おっぱいが嫌いな男の人なんてこの世に存在するの?

『ダックスフントさん、もう許してぇ!! 正美まさみのワンワンビスケットはもう全部品切れだからぁ……』



 *******



 はっ、これは夢!? 僕はうなされていたの……。


 枕元の目覚まし時計がいつの間にか床に転がっていた。


 身体中が汗ばんでいるのを感じた。これは夢のせいなのか。

 そうだ夢に違いない、そう思いたかった。

 あんな恥ずかしいことが僕に出来るはずはない。


 ぼんやりとした頭が次第に鮮明になり昨日の記憶が蘇る。

 かあっ、と自分の頬が熱くなる。それでなくとも熱っぽくて、

 肩の辺りにも妙な違和感を感じるのに……。

 裸でいた時間が長くて風邪でも引いたのだろうか!?


「ど、どうしよう、本当に私が全部やったことだ。恥ずかしくて康一の顔を見れないよぉ……」


 にゃむ子さんの機転で、フルコースまで行かなかった(はず?)だが、

 どちらにしても恥ずかしい事実には変わりがない。


 このまま部屋にもって今日は学校を休んじゃおっかな……。 


 康一は偽物のおっぱいと信じこんでいるみたいだから、その点は問題はないんだけど。


「まさみん、コーちゃん、二人とも早く降りてきて!! 朝ご飯が出来てるよん♡」


 あわわわわ……。 そうだった、康一はウチで同居するんだっけ。

 じゃあ、いきなり朝から顔を合わせなきゃならないの!?


 今朝の朝食当番はにゃむ子さんだ。


 古い日本家屋の特徴で食卓のいい匂いが自分の部屋まで微かに漂ってくる。

 家自体が呼吸しているみたいで一年中過ごしやすい作りなんだ。

 その反面、隙間も多くて隣の音も丸聞こえなのがプライバシーの観点からは駄目なんだけど……。


「まさみん、はやく降りてこないと遅刻しちゃうよ!!」


「はい、はいっ!! 今、降りるからごめんなさい……」


 床に転がった時計を拾い上げると……。 しまった、電池が外れて止まってたんだ。いつもより寝坊しちゃった。 急がなきゃ!!


 慌てて身支度をしようと制服を探すがいつもの場所に掛かっていない。


「あれ!? 僕の制服がない、どこにいっちゃったのかな、間に合わないよ!!」


 仕方がないのでパジャマのままで部屋を飛び出した。


「おはよう、まさみん♡」


「正美、めしが冷めるのじゃ、早く食え……」


 「にゃむ子さん、お祖母ちゃん、こ、康一、おはょぅ……」


 恥ずかしさで声が小さくなってしまう。まともに康一の顔が見れない……。

 ずっとうつむいたまま自分の席に座る。


「ま、正美、その髪、ど、どうした!?」


 えっ、僕の髪って……!?


 恥ずかしさも忘れて思わず顔を上げる。目を丸くした康一の驚いた顔があった。

 周りのお祖母ちゃんとにゃむ子さんは至って通常営業だ……。

 康一だけ何をそんなに驚いているんだろう!?


「んっ!?」


 自分の頭に妙な違和感を感じて首を振ってみると、

 僕の頭の動きに合わせワンテンポ遅れて何かが揺れる


「な、何だ、これ!?」


 首筋に手を伸ばすと明らかに普段と違う感触の長い髪の先端に触れた。


「何、これぇ!? 僕の髪の毛じゃないよ!!」


 驚いて思わず席を立った、リビングにある姿見の鏡に見慣れぬ自分が映った。


 僕の頭の後ろで引っ詰めにしたポニーテールの髪型、

 後頭部で揺れていた正体はこれだったのか!?

