第29話 我が家は更に混沌と化す
暑苦しい夜が明けて朝になった。
俺は目を覚ます。左隣に紫都香さん、右隣に有佐が居た。お腹の上に乗っていた詩は俺の上にはおらず、俺と有佐の間に転げ落ちていたので俺は皆を起こさずに起きることが出来た。
俺はいつも通り起きて顔を洗ったりしてから朝ご飯を作り始める。これは実家暮らしの時から続けている習慣で家にいた時もお母さんには良く感謝された。
「お兄ちゃん、おはよ~」
俺が食パンを焼いていると詩が起きて来る。お腹の上から落ちていたから起こさずに起きれたかと思っていたけど立ち上がる時に身体が当たってしまったのかもしれない。
「ごめん、詩。起こしちゃったか?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが上京してからは私が朝ご飯を作ってるからその癖で早く起きちゃったの」
「俺の代わりに朝ご飯作ってるのか、早起き出来るように頑張ったんだな。俺が居た時は遅刻ギリギリになるくらいだったのに」
「うん、頑張った!! ……じゃあちょっと顔を洗わせてもらうね」
詩は洗面所に向かったので俺はまた引き続き朝ご飯作りを再開する。
続けて有佐も紫都香さんも起きて来る。そして、紫都香さんは当たり前のようにハグを求めて俺に近づいて来る。
俺は有佐に見られているのを理解しつつ紫都香さんをいつもの様にハグをする。紫都香さんは満足した顔を向けて来る。
それを見ていた有佐もまたハグを求めて来る。これを断るとまた面倒なことになってしまうと思ったので海外でする挨拶の様に軽くハグをして頭を撫でた。
顔を洗って洗面所から出て来た詩もまた一部始終を見ていたようで詩の頭も撫でてあげた。
全員の洗顔などの朝の準備が終わって朝食を取ることにした。皆が美味しいと言ってくれるので焼いたりレンチンしただけだが自己肯定感が上がった。
休日だが予定が特にないので朝食を終えた後はブレイクタイムを過ごした。俺と紫都香さんはコーヒーを飲み、詩と有佐はアイスココアを飲んでいた。そんな時、家のインターホンが昨日と同じ様になった。
「最近、朝の訪問が多いな……」
俺はボソッと呟きながら誰が来たのかを確認する。
モニターには雪葉と思われる女の人が映っていた。雪葉の様な顔立ちをしているが髪色があの黒髪ではなく派手な色に染められていた。大学デビューでもしたんだろう、と思いながらドアを開けに向かう。
何か用でもあるのかと考えながら扉の鍵を開け、取っ手に手を掛けた時紫都香さんに誰が来たのかを聞かれる。
「雪葉が来たんですけど、何か用があるのかなぁって思いまして……」
「まって!!」
俺が扉を開いた瞬間、紫都香さんが慌てて扉を開けるのを止めて来る。
しかし時すでに遅し扉は既に空いてしまった。
開いた扉の向こうから雪葉が家の中に入って来ると俺にぶつかってしまう。急に入って来たので不意を突かれた俺は簡単に押し倒されてしまう。俺が立ち上がろうとすると上に乗っかったままの雪葉の唇が俺の唇に当たる。
「え、な、なに…………」
咄嗟の事で理解できない俺。
「キ、キ、キスしちゃったああああ……。わたしの悠くんが…………」
玄関で膝をついて絶望に落ちたかのように動かない紫都香さん。
「あ、あれ~。雪葉、唇当たっちゃったぁ? これってぇキスって言うんですかぁ」
バカみたいな演技で笑っている雪葉。
「ねえ悠。唇柔らかかったぁ? 私はねぇ、凄く柔らかく感じたよ」
雪葉は依然会った時とは違い、呼び捨てで俺の名前を呼んでいた。
そんなことよりも今は膝をついて動かない紫都香さんをどうにかすることが最善だと思った。
「ご、ごめんなさ~い」
そう言い残して雪葉は去って行ってしまった。
俺は雪葉が出て行った扉を呆然と眺めていたが紫都香さんが固まっているのを思い出して俺は膝をついた紫都香さんの肩を揺らしながら呼びかける。
「紫都香さん……紫都香さん……」
「……ハッ!!」
「大丈夫ですか?」
気が付いた紫都香さんは相当ダメージを負ってしまったのか胸に飛び込んでくる。
「わたしが一番? わたしの側から離れない?」
紫都香さんは俺が答えるまで永遠に問い続けて来るので頭を撫でながら勿論一番ですよと答える。
そうして胸に飛び込んだままの頭を撫で続けていると情緒が平常に戻ったのか静かになった。
そこに有佐と詩も現れたので『俺の女友だちのキス魔が現れた』という説明した。二人は揃って『何を言っているんだ』と言う面持ちでこちらを見て来た。紫都香さんがキスされたと思っているんだろうか?
「キスをされたのは俺なんだけど、紫都香さんが落ち込んじゃってさ」
「「え……」」
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