第4話 唯一の希望






父上……魔界に捨てるって……本当にもう僕のこと愛して無いのか……? そんな……僕は貴方の教えに従って毎日毎日修行してきたのに……。


「はい! 父上……!! ヘヘッ、悪いな兄さん……」


「超えた!? 俺が、兄さんを……!! やったッ! やったぞ!!? あんなに羨んで“憎んでいた”兄さんを超えたんだ!? ハッハッハッ!!!」


み、みんなどうしちゃったんだよ……みんな本当は僕のこと憎んでたのか? あんなに楽しそうに話していたじゃないか……


「立て!! 出来損ない!! お前の最後の役目だぞ!!」


僕は髪を掴まれボロボロになった身体を父上が強引に掴み上げ、木刀を持っているバリスとグエルはニヤニヤと笑いながら僕を見ていた。


「グゥッ……」


「あ、あのそろそろやめて差し上げた方が……」


「黙れ! これは私たちの問題だ!! 部外者は黙っていろ!」


「ヒッ!」


鑑定士は震える身体で僕を庇ってくれたが、正気でない父上の剣幕に怯えて黙ってしまった。


「さぁ! バリス! グエル! お前たちのスキルを存分に見せてくれ!!」


「バ、バリス……グエル……」


「スキル無しの雑魚の分際で気安く名前を呼ばないでくれないか? 兄さん?」


「ごめんね、兄さん? 父上の命令だから……ハッハッハッ!」


僕はただ強くなってみんなを守りたかっただけなのに……もう元には戻れないのか……?


「「スキル!!!」」


「“勇者”」


「“剣聖”」


ーーゴォオォォオ!


「おお!! これが伝説に名高い勇者と剣聖のスキルか!? スキルを発動しただけでここまでの威圧感を出せるなんて……!! 見事だ! お前たちよくやった!」


立つのすらやっとの僕を前に二人がスキルを発動する。


周りに魔力の膜ができ身体中に凄まじい量の魔力と得体の知れない力がかけめぐり圧倒的な威圧感を周囲に振り撒いていた。


「凄い!! 身体中に力が満ちてくる!? これなら兄さんにだって勝てるぞ!?」


バリス……


「兄さん……悪く思わないでね? ハッハッ!!」


グエル……


「さぁ! お前たち!! 思う存分やってしまえ! でも殺すなよ? 殺すと村の連中がうるさいからな……」


「わかっています父上……殺さない程度に痛めつければいいんですよね?」


「残念だなぁ〜手加減しなくちゃいけないのか」


「そうだ、ではバリス! グエル! やってしまえ!!」


「じゃ、行くよ兄さん? フッ!!」


二人のスキルを使った攻撃に対して僕はもう何も抵抗するつもりは無かった。


今まで厳しい修行に耐えてきた……木刀の柄が血まみれになるほど素振りしたことだってある……でもみんなが僕の死を望んでいるのなら……それで…………。


“ミカエル? また明日、村の中を散歩しようね?”







“““いやだ! まだ死にたくない!!”””

 






「ッ……!!!」


ーーダンッ!!!


僕は昨日のアリスの言葉を思い出し、一瞬死にたく無いと思ってしまった。


それが僕の意志とは関係なく身体を動かしていた。


「ガハッ!! ゴホッゴホッ!! な、なに!?」


確かに力ではバリスやグエルの方が上だろう、でも僕には“技術がある”。


モンスターとの戦いを許されていなかったバリスたちはまだ知らない。


力も牙も爪もない人間がモンスターに勝つというのがどういう事なのかを。


「バリス!! 何をやっている!?」


バリスは勝手に僕が反撃をしないと油断していたんだろう、だから受け身も取れていないはずだ。


スキルを使った突進の勢いがそのまま返ってきたんだ、しばらくは動けない……問題は”勇者”のスキルを持つグエルか……。


「この!! スキルも魔力も無い出来損ないの分際で兄さんを! ハァッ!!」


動きは単調だ……またこのまま……。


ーーゴッ!!


「ダメだよ兄貴、油断しちゃ?」


「ゲホッ! ゴホッ! …………ッ!!」


僕が身構えているとバリスとは比べ物にならない程の速度で動き僕の腹に拳を当て一撃で意識の大半を刈り取った。


これがスキルの力……ごめん、アリス…………。


「凄いじゃないか!? これが伝説のスキルか!! 」


「凄いですよ父上!! このスキルさえあれば魔界に住む魔王だって倒せます!」


「ところでこの出来損ないの兄貴はどうしますか? 魔界に捨ててきましょうか?」


「ゴホッ、ゴホッ! 悪いグエル……油断した」


「気にしなくていいよ兄貴、普通に戦ったら兄貴の方が強いに決まってるんだから」


「そのゴミは明日魔界に捨てる、それまでは家の庭にでも捨てておけ」


そんな言葉を最後に僕の意識は完全に途切れた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「グゥ……ゴホッ、ゴホッ! あの後どうなったんだ……もう夜か……家には入れないよな……」


僕は明日捨てられるのか……? ……でも、もういいかな……僕にはもう何も無い、村から逃げても奴隷になるかモンスターのエサになるかだ……。


これ以上惨めな思いをするならモンスターに食われて死んだ方が……。


「ミカエル……!」


この声は……アリス……。


「ミカエル、大丈夫……じゃ無いよね……村のみんなから聞いたよ? スキルも魔力も無かったって」


「うん……」


アリス……そうだ僕にはまだアリスが……。


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