 

「えっ、ええ~~~!? 僕の髪が女の子みたいになってるよぉ……」


 念のために説明すると、もとから僕は女の子だ、ある理由わけがあって普段は男装しているんだ。


 康一には絶対に秘密なのにこれじゃあ全部おしまいだ……。


「コーちゃん、まさみん、二人ともよく聞いて、お岩さんとも相談して決めたことがあるの。今回の件で、呪いの解毒が大切だって良く分かったでしょ……。そこで提案なんだけどぉ、まさみんのおっぱいも解毒には絶対に必要なんだからこの際、普段も女の子の格好で過ごすってのはどうかにゃ♡ その髪の毛は高級なウィッグでまさみんが寝ている間に私がこっそり装着したんだよ……」


 昨日は康一の件もありショックと疲れで昏倒こんとうしたように、

 ぐっすり眠っていたんだ、起きたときの首周りの違和感はこれが原因だったのか。


「ぼ、僕が女の子になってもイイの……」


 にわかにはとても信じられない、お祖母ちゃんとにゃむ子さんの顔を交互に見つめその真意を探る。


「無関係の小僧を巻き込んでしまった責任は亀の湯従業員が一丸となって取らなきゃアカン。だから正美は心配せんでもいいんじゃぞ……」


「お祖母ちゃん……」


 涙があふれそうになるのを必死で堪える。こんな日がくるとは信じられないよ……。

 男の子として性別をいつわってきた罪悪感と自分自身の苦悩が思い出される。


 ありのままの性別で生きていけるなんて夢みたいだ!!


「あれっ、コーちゃん!? さっきからずっと黙ったままだけど……。はは~~ん、さてはまさみんの美少女ぶりに思わず見とれていたんでしょう♡」


「な、なんで俺が!? 中身はあの正美のまんまだろ、それに偽物おっぱいだし、俺様が見とれるはずないだろ!!」


「嘘、嘘!! まさみんのブラジャーで目隠しプレイされてすっかりご満悦まんえつだった一件、にゃむ子も全部知ってんだからぁ♡」


「そ、そそ、それが何か問題でもあるのか!? アレは解毒の一環いっかんで、 し、仕方がなかったんだ。俺は不可抗力で無罪でしょ!! ねえ、そうでしょ合法ロリ祖母ちゃんも何とか言ってよ!!」


「こっちに来ないで、へ、変態、康一お兄ちゃんは少女の敵よ!!」


 必死に同意を求める康一に対してお祖母ちゃんが震え声で応じた。

 どうみても純粋無垢な少女にしかみえない……。


「あ~~!! こんな時だけ都合良くロリ少女に戻らないでよ、岩ばあちゃんっ!!」


 喧噪けんそうの中で僕は一人、幸せな気持ちに包まれていた、まるで子供のころ、誕生日のケーキを一人で半分食べたときみたいだ……。


 でも待てよ、ふとした疑問が浮かんだ。


 僕が女の子に戻れるのはすごく嬉しいけどそのあいだ、学校はどうするの?

 この格好で登校したら大騒ぎになるのは火を見るより明らかだ。


「まさみん、ずっと突っ立っていないでこの制服を着てみて。きっとびっくりしちゃうよん♡」


 にゃむ子さんはごらんの通りトラブルメーカーで騒がしい。

 だけど僕に嬉しいサプライズをいつも与えてくれる人だ。

 多少のことでは驚かないぞ、と思っていてもそれを軽々と越えてくるんだ。


「……この制服は!! 聖胸せいきょう女子高等学校、確かにゃむ子さんの母校だったよね?」


「ピンポン♡ ピンポン♡ にゃむ子のJK時代のお下がりだよ!!」


 手渡された制服はお下がりとは思えないほど綺麗な状態で、スカート、セーラーブレザーの上にちょこんとチェックのネクタイが置かれている。


「にゃむ子さんの女子高時代の制服と言うことは胸はGカップ用だよね。サイズの小さい正美が着たらおっぱいの部分が余るんじゃないのか!?」


 まるで空気を読まない康一に、僕はキツイお灸を据えたくなったが、迂闊なお仕置きはご褒美に変換するおめでたい性格なので、そうなったらそれで面倒くさいので今回は完全に無視しよう。


「そのことなら心配ご無用よん♡ その制服には面白い仕掛けが仕込んであるから……」


 にゃむ子さんが意味深に笑った、これは何かよからぬことを企んでる顔だ。


「お前達にやって貰いたいことある、朝食を済ませたら番台前に集合じゃ!!」


「お祖母ちゃん、僕たちは学校へ行かなきゃ……」


「今日は休むのじゃ、学校にはわしが連絡しておくでの……」


「もう何が起こっても驚かないよ、なあ正美!!」


 康一は異常なほど、順応性が高い、これも海外を旅していた経験からなのか?

