吉彦

シートにもたれかかった吉彦は、窓から隣にあるマンションを見張っている。


ターゲットの行動パターンは調査済みだ。ほぼ毎日、深夜一時~二時辺りにこのマンションに帰宅する。

時計を見ると、深夜一時。人通りは無く、車すら通らない。そろそろ来る頃だった。


ーーーー来た。


駅のある方角から、サラリーマン風の男が一人歩いて向かってくる。

誰もがよく着る水玉模様のスーツに水玉模様のネクタイを身に付け、水玉メイクを施し完璧にこの社会に馴染んでいるのがよく分かる姿だった。


吉彦が最も嫌悪する人種


吉彦はハイエースの運転席から、後部座席へ移動した。


男がハイエースに近い場所まで来た時素早く扉を開け、口を押さえながらスタンガンを首筋に押し当てた。

男が脱力すると、車内に引きずり込みもう一度スタンガンを、今度は気絶するまで押し当てる。

気絶した男の両腕を後ろに縛り、足も拘束すると、運転席へ移動しハイエースを走らせた。



車を停めた場所は、山奥の広い駐車場。昼間は観光客がチラホラやってくるが、この時間帯は誰もいない。


吉彦は再び後部座席へ移動した。

後部座席にはブルーシートが敷かれており、隅にはこれから使用する道具類がまとめて置いてある。


男は未だ、気絶したままだった。

吉彦は、いつものやり方で進める事にした。

男を仰向けにして、道具類の中から金槌と五寸釘を取り出し、拘束した両足のこうに釘を固定すると、金槌を持った腕を振りかざした。


鋭い音と同時に、足のこうに釘が打ち込まれる。

男は激痛に目を覚まし、絶叫した。

これで足が固定され、より身動きをとり辛くなったはずだ。


集合体恐怖症の吉彦は、男が身に付けている水玉模様のスーツやネクタイなどを刃物を使って剥ぎ取っていた。

ついでにシャツや下着類まで剥ぎ取り、全てビニール袋に保管した。後で燃やすつもりだ。


目覚めた男は動く範囲で辺りを見回し、恐怖と驚愕の表情を顔に張り付かせている。


「だ、誰なんだ?!一体何でこんな事を?!」


吉彦は男の問いに答えず、言った。


「あんた田辺さん、だっけ?水玉模様が好きなんだな。」


「あ、ああ。」

男ーーー田辺は怪訝な顔で肯定した。それが一体何なんだ?とでも言いたげだ。


吉彦は田辺の首を片手で掴んだ。恐怖で目を見開く彼の鼻先に、セットしたインパクトを突き付ける。インパクトはスイッチを押すと、音を立てて金属部を高速回転させた。


「あ…あ……す、すまない…金は出す、何でもやるから許してくれ」


「俺は親切だからさ、田辺さんに水玉模様をプレゼントしようと思ったんだ。」


残忍な光で輝く目を三角に細め、口角を上げる吉彦は、田辺の哀願がまるで聞こえなかったかのようだった。






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