第5話 俺のヒロインが可愛すぎるんだが?
大通りを歩きながら、ライツの隣で溜息を漏らした。
「悩むなぁ……」
「何がですか? 冒険者ギルドに加入してジブンが化物ともを蹴散らせばよいのでは?」
「そりゃあな。たぶん、ライツの力ならこの世界のモンスターなんてわけないと思う。最速でSランク冒険者になって名声を高めて、この世界のワープ被害者に俺の存在を知らしめる。けど、問題は強制クエストだ」
「王族の命令、あるいは、あ……」
どうやら、彼女も気づいたらしい。
「ようするに、冒険者ギルドは王族に逆らえない。下手に冒険者ギルドに加入すると、王族に私物化されるかもしれない。それに、簡単に脱会させてくれるかも怪しいしな」
保険会社の勧誘よろしく、入会は簡単だけど脱会は難しい、なんて落とし穴はよくあることだ。
「俺の気にし過ぎかもしれないから、最悪、冒険者にはなるけどそれは採集手段にしたいんだ」
「う~ん、では他に何かあればよいのですが。どこかに戦争と傭兵募集の張り紙はないでしょうか?」
「ラノベじゃあるまいし、そんな都合よく」
「あったであります」
「マジか!?」
ぐりんと首を回してライツの指さす方向へ走ると、とある武器商店の壁に【コロシアム】と書かれていた。
「リトナ闘争祭。武器、魔法の使用は自由。推薦状のある者、Dランク以上の冒険者は無条件で参加可能。当日の飛び入り参加可能。ただし参加テストあり。開催期間は今日から二日間。優勝賞金1000万ダール」
貨幣価値はわからないけど、1000万という数字の大きさから大金であることはわかる。
それに、確かDランクは腕利き冒険者がなるランクだ。
誰でも参加できるオープン戦のようだけど、かなりハイレベルな大会と思っていいだろう。
「これに優勝すれば、俺らの名前も売れるだろう」
「はい! 是非参加しましょう!」
俺とライツは顔を見合わせてから、会場のコロシアムに向かった。
◆
「おいおい兄ちゃん、冗談言っちゃいけねぇよ」
コロシアム受付のおじさんは、ひねくれた表情で声を歪ませた。
「魔法も使えないこんなちっこいお嬢ちゃんが参加って、子供の遊びじゃないんだぜ?」
「むっ、ジブンはちっこくないです! 世界がデカすぎるのです!」
握り拳を突き上げぷんすか怒るライツの頭をなでると、彼女はデレデレになって黙った。
「武器は自由で、テストしてくれるんですよね? じゃあ、テストをお願いします」
「やれやれ、時間の無駄だと思うがね」
おじさんはいかにも面倒そうに、俺らをコロシアムの奥へと案内してくれた。
が、いつまで歩くんだと思いながら廊下を抜けると、そこはコロシアム会場のリング前。
リングの上では、ゴリマッチョの巨漢が次々男たちをブン投げている。
客席はすでに半分以上が埋まっており、早くも歓声をあげていた。
――なるほど、テストも興行にして盛り上げているってわけか。
「うおらぁっ! この程度でリトナ闘争祭に飛び入り参加しようなんざ100年早いぜ! このゴンザレス様を満足させられる奴はいないのか!?」
一人の剣士が、巨漢の背中を切りつけた。
同時に、人を切ったとは思えない、硬質な音と共に剣は弾かれた。
「効かん! 我が鋼の肉体と鎧魔法の前に、三下剣術など通じん!」
――いくら異世界って言っても、別にあいつの体が鋼よりも強靭てわけじゃないんだな。
レベルが上がると平成初期の少年バトル漫画みたいな感じになったらって不安要素があるけど、とりあえずあいつは問題ないだろ。
「ライツ、頼んだぞ」
「任せるであります!」
びしっと敬礼をすると、ライツは五段階段をのぼり、リングに上がった。
「はんっ、魔術師か? そんなもの、詠唱する前に潰してしまえばわけないわ!」
ゴリラよりも太い剛腕が頭上から一息に振り下ろされる。
風圧すら感じそうな勢いで巨拳がライツの金髪ヘッドに叩き込まれた。
が、ライツは微動だにしない。
「お前、ふざけているのですか?」
「なぁっ、あぁっ!?」
ライツのジト目にゴンザレスがたじろいだコンマ一秒後、ライツの靴底がゴンザレスのみぞおちを直撃した。
巨体が水平にカッ飛び、リングアウトしても止まらず客席下の壁に深くめり込んだ。
「う、うそだろ……」
受付のおじさんはあんぐりと口を開けたまま固まっていた。
「やれやれ、この程度がテストなんて、この高いのレベルが知れるのです」
客席が沸騰して、熱いエールが飛び交った。
――まっ、現行兵器ですら敵わないしな。
しかも、ライツはまだ全力の1パーセントも出していない。
この調子なら、本線も楽勝だろう。
「司令官殿!」
ライツは呆れ顔から一転、尻尾を振る子犬を思わせる無邪気な笑顔で駆け寄って来た。
「勝ったのです。褒めて欲しいのです」
「うん、よくやったな。偉いぞライツ」
「えへぇえへへぇ~」
俺が頭をなでてやると、ライツはデレデレと笑った。
推しヒロインが俺にデレている。
そのことがただひたすらに幸せだった。
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