あなたのおよめさんにしてください。

『……本当の気持ちを、聞かせてくれないの?』


 不意を突かれて俺、三枝康一さえぐさこういちは返事にとまどってしまった。

 わずかな沈黙が俺の想いとは逆に相手に伝わってしまう……。


『やっぱり困るよね、急にこんなこと言われても……』


 夕焼けが公園の遊具に深い陰影を落とし制服姿の彼女が寂しげに微笑んだ。

 触れたら壊れてしまいそうな白い肌、艶やかな長い黒髪の少女、

 柔らかそうな口唇こうしんの動きに思わず視線を奪われてしまう。

 完璧な美少女が俺の前にたたんで、静かに俺の答えを待っていた……。


『突然、転校するって聞いたときは本当に驚いたけど、俺の気持ちは変わらないよ。たとえ離ればなれになっても君のことが好きだ、大好きなんだ!!』


『……嬉しい』


 憂いを含んだ彼女の瞳に大粒の涙があふれた……。


『約束するよ、十年後の八月、この場所で逢おう、君に相応ふさしい男になってかならず迎えに来るよ。そうしたら……。俺と結婚してくれ!!』


 ついに言ってしまった……。 羞恥心しゅうちしんで耳まで赤くなるのが自分でも分かる。


『嬉しくて涙が止まらないよ……。 こんなに泣かせた責任を取ってくれる?』


 涙で顔をくしゃくしゃにした彼女が真っ直ぐにこちらを見据え、俺に告げた。


『私、大迫正美おおさこまさきをあなたのおよめさんにしてください……』



 *******



「おわあああああ!?」


 素っ頓狂とんきょうな悲鳴とともにベッドから転げ落ちて目が覚めた。

 ここはどこだ、俺は何をしていたんだ……。


 見知らぬ天井が目に映った。これは夢だ。

 しかし、なんちゅう夢を見ているんだ、俺は、正美が男のまま、嘘おっぱいで巨乳化したからこんな夢を見ちまったんだな。


 それにしても夢の中の正美は、本当に女の子みたいだった……。


「結婚しよう……。 なんて何を言ってんだ俺は!!」


 頭を抱えて一人で悶絶する。正美が女の子になるなんてありえないんだから……。


 壁掛けの時計が午前三時を指し示す。周りを見回すと殺風景な六畳ぐらいの部屋。その片隅に積み上げたダンボール箱が視界に入る。


 そうだった、俺は昨日から東京下町の老舗銭湯、亀の湯に居候いそうろうの身だ。

 引っ越しのダンボールも最小限で済んだのは幸いだった。

 まあ一人暮らしの身であまり荷物がなかったこともあるが。


 あっ、そういえばハプニングもあったんだ……。

 前の部屋の引っ越しを正美とにゃむ子さんが手伝ってくれたんだが、

 にゃむ子さんにおっぱい星人、魂の保管庫をガサ入れされてしまったんだ……。


「コーちゃん、この【奇病!? 幼馴染みのおっぱいが八つになっちゃった……。僕が子猫になって全部チュウチュウしてもイイかにゃん♡】って本は新しい部屋に持ってくのぉ?」


 俺の秘蔵コレクションを一冊ずつ読み上げながら選別されてしまった……。

 何というご褒美、いや、辱めを受けてナイーブなハートがズタボロだ。

 俺の性癖も全部、白日はくじつの下にさらされてしまった。


 普通のおっぱいはいうまでもないが隠れ巨乳、ロリ巨乳、巨乳幼馴染み、男装女子、女装男子、ふたなり男の、等々、時間の都合で性癖の皆様の敬称は省略させて頂きます、状態だった……。


「ああああっ、今、思い出しても顔から火が出そうだぜっ!!」


 でも不思議なことがあったんだ。大騒ぎする俺たちを横目に正美の表情が妙に嬉しそうに見えたんだ……。


「あいつ、何でえっちな本を握りしめて嬉しそうにしてたんだ……。それも【俺の幼馴染み♂が異世界巨乳転生しちゃった件〜男の子のままおっぱいが生えちゃった。ン、ギモチイイイイッ♡〜】てタイトルの本で。おっ!? そうか正美もおっぱいの素晴らしさにやっと気がついたんだな、そりゃ結構なことだ……」


 正美とおっぱい談義で馬鹿話をして盛り上がれたら楽しいだろうな……。


 再びベットに横になり俺は天井を見つめながらぼんやりと考えた。

 いつの間にか深い眠りに引き込まれていた。


 もう朝まで夢は見なかった……。



 *******



「……康一、おはよう」


 突然、亀の湯のロビーで挨拶をされた。朝のTVニュースに耳を傾けていた俺はゆっくりと顔を上げ声の方向を見やった。

 そこには制服姿の見知らぬ女の子が立っていた。いや正確には見たことがあるぞ。


 ……夢の中で見た女の子!? 俺はまだ寝ぼけているのかと思った。


 白いえりに三本線が走り途中で途切れる、その下の紺色の上着、チェックのネクタイ、特徴的なセーラーブレザー、この制服は!?


