このおっぱいは全部あなたに使ってもらいたいの!!

「ワ・レ・ワ・レ・ハ・オッパイセイジンダ!!」


 ……はっ!? 意識が完全に飛んでいた。


 僕、大迫正美おおさこまさみは今、謎のUFOに拉致らちられていたの!?


 違う!! みずからの手で喉元をチョップしている自分に気がついた。

 康一こういちの身体に起こった洗い桶の不思議なイリュージョンを目撃したあまりのショックに、思わず我を忘れてベタなものまね芸に現実逃避してしまったんだ。

 誰にも見られていないのに一人、大浴場で赤面してしまう……。


「こ、康一は大丈夫なの!?」


 慌てて僕は荒息鍵アラムスキー型UFOの所在を探した。

 どうやら未確認飛行物体はおとなしく不時着しているみたいだ。

 いまだに気絶している康一の身体には黄色い洗い桶がかぶさっている。


「……UFOが不時着して本当に良かったぁ、って、いやいや全然良くない!! こ、康一、しっかりして!!」


 肩をつかんで揺り起こそうとしたが寸前で思い止まる。


 ……脳震盪を起こしている疑いがある場合は!?


 小学生のころ康一と一緒に参加したボーイスカウトキャンプでの救護訓練を思い出した。


「確か意識がない人をいきなり揺すっちゃ駄目なんだ。まず呼吸や脈を確認するるのが先決だ……」


 大浴場の床に横たわる康一の腕をとり、まずは脈拍を確認する。

 大丈夫だ!! 規則正しく脈動みゃくどうしている。


 ……次は呼吸だ。


 普段は康一の顔をこんなに間近で見る機会はない。


「まつ毛、こんなに長かったっけ……」


 幼馴染みでずっと一緒だけどすごくドキドキしてしまう。


「何を考えているんだ、こんな状況なのに不謹慎だぞ……」


 でも今の自分もまっ裸、気絶している康一も裸。

 こんな状況で意識しないほうが無理!! 無理だよぉ。


 両手で顔をおおい真っ赤になりながら介抱をとまどってしまう。

 頭隠しておしり隠さず状態の僕はさぞかし滑稽こっけいな姿だったばずだ。


「康一、こんな弱虫でごめんね……」


 諦めかけたその時、救護訓練の記憶が脳裏に蘇ってきた。


 ……あの日、康一が僕に言ってくれた言葉。


『正美!! お前はビビりだから、いつも俺に甘えてくるよな……』


『ええっ、康一は甘えん坊の正美が嫌いなの!?』


 そうだ、僕はいつも康一の後ろに隠れていた。

 僕がいじめられたときも家の事情で泣いていたときも、

 康一は僕のことを全力で守ってくれたんだ。

 昔からずうっと甘えさせてくれた暖かい背中。


『馬鹿だな、お前のことを嫌いなわけねえだろ。いくらでも甘えていいぞ!!』

 やさしく微笑みながらこんな僕を受け入れてくれたよね。

 康一にもしもの事があったら……!? そんなのは絶対に嫌だ!!


 僕は決意した。目の前の康一は苦悶くもんの表情を浮かべている。

 顔色も青白くひたいには脂汗が流れていた。

 汗は大浴場の熱気だけではない、素早く呼吸を確認する。

 呼吸はあるが身体に触れていないのに熱気がこちらまで伝わってきた。


「急いでアイシングしなきゃ、でも康一を動かすわけにはいかない。いったいどうすればいいの!?」


 銭湯の営業時間内なら助けを呼ぶことも出来るが、いまは合間の休憩時間中だ。家族も近くにいない。


 ……だから僕も一人で入浴したんだ。


 慌てて辺りを見回すが氷嚢ひょうのう替わりになる物は全然見当たらない。

 氷でなくても頭を冷やせてなにか柔らかい枕みたいな物は無いのか!?


 ……急いで康一を助けなきゃ!! 手遅れになる前に。


「あっ!!」


 あった!! 僕は天啓てんけいのように閃いた。

 持っているじゃないか!! 自分自身に、この身体に!!


 そっと康一を床に横たえて準備に取りかかった。


 洗い場の前に立ち鏡に映った自分のを身体を見つめる。

 鏡の中にはもう一人の正美わたしたたずんでいた。

 普段は男装に隠されている均整のとれた体軀たいく

 胸のふくらみに手をかざす、てのひらにおさまらないほどの大きさだ。


 ……指の間から桜色の突起が顔を出す。


 赤ちゃんが初めて口にする大事な部分。


「おっぱいの存在が今まで本当に嫌だった。どんどん重くなって不自由で僕を縛り付けて。こんな物なくなっちゃえばいいのにって何度思ったか……」


 指先で二つの突起を優しく撫でる。


「でも違ったんだ、康一は僕に言ってくれたよね。俺はおっぱいが大好きだって。それに……」


 僕は大浴場で康一と鉢合わせした瞬間の情景を思い起こした。


『何で俺の理想が分かった!? 色!! 艶!! 張り!!  最高のおっぱいじゃないか』って。


 ただの杞憂きゆうだったんだ!!

 乳輪の大きさに悩んでいたのがまるで馬鹿みたい。


「決めた!! このおっぱい、ぜんぶ康一のために使う。甘えん坊の僕を守ってくれたお礼に!!」


 今までコンプレックスだったことが全部、に落ちた。

 マイナス思考がプラス思考に転換した瞬間だ。



 *******


つめたっ!!」


 洗い桶に溜めた冷水にタオルを浸して、それを自分のおっぱいに当てがう。

 もともと脂肪組織の多い乳房は冷えやすい、そこを利用するんだ。

 一番敏感な乳首が急に冷やされ、みるみる固くなるのが感じられる。

 康一のために我慢するんだ。


「……よいしょっと」


 康一の両脇に手を差し込み後ろから上半身を持ち上げる。


「やばっ!! 洗い桶が落っこちちゃう……」


 勢い余って、康一の大事な部分を隠す洗い桶が外れそうになるが、

 ぎりぎりのところで何か(?)に引っ掛かっているみたいだ。


「ふうっ、危ない、危ない……」


 慎重にいかないと駄目だ、介助かいじょの経験がある人なら分かるが、

 気絶したり寝たきりの人を持ち上げるのは本当にひと苦労だ。

 せっかく冷やしたおっぱいが火照らないように充分気を付ける。


(むにゅ、むぎゅ♡)


 康一の頭をおっぱいの間に挟む、氷嚢ひょうのう替わりだ。

 患部も冷やせて柔らかい枕にもなる、一石二鳥だ!!

 これぞ、おっぱいまくらでアイシング!! なんちゃって♡


 予想どおり、康一の脂汗が引き、顔色が良くなっていくのが分かる。


「よし、このままの調子で続けなきゃ!!」


 しかし問題発生だ、自分と康一の間にはタオルがあるが薄々で、時折動く康一の頭が上手く固定出来ない。


 このままではうまく冷やせないよぉ。


 後ろからだけでなく頸部けいぶの首も冷やさなきゃ、それには顔面を挟んでしっかりと固定する必要がある。

 仕方ない、奥の手を使うしかないか。すっごく恥すかしいケド……。


「えーい、ままよ、男(実は女)は度胸!!」


(むぎゅ♡むぎゅ♡)


 誰にも言えない恥ずかしい固定方法を使った。


 康一のために頑張るって決意したんだから、僕、負けない!!


 さらに急展開な次回に続く!!


 

 

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