに皇帝陛下を裏切れっていうの!」


 突如、目を剥いてクリスが激高した。


「…………?」


 なんかおかしいな。クリスにとって一番大事なのは魔族の同胞で、皇帝なんか利用する価値がある人間くらいの感覚なはずだけど。


「一つ聞く。クリス、お前の目的はなんだ? なんで戦争に加担する」

「もちろん、皇帝陛下と帝国のためよ!」


 ……これ、もしかして洗脳されてないか?


「落ち着け、深呼吸してくれ。そして、ゆっくり思い出すんだ。昔のことを、なんで自分が頑張って帝国の重鎮にまで成り上がったかを」


「……あたしは……帝国で……魔族の同胞のため……」


 いいぞ、思い出してる。彼女が今の地位に駆け上がるまでの原動力は同胞のためだ。それ取り戻せ。


「……同胞と、なによりも皇帝陛下のため。帝国に勝利を……うっ」


 いきなり頭を押さえて苦しみだした。顔色も悪く、真っ青だ。


「おい、大丈夫か?」

「なんだ? あたしの頭の中に、あたしが二人いる。……気持ち、悪い……」


 魔王は伊達じゃない。あらゆる能力が並以上だ。もしかしたら、洗脳に抵抗できているおかげで、精神に負担が掛かり始めてるのかもしれない。


 どうする? ウィザードの魔法に洗脳を解除するようなものはない。フォミナの回復魔法ならどうだ? リフレッシュというあらゆる状態異常を治すのを持っているが。

 いや待て、この状況をフォミナに説明するのは大変だ。それにエリアも一緒に居る。帝国の幹部を町の中で捕らえたとかいったらきっと大ごとになる。

 せめてもう少し彼女とまともに話してから、そっち方面の行動を選択したい。


「仕方ないか……」


 他にとれる手段といえば、一つしか無い。ここが頼りどころだ。あの人なら、ゲームにない手段も色々ともってるだろうし。


「移動するぞ、魔王クリス。まず、その状態を治して貰う」


 オレが肩に手を置くと、荒い息を吐きながらクリスが聞いてくる。


「どこに……行く気だ」

「流血の宮殿。クラム様に会って見て貰う」

「ちょ……まっ……」

「テレポート」


 クリスが抗議しようとしてきたが、オレは問答無用でテレポートした。

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