第18話 七星遙・七変化の秘密

 比良さんのおかげで今日のテーマが決まった。

 『大学生』と『高校生』で行こうと思う。


 せっかくオレも高校に進学したしな、たまにはそういうテーマもいいだろう。

 清楚大学生は七海さんを、奔放な高校生は比良さんをイメージしてやってみよう。


 それで高校の制服っぽく見える服を探していたというワケだ。

 ワイシャツはそれなりの数があったと記憶していたが、ほとんど家に置いてあるメンズだったようで発掘に時間がかかってしまった。やっとの思いで見つけたやつもオーバーサイズだったのが想定外だったが。


 ワイシャツは途中で買っていくことにする。そのへんで売ってるだろう。

 せっかく出したオーバーサイズのワイシャツはせっかくだから、比良さんに送る写真で使おう。比良さんのおかげでテーマも決まったしな。


 撮影した写真を送ると、瞬で既読になったが返事は来ない。

 雑な衣装だったからコメントに困っているのかもしれない。ちゃんと着飾った方が良かったか?


 清楚大学生のコンセプトで選んだシンプル・清潔・ストレートな服装に身を包む。これでスタジオまで行く予定だ。


 それから奔放高校生の服をスーツケースに仕舞って、散らかした服を片付ける。

 雑ながらもおおよそ片付けたところで「セリーン!」と『アドセル』が鳴った。比良さんからの返事だ。


『大変結構なお点前でした。誠に有難う御座いました』


 どういう感想なんだそれは。


『喜んでくれたみたいで良かった。あとは投稿されるのを待ってて』

『承知』


 武士か?

 とにかくスマホも静かになったし、とりあえず片付けも終わったので部屋を出る。


 そして隣の部屋に入る。


 正面にトルソーが三体立っており、それぞれにオレの制作した衣装が重ねられている。

 そして上下で二段になって伸びるハンガーラックが奥に敷き詰められている。そこ掛かっている全てが今のオレではとても着れそうにない服――。


 こちらにはコスチュームを含め、かなり忠実に身長や体型を寄せられたウィメンズを集めた部屋ワードローブだ。


 『熾光』用ではない服の数々。

 そう、完全にオレが女に『メタモルフォーゼ』した時だけ着られる服を揃えている。


 『メタモルフォーゼ』に付随する能力として『形の記憶』がある。かつては一つしか記憶できなかったものだが、鍛えた今となっては七つまで形体記憶が可能。

 オレは六つのフォーマット記憶を固定している。残りは自由枠として残してある。記憶は解除も可能だが、かなり完成度が高いのと利便性を考えると、次に記憶数が増えるまでは現行のセットがベターだ。


 まずは元の自分。記憶とは便利なもので、ちゃんと成長を鑑みた記憶をしてくれる。年齢相応で便利。


 それからオレ、『七星遙』の姿。これは同時に『熾光』でもある。前髪はセットしてやれば良いだけだしね。


 『七星遙』=『熾光』の姿は通常使用するノーマルの他に、バージョン2とバージョン3がある。

 バージョン2は男の娘形体で、バージョン3は完全に女性体だ。これは着る服や撮影に同行する相手で使い分ける。

 バージョン3だとかなり胸が出て、腰つきや尻も肉感的だ。男のオレから見るとえっちだよ。


 残り二つの形体記憶がオレのコスプレ用最終兵器になる。


 まずは女児の魔法少女形体。

 幼女『さくら』だ。


 小学生高学年の女子である。身長が急激に三十センチ近く落ちるので、視界の変化に十分な注意が必要だ。

 髪は短くする方が楽なのでデフォルトでは長くしてある。ふくらはぎくらいまで伸びてるから一メーター以上。くるりと回ると艶やかな濡羽色の髪が紗のように波打つ。

 丸みのある顔はあどけなさといとけなさを感じさせ、庇護欲を煽る可愛らしさだ。


 魔法少女にピッタリの身体だと自信を持って紹介できる。

 それでいながらキリッと表情を引き締めると一匙の大人っぽさも楽しめるロリとなっている。胸はちょっとだけあるよ。


 そして逆に妖艶な大人形体。

 世が世なら、傾国の美女として名を残したであろう。

 よって傾国の『せつな』と名付けている。


 『熾光』が彫像のように整った顔だとすれば、こちらは非常に人間味のある顔だと言えよう。

 表情の動きだけで、見ている物にある種の感情を想起させる。印象を刻みつけるパワーがある。


 髪の毛はやっぱり初期から長い方が、応用が効くのでめっちゃ長い。

 代わりにこっちはアッシュブロンドっていうのか、銀髪にしてある。銀髪が好きだから……。色ぐらいなら割と苦労なく変えられるからええんよ。


 肉体的には『熾光』バージョン3など比較にならないえっちさだ。

 バニースーツを着て前かがみになると、胸が長く伸びるのに垂れたようには見えず、流動性のあるお餅みたいな動きをする。


 身長は高めに設定したが、あんまり高いと服のバリエーションが少なくなりすぎるので若干抑えた。高価な服しか選べなくなって、資金的に今はまだキツい。

 『七星遙』が制服しかフォーマル持ってないのに、『せつな』用にはドレスもスーツも揃っている。

 メンズは雑誌の撮影で色々予想もつかない服を持ってきてもらえるから……。


 さて、今日は『熾光』の高校生&大学生に加えて、『せつな』でも撮影をするつもりだ。


 ――オレがめちゃくちゃ課金してお母さんに死ぬほどキレられている覇権ソーシャルゲーム『夜天の宿命』で、先日新たなキャンペーンが始まった。


 結果から言えば、オレはそのキャンペーンで入手可能なキャラに五万円の投資をした。

 それがバレた日から一週間、オレだけ晩飯のおかずがもやしナムル単体になった。一週間で音を上げて五万を返したから戻ったが、返さなかったらいつまでもやしだったことか……。でも課金止めらんねえ。


 そして、その五万円かけて入手した推しキャラ『リンテンシア』の新衣装がめちゃシコでどちゃクソに可愛いので、コスプレしていきとうございます。


 ぶっちゃけ傾国の『せつな』は『リンテンシア』を素体にして調整した形体だ。

 えっちで当然だよな。ちょっとえっちにしすぎたかもしれないけど。まあ、どんな神絵師も乳を盛れば盛るほど癌に効くって言うし少しぐらいセーフセーフ。


 中学卒業後に長めの春休みをフルに活用して作成した衣装を、スーツケースに入れて持ってきたガーメントバッグに丁寧に入れる。圧縮しなくてもなんとかなりそうで良かった。

 小物系はなんとかスーツケースの空きに突っ込んでおく。あんまりパーツが無いコスチュームで助かる。


 忘れ物がないか荷物を確認し、オレはようやくトランクルームを出た。一時間近く滞在していた。


 メガネと帽子も装着し直して、早速スタジオに……向かう前に近くのショッピングモールに寄っていく。

 都心は色んなところにモールがあって、結構な確率でファストファッションブランドが入っている。緊急対応みたいなものだし、ワイシャツは『ユーユー』の安いやつでいいだろう。使い潰しやすいし。


 ついでにコンビニでおにぎりと飲み物を調達し、今度こそスタジオへ向かった。

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