第5話 さらばチャーリー

「はいはいはいはい。イマジナリーアームズさん、お疲れ様でしたー」


 エイトオーたち以外、誰もいないはずの社長室に突如響く拍手と合成音声。声のした方をみると、いつのまにかサンタのお面を被ったスーツ姿の男がいるではないか。


「ち、モミの木か。現れるのが遅かったんじゃないか?」


 エイトオーにモミの木と呼ばれたこの男。当然、本名ではない。財団所属のサンタが裏の仕事を終えた際、必要があれば登場する部隊だ。目撃情報の揉み消しに記憶の改竄、巻き添えを食った住民との交渉などが主な業務である。彼らは決まって深緑色に白のピンストライプの上下、黄緑色のシャツと深緑色のネクタイ、それとサンタのお面である。これまでもエイトオーの前に姿を見せたことがあるが、顔も年齢も、性別すらも分からない。


「いやー、エイトオーさんがお怒りでしたので、つい二の足を踏んでしまいまして」


 怯えた振りをしているが、声も変えられ表情も見えない状況では、彼の本意は彼にしか分からないだろう。


「嘘つけよ。それで、こいつはどうすんだ?」

「それはこちらで処理しますのでご安心下さい」

、ね」

「ご興味がおありで?」

「いいや、まっぴらご免だね。聞きたくもない」


 そう言ってエイトオーが大袈裟に身震いをすると、これを頃合いとモミの木が「おや、残念。それではまたいずれ。御機嫌よう」と恭しく頭を下げ、気絶したままの男を軽々と担ぎ上げて去って行った。


「おら、撤収だ。チャーリーで呑むぞ」

「たくさん吞んでいいっすか?」

「おう、呑め呑め、好きなだけ吞め」

「ヒャッハー!」



「お帰りなさい、イマジナリーアームズ。早速ですが次のオーダーです」


 チャーリーの店内にはエイトオーたちの他は誰もおらず、マスターは遠慮なくコードネームで話しかけるも、休息が取れると思っていた矢先のオーダーにたまらず愚痴を零す。


「おいおい、オーダーを終わらせて帰って来たばかりだってのに、そりゃねえよ」


 そんな声もさらりと受け流してマスターはカチカチと2回、音を立てる。


「ほう、行方不明事件の原因はドナルド&コリンズカンパニーの人形で、工場を破壊すればいいと。実に分かり易くて俺好みの作戦だな。……ん? カウンターに人形なんて置いたのか? 似合わねえな」

「いいえ、私は置いていませんよ。誰かの忘れ物でしょうかね」


 そんな話をしていると、鼓笛隊の人形は目を青く光らせながら太鼓をトントコトンと鳴らして行進。やがて二人の近くまで歩いてくると、突如、目が赤く明滅し始めた。


「危ねえ! 伏せろ!」


 怒声の後に響く、大きな爆発音。エイトオーたちは爆発の直撃から免れることが出来たが、崩落した天井が体の上にのしかかり、爆発のショックも相まって身動きが取れなくなっていた。そんな中、聞こえてきたのは若い男の声。


「やった、僕はやった! ついにサンタを殺したぞ! くそ爺の下で一生働くなんてご免だ! コリンさんと一緒にビッグになってやる!」


 ロク、そっちへ行っちゃだめだ。エイトオーは薄れゆく意識の中で叫んだが、その声がロクに届く事はなかった。

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