第7話 おっぱい大きい子は嫌いですか?

「転移成功だね」


 可愛い声に振り返ると、絶世の美少女であるコノハがほほ笑んでいた。


「…………」


 誰もいない森に二人きりというシチュエーションのせいだろう。

 俺はあらためて目にした彼女の魅力に心臓が高鳴った。


 背はちょっと高めで腰まで伸びた綺麗な黒髪と、大きな垂れ目が印象的な美人さんで、だけど下がり眉でおとなしそうな顔立ちなのでまったく威圧されない。


 むしろ、守ってあげたくなるような魅力がある。

 そして、スイカ大の爆乳……。


「ッッ」


 思わず視線誘導されてしまい、慌てて顔を上げた。

 なのに、意識だけは彼女のおっぱいにくびったけだった。


 コノハのおっぱいは本当に大きく、いけないと思ってなお、脊髄反射で惹きつけられてしまう。

 少しでも意思力が揺らげば、すぐに見てしまう。


「? あ……」


 無垢な顔で小首をかしげてから、コノハは自身の深すぎる谷間を見下ろして赤面した。可愛い。


 胸元の開いたドレスを着ておきながら、恥ずかしそうに両手で胸元を隠す姿は殺人的なエロ可愛さがあった。


 まるで、性格はおとなしいのにわがままバディの子が無理やりエッチな服を着せられているような背徳感がある。


「は、はしたない格好でごめんなさい」

「いや、気にしないで……むしろ悪いのは俺だから……ていうか、女神様の衣装ってみんなすげぇ露出度高いか体のラインが出るかの二択だったけど、そういう文化なの?」


「それもあるけど、私のはスパーロたちが、これぐらいの着ないと誰も御使いになってくれないって……無理やり」


 まるで、ではなくモロまんまその通りだった。

 コノハには悪いけど、恥ずかしがり屋の爆乳美少女が無理やりエッチな服を着せられ赤面する姿には殺人的な威力があった。


「あ~、そういえばあいつらそんなこと言っていたなぁ……」


 俺は自分の邪心を恥じながら、知らないをした。


「……ねぇ、元和君は、本当に何もしなくても御使いしてくれるの?」

「と、当然だろ。俺はおっぱ、ッ、とにかくそういうのが目当てでコノハの御使いになったんじゃないから」


 何度も言葉に詰まりながら俺が声を絞り出すと、コノハはますます恥ずかしそうにうつむいた。


「だ、だよね……じゃあごめんこんな下品な格好、しないほうがいいよね?」

「えっ?」

「えっ?」


 コノハと見つめ合い、俺は穴があったら入りたい気分になった。むしろ埋めて欲しくなった。

 俺が頭を抱えて顔を逸らすと、コノハはハッとして両手を振った。


「そ、そうだよね! 元和君も男の子だもんね! ごめんね気づかなくって!」

「いや、いいから、気遣わないでくれ……」


 気を取り直しつつ、俺は真摯に、だけど彼女の顔を見れないまま語り始めた。


「なんて言うか、俺も大きい胸は好きだぞ」


 コノハのおっぱいを想うがままにできたなら、どれほど甘美で極上の時を過ごせるか、考えただけで下半身が熱を帯びてしまう。


 でも同時に、それがいけないことであるということもわかる。

 したいけどできない。


 食べたいけど食べるわけにはいかないというジレンマに悩まされるダイエット女子のような懊悩を抱えながら、俺は苦しんだ。


「あ、あのね、じゃあ元和君……このドレスは、元和君の前でだけ着るね」

「えっ!!?」

「スパーロたちに言われて着せられたドレスだけど、元和君が気に入ってくれているなら、このドレスは元和君専用だよ」


 頬を赤らめた笑顔の威力に、心臓が破裂しそうだった。


 この世に、こんなエロ可愛い女の子がいるなんて信じられなくて、精神的には今にも死にそうだった。


 というか、完全に恋に落ちていた。

 俺にとっては、まさにコノハは女神であり、コノハだけが女神だった。

 他の女神は全員パチモンだった。


「でも本当にごめんね元和君。こんなことに巻き込んじゃって」


「いや、そこは気にしないでくれ。ていうか勝手に召喚したのと違って、俺らって修学旅行中の飛行機が墜落して本当なら死んでるんだろ? なら、生き返らせてもらっただけ感謝しないとな」


「それはそうだけど……」

「それに、あいつらを見返すチャンスだしな」


 コノハを元気づけるという意味もあり、俺は務めて明るく振舞った。


「あいにく俺には英雄願望はない。でも、コノハのために強くなってナイフ術スキルもすげぇんだぞって言うのを女神たちに見せつけてやりたい気持ちはある。その上で、他の連中よりも強くなって、今まで俺を見下していた連中に一泡吹かせてやれたら気分が良さそうだろ?」


「もう、元和君てば。うん、でもそれが君の望みなら、私は応援するよ」

「ああ。応援してくれ。それでコノハ、魔王を倒した後ってどうなるんだ?」

「どうなるって?」

「ほら、アニメやなんかだと魔王を倒したら地球に帰るのがお約束なんだけど?」


 子供の頃から見ているアニメはどれもそんな感じだ。

 もっとも、異世界転移アニメの場合は異世界に骨をうずめることが多い。


「ごめんね、もう元和君たちは地球には帰れないの。この世界で生きて、死んだら別だけど記憶はリセットされるかな」


「ようするに、普通に輪廻の輪に乗るわけか」

「うん。だけど魔王を倒したり、大きく貢献した人は神様に昇格して天界で暮らせるよ」

「神様って、俺が?」

「そうだよ」


 あまりに突飛な話にぎょっとしながらも、俺はすぐに納得した。


 コノハを含め、展開には女神が大勢いるようだ。


 神様、と言ってもいわゆる唯一神のように仰々しいものではなく、超常的な力を持った人種、ぐらいの感じだと推測できる。


 それに、ギリシャ神話のヘラクレスや古代ローマの王族など、英雄が死後は神様になるのは珍しくない。


 漫画やアニメでも、神には生まれながらの神と、後天的に神になった神の二種類がいる、なんて設定もある。


 コノハたちも、そのたぐいなのだろう。


「……なぁ、もしも俺が魔王を倒したら、死後はコノハの仲間ってこと?」

「うん」


 こくりと頷かれて、いけない妄想がはかどってしまう。


 コノハは、とても魅力的な女の子だ。


 自分より他人を優先してしまう優しい女の子で、おまけに美人で、可愛くて、爆乳で、恥ずかしがり屋なのにちょっと大胆で。


 こんな子と付き合えたら、一生幸せになれるだろう。


 コノハがフリーかも聞いていないのに、俺は勝手に彼女との甘酸っぱい天界暮らしを想像して、邪心まみれのやる気と元気と勇気が湧いてきた。


「やっぱり俺、魔王倒そうかなぁ」

「えっ、どうしたの急に!?」

「いやちょっとな。英雄の名声はいらないけど天界での暮らしには興味があって。そしたらコノハともずっといられるし」

「え?」

「あ……」


 俺とコノハの顔が当時に赤くなった。

 俺らは同時に両手で顔を覆った。

 異世界ファンタジーなのに、ここだけラブコメだった。


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