 学校での康一はわざと優等生の型に自分を落とし込んでる気がしてならない。


 僕にだけ時折、本音の康一を見せてくれる。

(細けえ事はいいんだよ!!)って……。そんな康一を見ることが一番嬉しいんだ。


「さて、食事も済んだし一番風呂に入るが良い、にゃむ子、正美を大浴場に連れて行くのじゃ」


「らじゃ!! らじゃ!! まさみん一緒に行こ♡」


「じゃ、俺も一緒にお供します、にゃむ子さん!!」


「コーちゃんは今回、お留守番よ。ロビーの床に掃除機を掛けておいてね♡」


「ええっ!? そんなぁ……」


 康一の落ち込み具合が傍から見てもはんぱない。

 まるで世界の終わりに直面した人類ただ一人の生き残りみたいな顔だ。

 ちょっと可哀そうかな……。



 *******



 かぽーん……。 ちょろちょろ。


「ねえねえ、にゃむ子さん、なんで康一だけ仲間外れにしたんですか?」


 洗い場の仕切り越しに隣のにゃむ子さんに声を掛ける。

 桶を片手に立て膝のにゃむ子さん、ぱしゃぱしゃと背中にかけ湯をしている。


 それにしても日本人離れしたプロポーションだ……。

 こちらから横向きに見えるおっぱいの存在感がもの凄い。


 にゃむ子さんの胸はGカップだが大きいだけのだらしないおっぱいではない。

 僕も一度、部屋で触らせて貰ったからよく分かる。

 揉み返しの弾力が心地よく同じ女性の僕でも驚いたんだ。

 磁石が吸い付いたかのごとく自分の手のひらが離せない手触りだった。


 亀の湯の大浴場には男湯、女湯があり時間で入れ替わる方式だ。

 今日の女湯は牛乳風呂のメニューだ。隣の男湯は薬膳やくぜん風呂だ。

 また早朝で営業時間外なのでそれまで自由に入浴できるんだ。


「コーちゃんがいたら出来ない話もあるってお岩さんがね……」


 お祖母ちゃんがそんなことを……。 康一に聞かれたらマズい話っていったい何?


 急にネガティブな感情が胸に湧き上がり、僕はしばらく考え込んでしまった。

 寝不足もあってか椅子に座り思わずウトウトしてしまう……。



 *******


  

「……んっ、はあっ、何!?」


 しばしの間、僕は寝落ちをしていたみたいだ……。

 誰かに身体を触れられた感覚で目を覚ます。


 わしゃわしゃ……。

 むにむに♡


「わっ、わっ、何、何っ、えっ!! にゃむ子さんなの!?」


「ごめ~んね、お岩さんの言いつけで、まさみんの身体を清めさせて貰うよん♡」


 ごしごしごしごし……。


「ふぁぁぁあっ!?」


 立ち込める湯気でよく見えないが背後から両手で胸を鷲掴みにされ、

 泡まみれ状態な僕。手の動きが凄いよお、ああっ、なぜこんなことするの……。


「女子高の制服を着る前に隅々までよ~~く洗っちゃうから、覚悟してね♡」


 えっ、ちょ、どこまで泡まみれにするの!?

 そこは敏感すぎるから駄目!!


「にゃ、にゃむ子さあ~~ん……!!」


 女の子に戻れそうなのはとても嬉しいけど、この先どうなってしまうのか、かなり不安だよお!!


 前途多難な僕の未来はいったいどっちなの!?


 かぽーーん!! ちょろちょろ……。



 次回に続く!!



 ───────────────────────



 にゃむ子さんは女の子もイケるくち!? の次回に続く。


 ☆★☆ 執筆の励みになりますので少しでも面白かったら


 星の評価・作品フォロー・応援していただけるとうれしいですm(__)m ☆★☆







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る