「……ま、正美なのか!?」


「似合うかな? 女の子の制服は着慣れないなぁ、妙に足元がスースーする……」


 短めのプリーツスカートの裾を気にしつつ照れくさそうに頬を赤らめる。

 長い黒髪を後ろで結わえたポニーテールはとてもウィッグとは思えない、

 にゃむ子さんが制服と一緒に用意してくれたんだよな。


「おっぱいの部分も平気だったよ!! 康一には心配されたけど……。にゃむ子さんはGカップだから制服がブカブカになるんじゃないかって。だけど大丈夫!! この制服には秘密があるんだ……」


「本当に正美なんだ!? 見違えちまったな……」


「へへっ、馬子まごにも衣装でしょ……」


 俺の言葉に安心したのか、その場でクルリと回りこちらに背中を見せる。

 制服のスカートがフワリとめくれて下着がばっちり見えてしまう……。

 ピンクに細かなフリルが彩られたおぱんつが!?


「ま、正美っ ぱ、ぱんつがみえてるぞ、気をつけろっ!!」


「ええっ、僕のぱんつ!? 見たんだ、こ、康一の変態っ……」


 正美がまるで汚物をみるような表情をこちらに向ける。


「お、お前が勝手に見せたんだろ!? これは冤罪えんざいだ、こうやって痴漢の冤罪が捏造ねつぞうされて世の実直じっちょくなサラリーマンの家庭が崩壊させられるんだぞっ!! おまえら女子高生はそこんとこ分かってんのか……」


「えっ、康一、いま僕のこと女子高生って言った!?」


 あっ、冤罪の件に興奮して正美のことを女子高生と言ってしまった……。


「……ふうん、康一はこういう下着ぱんつが好きなんだ♡」


「あっ、ちがっ、おまっ、お前、め、めずの顔になってんぞ!! それにお前は男だろっ、この、嘘おっぱいのくせして、変態はお前だろっ。それに俺様がおっぱい星人で命拾いしたな……。 俺じゃなかったら女子高生のパンチラなんて、男にガン見されんだぞ!! 短いスカート穿いたらおぱんつの取り回しに気をつけろっ!!」


「はいはい、充分気をつけるよっ、駅の階段でも背中のリュックでガードするから」


 正美はそういいながリュックの肩紐を目一杯長くして背負い直した。


「にゃむ子さんに教えて貰ったんだ。これなら階段でぱんつを覗かれないって……」


 なるほど、以前から駅で見かける女子高生のリュックって、なんであんなに下げすぎにしてんのか、不思議だったんだよな。ファッションでやってんのかと思ってた。痴漢よけとは納得だ。


「女の子も大変なんだね、僕ももっと女の子の仕草を勉強しなきゃ。だって今日から聖胸せいきょう女子高等学校に通うんだからね……」


 そうだった、岩ばあちゃんから聞いて俺はぶったまげたんだ。

 聖胸女子高等学校は隣町にある名門女子高でにゃむ子さんの母校だ。

 いきなり女子校に転校なんてむちゃくちゃだよね、合法ロリばあちゃんは……。


「正美も大変だな、女子校に転校なんて理由わけは聞かされてないのか?」


 今の学校で離ればなれになるのは寂しいが、まあ家では会えるからな……。


「えっ、康一も今日から転校だよ、聖胸女子に……」


 今、なんつった!? 俺の聞き間違えか……。ひどい難聴に気を付けなきゃ。


「ほら、これ教科書だよ、学校案内も後で読んでおいて……」


 正美に手渡された学校案内のパンフレットには、

【ようこそ!! 聖胸女子高等学校へ】と書かれていた。


 え~~~~~っ!! 俺が女子校に通うのぉ!?



 禁断の女子高生に俺はなれるのか!? の次回に続く。


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