第24話


「おう坊主、出来たのか?」


「なんか良い匂いすんな」


 おっさん達がその厳つい鼻をひくつかせる。


「近々売りに出す予定なんで、楽しみにしててください。勿論おっさん達には無料でご馳走しますよ!」


「おお!そりゃ良い」


「楽しみにしてるぜ。嬢ちゃんも気をつけてな」


「(ペコリ)」「ばいば〜い」


 俺は路地を歩きながら、ガシャガシャと器具を運ぶミュゥに目を向ける。


「大丈夫か?」


「うん、平気〜」


「そか、ならそれ1回協会に置いてきちゃってくれないか?商業ギルドで集合しよう」


「商業ギルド?」


「ああ。店を出すにゃ権利を貰わないとな」


「ぉおー!お店出すの⁉︎」


「そうだぞ。ガッポガッポだ」


「売れるよこれは!絶対売れる!わーー‼︎」


 元気に走ってゆくミュゥを見送り、俺は商業ギルドへと足を進めた。


 そうして到着した、大きな建物。冒険者ギルドよりもデカい、そして綺麗だ。

 ギルドの中央には天秤と金のエムブレムが飾られている。


 俺は唾を飲み込み、少しだけ緊張に強張る足で小階段を上り、鍋を持ったまま肩で扉を押し開けた。


「……」


 大理石の床。敷かれたカーペット。デカいシャンデリア。

 客や職員の全てが小綺麗な装いに身を包んている。


 対する俺は黒いローブに良い匂いのする鍋1つ。……場違い感半端ねぇ〜。


 若干の目線を感じながらも、そそくさとカウンターへと進む。


「ようこそ商業ギルド組合へ。本日はどのような御用件でしょうか?」


「あ、店舗経営の許可と、あとその、お金を貸していただきたくて」


「承知しました。経営権の認可と、準備金の融資をご希望でございますね?」


「あ、はい」


 とそこで扉を開き恐る恐る中を覗いたミュゥが俺を見つけ、トテトテと走ってくる。


 俺の裾を掴んで後ろに引っ込んだ彼女に、職員も頬を緩めた。


「ふふっ。そちらの鍋は、売りに出す現物で宜しいでしょうか?」


「あ、いえ、これはその材料の1つです。現物も持ってきてます」


「承知しました。ではこちらの部屋で少々お待ちください。担当の者を呼んで参りますので」


「あ、はい」


 一室に案内された後、椅子に座り、2人して背筋を伸ばして待つ。


 ……数分後、眼鏡を掛けた初老の男性が、先の女性職員と共に扉を開け入室。

 俺達は慌てて立ち上がった。

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