#06C改 蒼空の予言 そして目論見
蒼空さんを門前払いするわけにもいかず(陽音さん
「ぶっちゃけた話をするから、よく聞いて」
「っていうか、こんな朝っぱらから来る人はじめてなんですけど?」
「まあまあ、陽音さん」
と言いつつ、陽音さんはおもてなしに蒼空さんのコーヒーを淹れた。陽音さんと僕はカフェインが飲めないからって、デカフェなんだけど。つまり来客用に買ってあるあたり陽音さんらしい。
点滴のおかげか陽音さんの体調はいつもどおりに戻っているっぽいな。無理をしていないといいんだけど。蒼空さんはそんな状況を一切関知していないから、気を使うことなんてしないと思う。陽音さんの病状は伝えたほうがよさそうだけど、そのあたりは陽音さんの判断に任せようと思う。
「で、なに? またルア君絡みの話なら帰ってもらいたいんですけど?」
「そうかもしれないし、違うかもしれないわね」
「なに、そのはぐらかすような答えは。気に食わないなぁ」
「あたしには記憶がある」
「……は? ついに頭おかしくなった? 蒼空ちゃんってやっぱり皮肉が上手だよね?」
陽音さんは僕を一瞥してから、真顔で蒼空さんを見てため息をついた。相当
「そうじゃなくて。忠告しに来てやったの。このままだとルアが死ぬよ? それに現状はあたしにとっても不利だし」
「……待って。ルア君が死ぬ? いったい何を知ってるの?」
「なんでもよ。とにかく、『代償』をなんとかしないといけないわけ。そこで提案があるんだけど」
「待って。蒼空さん。代償ってなに?」
「蒼空ちゃんって話まったく聞かない人だから。話を勝手に進めてさ。ほんと自己中だよね」
そもそも代償という言葉の意味は、損害のつぐないとして代わりになにかを差し出すことだと思う。であれば、いったいなんの損害を誰に、なにを与えたのか。
「あんた達は記憶を失っちゃってるだろうけど、あたしは今回免れてるの。全部の記憶を持ったまま戻ってきてるから言うけど、すべての代償をなかったことにしたい。これがあたしの目的。いい、よく聞いて」
「……えっと、陽音さん理解できた?」
「ぜんっぜん分かんない」
蒼空さんは嘆息しつつ一から十まで説明をしてくれたけど、にわかには信じがたい話だった。何回か時間を遡ったり僕の病気を治したり、その『代償』として陽音さんが病に倒れたり。それだけじゃなくて、僕たち3人の中で誰かが5年以内に死ぬ運命にあるらしく、それも『代償』なのだと説明したけど、まったく意味がわからない。
「……SF映画の見すぎじゃないの? そんな話、馬鹿げてると思う。蒼空ちゃん、病院行ったら?」
「否定するのはちょっと心苦しいけど、蒼空さんの話はあまりにも現実離れしてると思うよ。そもそもそれが本当だとしたら、発端はなに? いきなり歩いていて時間が巻き戻ったなんてこと……ないよね?」
蒼空さんの話によると小学生のときの校外行事の、海岸清掃がはじまりらしい。そこで僕と陽音さん、蒼空さんはやんちゃをして、下草のえぼし岩の祠の扉を開けてしまい、そのタイミングで大波に飲まれて海に落ちたのが発端だと蒼空さんは話す。
その代償として、蒼空さんは『愛する者』から絶対に愛されないこと、18歳までに死んでしまうこと、嫉妬に狂うこと、その3つを代償として課せられたのだとか。だけど、あるとき僕が死んで(死んだのかよ)、自暴自棄になってしまったことがあった。再び下草の海に落ちた蒼空さんは『何者か』からの提案を安易に受け入れてしまったのだ。
その提案が『時を戻すこと』だった。
まず、小学生のとき助けてくれたのが『黄泉の者』という悪魔のような神。そして、時を戻したのが『誰でもない誰か』。
時を戻す代償として、小学生のときに黄泉の者により助けられた誰か1人が5年以内に死ぬ、という宣告だった。その結果、僕は脳腫瘍に倒れて死ぬ運命にあった。
その僕を救ったのが陽音さんだったのだ。陽音さんは『誰でもない誰か』に懇願し、自分の死と引き換えに時を戻して脳腫瘍を小さくし、手術可能にして僕の命を救うつもりだった。
けれど、ストーカーから刺殺される運命(代償)にある陽音さんを僕がかばって『代償を代償で支払う』という事案が発生して、陽音さんは助かったものの僕がいなくなってしまい途方にくれた。そこで『誰でもない誰か』に祈願して時を戻したのだ。その代償が僕の記憶と陽音さんの患ってしまった病気なんだとか。
