三つ子のシェアハウス⑤




午前中は家事をこなしているとすぐに時間が経ってしまった。 洗濯は愛菜がやり掃除は三人に任せてある。 休日など時間がある日には愛菜も掃除を手伝っていた。

それがひと段落し今は昼食を作っている。


「今は何を作ってるの?」


そう言いながらキッチンへとやってきたのは蓮人だった。


「蓮人くん! 今作っているのは焼きそばだよ。 蓮人くんは好き?」


―――蓮人くんとはよく話すようになった。

―――出会いが悪かっただけにそれがたまらなく嬉しい。


蓮人は質問に答えることなく腕捲りをして手を洗い始めた。


「? 手洗いなら洗面所ですればいいのに」

「俺も手伝う」

「手伝うって? もしかして料理を!?」

「うん」


手が空いたから手伝いに来てくれたのかもしれない。 シェアハウスへ来た当初キッチンの異様な散らかり具合からして蓮人は料理が得意ではないだろう。

しかしそう決め付けるのは失礼であるし、ただ片付けるのが苦手なだけかもしれないと考える。


「・・・その、蓮人くんは料理が得意なの?」

「兄弟の中では一番マシというだけ。 で、俺は何をしたらいい?」


一応掃除ができることはここまで生活して分かっている。 おそらく教わっていないから分からなかったのだ。 この後は手順を教えつつ一緒に料理を作った。


―――まさか蓮人くんが料理できるとは・・・ッ!

―――しかも手伝ってくれるとか意外過ぎる!

―――一ヶ月前の蓮人くんでは想像つかない!

―――同時に共通点のプリンも見つかって本当によかったな。


作っていると蓮夜の声が聞こえてきた。


「愛菜ちゃーん」

「うん? 蓮夜くんの声だ」

「ごめん、もう上がる」

「え? あぁ、うん」


蓮夜の声が聞こえると蓮人はそそくさと二階へ上がってしまった。 丁度蓮人とリビング前ですれ違ったようで蓮夜が尋ねてきた。


「蓮人? 今まで蓮人と一緒にいたの?」

「うん、まぁね」

「へぇ・・・」


不思議そうに蓮夜は二階を見上げた。


「どうかしたの?」

「ううん、別に。 蓮人が女の子と一緒にいるところをあまり見ないからね」

「そうなんだ・・・」


―――確かに蓮人くんは誰かが来るとすぐにどこかへ行ってしまう。

―――それだけが気がかりだけど蓮夜くんがそう言うなら単に恥ずかしいだけなのかな?


「それで蓮夜くんはどうしたの?」

「愛菜ちゃん、後で買い出しへ行くって言っていたよね? 僕も一緒に行くから何時頃に行くのか聞いておこうと思って」


夕方には買い出しへ行くと蓮夜と約束し、この後は4人で昼食をとった。 そして午後は自室へ戻って課題をやっていた。 その時に蓮人がやってきた。


「蓮人くん? どうしたの?」

「分からないところがあるから教えてほしいんだけど」


蓮人だけが一緒のクラスになり他の二人とは別々である。 快く部屋へ招き入れ勉強を教えてあげた。


「そういうことか。 納得した」

「本当? お役に立てたなら何より」


話がひと段落すると蓮人が突然尋ねてきた。


「・・・あのさ、好きな人いる?」

「え、急に何? 私のこと?」

「うん」

「今は特にいないかなぁ・・・」


そう答えると蓮人は身体ごと愛菜の方を向いた。


「じゃあ本気になってもいい? 愛菜のこと」

「え・・・」


初めて蓮人に名前を呼ばれた。 それ以上に今凄いことを言われ、余計に思考が停止する。 その時廊下から蓮司の声が聞こえてきた。


「おーい、蓮人ー? 服をリビングに脱ぎっぱなしにするなよー」


それを聞いて蓮人は急いで荷物をまとめた。


「ちょっと、蓮人くん!」

「今のは告白とかじゃないから。 ただ言っておきたかっただけ」


そう言うと蓮人は足早に出ていく。 しばらく愛菜はドアを見つめたまま固まっていた。


―――・・・本気になってもいいってどういうこと?

―――もしかして、恋愛的な意味で・・・?


愛菜は顔を赤くし足音が完全に聞こえなくなってもドキドキしたままだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る