龍神の巫女の助手になる~大学生編~

ぽとりひょん

1章 井戸の呪い

プロローグ

 戦国時代、小川武信おがわたけのぶ山方早雲やまがたそううんに戦で負け、わずか5騎で敗走する。

 すでに自分の城は落とされ逃げ場をなくす。

 彼は旧知の仲の細井和重ほそいかずしげを頼って落ちのびる。

 和重は武信の姿に驚いて言う

 「どうした、その有様は、早雲に負けてのか。」

 「城も落とされた残っているのは、我々だけだ。」

 「野分寺のぶんじに話を通す。身を隠されよ。」

和重は武信に隠れるように言う。

 小川武信は細井和重の申し入れを受け入れて寺に身を隠すことにする。

 その夜、武信たちは戦の疲れが出て、深い眠りに落ちる。

 細井和重は悩んでいた。

 和重のもとには、小川武信が逃げ込んでくる前に書状が届いていた。

 書状の差出人は、山方早雲である。

 小川武信が追われて逃げ込んできたときには、武信の首を差し出すように書かれている。

 もし従わなかれば、攻め滅ぼす。

 従えば領地を安堵あんどすると記されている。

 和重に山方早雲に対抗する力はない。

 書状は命令書と言えた。

 だが、小川武信は、戦国の中で幼い時からの友人で手を取り合ってきた仲である。

 命令には従い難かった。

 家臣たちは言う

 「殿、迷っている場合ではございません。」

 「小川殿の首を取らないと我々は滅ぼされます。」

だが、和重は

 「しかし、武信は盟友だぞ。」

いつまでも答えを出さない和重に代わって、腹心の武士たちが動く。

 家臣たちは野分寺の本堂を兵で取り囲み、小川武信たちの寝込みを襲う。

 突然の襲撃に武信は

 「早雲が攻めてきたかー」

と叫ぶ。

 家臣が答える

 「あの旗印は細井です。」

多勢に無勢で4人の家臣たちは打ち取られ武信だけが残る。

 彼は細井の兵に囲まれながら言う

 「和重、裏切ったのか。」

 「いえ、殿は知りません。」

細井の家臣が言う

 「ならばなぜ我らを襲う。」

 「お家のためです。お命頂戴します。」

こうして武信は打ち取られる。

 和重が城で悩んでいると席を外していた家臣が帰ってくる。

 腹心の家臣が言う

 「小川武信様の首をお持ちしました。」

 「なに、命じていないぞ。」

 「私の一存でしました。責任を取らせてください。」

 「いや、責任は、ふがいない私にある。」

和重は家臣を責めない。

 和重は武信を想い、しばらく瞑目めいもくすると書状をかき始める。

 山方早雲にあてた、小川武信を野分寺で打ち取った旨と約束を守るように念を押した書状である。


 3日後、山方早雲の軍勢が領地の境に姿を現す。

 早雲から使者が送られてくる。

 早雲は首をあらために来たという。

 和重は使者に少人数で見分に来るように伝える。

 しかし、早雲の軍勢は動き出し町に入り城を取り囲む。

 細井の家臣が使者となって、山方早雲に抗議する

 「山方様話が違います。この軍勢は何ですか。」

 「大丈夫じゃ、城にはわしと数人しか入らんそ。」

 「分かりました。」

家臣は和重に早雲の言葉を伝える。

 和重は早雲の言葉は信じ難いものだったが門を開けるしかない。

 細井の兵は戦闘に備えるが門から敵に入られてしまえば防ぐ兵力はない。

 門が開けられると山方の兵が城の中に流れ込み、戦闘が始まる。

 いや、一方的な虐殺に近い。

 城の中では女子供まで殺される。

 そして、山方早雲の前に細井和重と妻が引っ立てられる。

 和重は早雲に叫ぶ

 「約束はどうした。」

 「何を行っているのかわからんな。」

 「きさまー、呪ってやる、末代まで祟ってやるぞー」

 「友と同じ、野分寺で首をはねてやろう。」

早雲はそういうと城の死体を野分寺に運ぶように家臣に命じる。


 山方早雲は野分寺で細井和重と妻の首をはねる。

 そして、井戸の水で首を洗うとさらして酒を飲み始める。

 寺の境内には城から運ばれた死体が積み重ねられ火を点けられ燃やされる。

 早雲は笑いながら

 「最初からお前の城が欲しかったのだ。」

 「小川武信は、お前の味方をするはずだったから最初に討っただけよ。」

 「わしの思い通りじゃ。」

 「あははははー-。」

この時、和重のさらし首の目がカッと開く。

 目は早雲を睨みつける。

 山方の家臣たちは驚き、たじろぐ。

 早雲は面白くなさそうに

 「なにもできないくせに。」

と言う。

 すると、死体を燃やしていた炎が回りだし、山方の兵を巻き込みながら寺の建物に燃え広がる。

 早雲は、家臣に連れられて危うく逃げ出す。

 その夜から山方早雲の枕元に細井和重が現れるようになる。

 早雲は狂ったように刀を振り回して、妻を切り殺してしまう。

 それは家臣たちにも及んだ。

 死んだはずの細井の兵が現れるのだ。

 耐えられない者は、高台から飛び降りたり、首を吊ったり、腹を切った。

 そのうち、怪死かいしするものが出始める。

 朝になると城の井戸の前に死体が倒れているのである。

 その死に顔は恐怖に歪んでいた。

 山方の兵たちは城から逃げ出したが山形の領地から逃れられた者はいない。

 山方早雲のある朝、城の井戸の前で倒れていた。

 死に顔は恐怖に歪んでいる。

 そうして山方氏はほろんでいった。

 領民は細井の呪いのせいだとうわさしていた。

 しかし、災いは止まらない、山方の領地に疫病が広がり、洪水などの災害に襲われる。

 山方の領民は、細井和重の怒りを鎮めるため、焼け落ちた野分寺を立て直し、寺の横に細井と小川の塚を造る。


 山方と細井の領民は、細井和重が亡くなった6月3日に慰霊祭を行うようになる。

 戦時中、慰霊祭が中止される年があったが、その年は、山方市の河川が決壊して洪水が起こり多くの死者を出す。

 それからは慰霊祭は欠かさなくなる。

 山方を治める者も野分寺への就任の挨拶は欠かさない。

 江戸時代に山方城の城主になった者に挨拶をしない者がいたがすべて狂い死んでいる。

 そのため、山方市の市長になると野分寺に挨拶に行く。

 宗教の公平性に異議が出そうだが、山方市民にとっては当たり前のことになっている。

 こうして、現代にまで細井和重の呪いや祟りは言い伝えられている。

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