蒼空さんの話のさわりはそんな感じ。
「で……それが本当だとすると蒼空ちゃんになんのメリットがあるの? 全部戻したら小学生のときにわたし達全員死んでるってことになるんじゃないの?」
「そうね。ただ一つだけ調べたことがあるの」
「……? 調べたこと?」
「まず、今回時間を遡ったときにあたしは記憶があった。わたし達の住んでいる世界というのは木の枝のように張り巡らされていて、色々な枝があるのよ。その枝一つ一つにあたし達が住んでいて、互いに認知できないようになっているの」
「よくタイムリープ系の物語に出てくる世界線ってやつ? 認知できないならなんで蒼空ちゃんは知ってるのよ。矛盾してるじゃん」
「だから、あたしもあんたも、ルアも、渡ってるからよ。ただ記憶がなくなっちゃうだけで。考えてもみなさい。たとえばパソコンでデータを移したとき、移動先に同じ名前のファイルがあったらどうなる?」
「上書きされるかコピーされる?」
「コピーされたらあたし達は二人いることになっちゃうでしょ? つまり?」
「上書きされて、その世界に合った記憶に統合される? だから記憶がなくなるってこと?」
「そう。でもあたしはそうならなかった。つまり、干渉した者がいるってこと。あたし達よりも高度な次元にいる……神のような存在が」
蒼空さんはコーヒーを啜って一呼吸置いた。陽音さんを見るかぎり、あまり信用していない様子だけど、それは僕も同じかな。到底信じられる話じゃないよな。
「それで発端となった下草の祠のことを調べたんだけど、伝承というか風土記的なものからは何も発見できなかった。存在自体がなかったことになってるみたいなのよね」
「待って。蒼空さんちょっといい? いきなりフィクションのような話をされてもついていけないっていうか……信じてないわけじゃないだけど、なんていうか……」
「新興宗教みたいな話だってこと。蒼空ちゃんの話はどう考えても科学的じゃないもん」
新興宗教のような怪しさが爆発したような話であって、実際に僕たちが時間を遡ったとか代償とか言われても理解不能だし、事実だとしても人間の能力でなにができるっていうんだろう?
「まあ、最後まで話を聞いて。年嶽神社の神様の『ツクトシノヒメ』は『シロヤエノワニ』を鏡を使って封じたっていう高花地方の神話に残っているのよね。年嶽神社は姫神様を祀っているっていうけれど、それは真実だと思う?」
「それは……分かんないけど、神社なんだから神様なんでしょ?」
「で、あたしは下草のえぼし岩の祠にもう一度行ってみたの。で、扉を開けた」
「あんなところを? 引き潮でも危ないんじゃなかったっけ?」
「まあ、ルアの心配ももっともだけど。やるしかなかったの。で、話を戻すけど、忠告しに来たの。あたしを信じられる事象が今から起きる。ルア今すぐ病院に行きなさい。12月20日の7時35分ちょうどにルアは倒れて下半身不随になる。脳腫瘍が再発していて、小さいけどそれが血管を締め付けるの」
「は……?」
思わず時計を見ちゃったけど、7時35分まであと30分じゃないか。
「待って。どこでそれを? そんな予言みたいなこと……」
「あたしは祠になにが祀られているのか分かった。年嶽もね。あたしを信じればルアは助かる。というよりも助かる運命になっている。だから来たの」
「……蒼空ちゃん、嘘だったら許さないからね?」
「嘘をつくメリットがどこにもないじゃない」
陽音さんは立ち上がって上着を取り、タクシーを呼んだ。救急車を呼ばなかったのは蒼空さんの指示だった。症状がまだ出ていないってことは病状の説明が難しく、そんな中で救急隊員とのやりとりに時間が掛かってしまうよりは、タクシーで移動して病院に着くころに多少症状が出たほうがいいと判断したらしい。
蒼空さんと陽音さんに両脇を挟まれてタクシーで移動し病院に着くと、予言のとおりに急激に頭が痛くなってきた。
半信半疑の看護師の前で僕は倒れて、意識を失った。
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