殺人鬼から吸血鬼になってしまったらしい私はどうすりゃいいですか？

3話。やっぱりシスターヘレナは類友でした。

「シス……ター……？」

「！　これはこれは。この状態でまだ喋れる所を見ると、本当に化物に為ってしまったんですね？」

「？」

　頭、理解が追い付かない。心臓、その機能を停止させられたのに凄く熱い。身体も、麻痺したように全く動かない。

　これはなに？　夢？　実は電車で寝落ちしていた？　でも夢にしては思考がハッキリしてて重ったるい。

「――夢？」

「いいえ。これは現実ですよ」

（そっか……）

　あぁ――無慈悲に回答を得てしまう。

「死ぬ――？」

「はい。壱百夜君はもうじき死んでなくなります」

「亡くなる？」

「はい。なくなります」

（そっか……）

　あぁ――死ぬのか。そっか――僕は今から終わるんだ――。

「！　これはこれは……どうして笑っているのですか？」

「？　さぁ……わかんない。――もうじき終わるからかなぁ？」

「死ぬのは怖くないと？」

「――今、凄く心地よい気分。それが答え」

「そうですか」

「？　あっ」

　今の返答が気に入ったのか、シスターヘレナに膝枕をされる。

「これはお礼と慈悲です。久々に知り合いの死体が見られるという極上の背徳感を頂ける事へのお礼と、人の心を持ったまま死んでゆく化物に送る最期の慈悲」

「前半――シスターの言葉じゃない」

「それはそうですよ。私もシスターになる前は壱百夜君と同じ”殺人鬼”でしたから」

「！　この人でなし」

「貴方がそれを言いますか？」

　フフッ――と、笑い合う。杭が刺さる胸に然程痛みが無いお陰か、揶揄し合いながらも昼間の時の様なやり取りが更に僕達に笑みを零させた。

「ねぇシスター」

「はい。なんでしょうか？」

「僕達ってさ？　ただのクラスメイト？　それとも友達？」

「ふむ……今となってはどれもしっくりきませんねぇ――……！　ことわざではありますけど、私達ならではの言葉を思い出しました」

「？　――！　あぁ」

　ことわざと聞いて僕も思い当たる言葉に行き着く。

「同じ穴の――」

「狢。――ね？　私達の関係にピッタリな言葉だと思いませんか？」

　確かに――と、思いながら笑みをまた零す。曰く狢とはアライグマや狸、ハクビシン等を指す。さしずめ僕は凶暴なアライグマの巣に迷い込んだ狸といった所かな？

「じゃあさ？　同じ狢同士、一つお願いがあります」

「はい。遺言ぐらいなら聞きます。まぁ？　ボケた老人に伝えても無駄だと思いますけど。最悪ボケが加速して致命傷になりますし」

「おやおやまあまぁ」

　酷い言い草である。しかも凄く良い笑顔を浮かべて――。でもだからこそ今から言う最低なお願い事を言えます。

「シスターヘレナ。最期の晩餐として貴女の血を頂けませんか？　年頃の処女の血って柘榴に蜂蜜を掛けた様に甘酸っぱくて最高なんです」

「はい。嫌です」

「ゴフッ――」

　と、何時から、そして何処に持っていたか分からない銀色の鉄鎚で、僕の胸に刺さっている杭をブッ叩くのだった――。