4話 犠牲者

 鬼頭亜香子は、仕事を急いで終えて、恵子の父親に電話する

 「明日、そちらへ伺います。」

 「お願いします。」

恵子の父親は、達臣の父親、はなの父親、由美の父親に連絡して明日集まることにする。

 ちょうど、達臣たちが野分寺へ行って、1週間目の夜を迎える。

 恵子はスマホで、はなと由美に連絡する

 「明日、払い屋が来るそうよ。」

 「なら、もう大丈夫ね。」

 「助かった。」

3人は気が楽になる。

 達臣は父親から払い屋が来ると知らされる。

 彼は何事もなく終わりそうでホッとする。

 深夜4人はすでに寝ている。

 由美が目が覚める。

 すると外にいることに気づく。

 彼女はいつの間に外に出たのか覚えがない。

 確かに自分の部屋で寝たはずである。

 これまでにこのようなことは一度もない。

 彼女は焦る

 「どうして、どうして、どうして・・・」

しばらくして自分のいるところに気づき、肝が冷えてくる。

 由美は、野分寺にいたのだ。

 家からは簡単に歩いてこられる距離ではない。

 それがよりにもよって野分寺にいるとは。

 由美は野分寺から出ようとする。

 しかし足は動かない。

 足は彼女の意思に関係なく動いてゆく。

 本堂の方へ向かって、勝手に足が動くのだ。

 由美は青くなり

 「やめてよー」

と叫び、かがもうとするができない。

 「やめて、やめて、やめてー」

泣き叫ぶが足は止まらない。

 寺が赤く燃え始める。

 1週間前と同じ光景である。

 「いやあああぁぁー」

由美は狂ったように逃げようとする。

 しかし、体は言うことを聞かない。

 足は井戸の前に来ると止まる。

 「どうして私なの、いやよー」

由美は泣き叫び続ける。

 井戸の中から何か湧き上がってくる。

 それは井戸からあふれ出る。

 ぬらっとした水である。

 突然、井戸の中から2本の腕が伸び出てきて由美の頭を掴む。

 由美は逃げたいが体が動かない。

 腕は由美の頭を井戸の中に引き込む。

 彼女は顔を水中に入れられ呼吸ができない。

 顔を水につけた状態でおぼれ、苦しみに顔が歪む。

 翌朝、由美が起きてこないため、母親が起こしに行くと由美の姿はない。

 由美の両親は近所を探すが見つからない。

 両親は警察に届け出る。

 学校では、朝のホームルームで清水由美がいなくなったことが伝えられる。

 達臣、恵子、はなが集まって話す

 「どう思う。」

達臣が言う。

 はなが話す

 「絶対におかしいいよ。由美が何の連絡もなしでいなくなるなんてありえない。」

 「私もそう思う。」

恵子が言う。

 由美の両親は、もしかしてと思い、車で野分寺に行く。

 寺の入り口には、細井和重の塚と小川武信の塚がある。

 塚の間に細い道があり、寺の境内に続いている。

 「あの子たちこんな気味の悪いところに来たの。」

母親が気味悪そうに言う。

 境内まで行くと本殿の前にある井戸の所に見覚えのあるパジャマ姿の人が倒れている。

 駆け寄ると由美である。

 父親はすぐに救護隊に連絡する。

 母親は泣きだす。

 父親もどうしてこんなことにと悔しい思いになる。

 救護隊が到着するがすでに死亡している。

 救護隊に連絡を受けた警察も駆け付ける。

 両親は事情を聴かれる

 父親は説明する

 「娘は朝から姿が見えないので探していたのです。警察にも届け出をしているのでわかると思います。」

 「どうして野分寺に来たのですか。」

 「もしかしてと思ったのです。」

 「どうしてそう思ったのですか。」

 「娘たちは、1週間前、野分寺に来て怪現象に遭っています。」

 「怪現象と言うと幽霊とか出たのですか。」

 「はい、野分寺が火で燃えている光景になって生首が出たそうです。」

 「分かりました。娘さんですが溺れ死んでいるようなのです。」

 「こんなところでなんで溺れているのですか。」

 「分かりません。これから捜査することになると思います。」

 「はい。」

父親は足立恵子の父親に連絡する

 「娘が死にました。野分寺で倒れていました。」

 「お悔やみを申し上げます。」

 「私は今日集まることが出来ません。」

 「分かりました。」

恵子の父親は大変なことになってしまったと思う。

 明日、自分の子が死んでしまうのかもしれないのだ。

 由美は司法解剖されることになる。

 気道内に水が溜まっており、溺死と判断される。

 警察では、事故か事件か判断できず捜索が開始される。

 学校では、清水由美が亡くなったことをクラスに知らせる。

 達臣は驚き、恵子とはなは泣き崩れる。


 夕方、鬼頭亜香子は弟子の一条みおと助手のマッスルを連れて足立家に来る。

 足立家には恵子の父親のほか、達臣の父親、はなの父親がいる。

 亜香子たちが居間に入ると恵子の父親が話し始める

 「今日、4人のうちの1人が亡くなりました。」

亜香子が聞く

 「依頼の件に絡んでいますか。」

 「はい、野分寺で遺体が見つかったそうです。」

みおが言う

 「お子さんたちを見たいのですが。」

 「学校が終わったら来ることになっています。」

亜香子とみおは、父親たちと話していると手足がしびれるような感覚を覚える。

 それはだんだん強くなってきている。

 そして、達臣たち3人が家に来る。

 亜香子は、原因が達臣たち3人にあると確信する。

 これはこれまでにない経験である。

 亜香子はみおに

 「3人とも危険よ。」

と声をかけるが、返答がない。

 彼女が、みおを見ると彼女は目を見開いて青くなっている。

 亜香子はみおの体をゆすり

 「大丈夫。」

と聞く。

 みおは我に返り、亜香子に言う

 「先生、これだめです。」

みおの目には、3人の首に髪の毛のようなものが巻き付いているのが見える。

 その毛のようなものは燃えるように赤く光っている。

 亜香子はみおに聞く

 「どうダメなの。」

 「この子たち、呪われているのですが、こんな強力な呪い見たことがありません。」

 「とりあえず払ってみるわ。」

亜香子は丹田に力を籠めると柏手を打つ。

 みおは子供たちを見ているが呪いはびくともしない。

 「先生、効果がありません。」

亜香子たちの様子を見ていた恵子の父親が聞く

 「子供たちは呪われているのですか。」

 「はい、今のところ解呪できません。」

その場にいた者たちが青くなる。

 達臣の父親が言う

 「何とかできるんですよね。」

亜香子は正直に言う

 「強力な呪いにかけられています。怨霊もかなり強力だと思います。」

 「何とか怨霊を払えるんですよね。」

 「分かりません。」

亜香子の言葉にはなの父親は頭を抱える。

 恵子とはなは、恐怖に泣き出す。

 亜香子は自分には無理だと感じている。

 だが放っておくことはできない。


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