間章 ヒロキを狙うもの

 男が二人いた。それぞれが別の場所におり、お互いに立場もヒロキとの関係性も全く違う二人だ。


 一人は整えた黒髪をしっかりとワックスで固め、いかにも真面目といった印象を受ける男。メガネをかけた奥にある瞳は常に物事を冷静に見つめる冷たい色をたたえている。

 固く引き結んだ唇からはそう簡単に笑顔というものはこぼれない。

 男は笑顔のないやつ、と弟に呼ばれていた。


 別の地にいるもう一人の男はふわりとしたウェーブがかった金色の髪に赤いメッシュを入れた派手な男だ。目元は愉快なものを見るように細められ、口元が常に楽しんでいるかのようにずっと弧を描いている。

 だが張りついた笑みにも見えるそれは本当に笑っているのか、いないのか。怪しい雰囲気を漂わせる男だ。


 二人はそれぞれが全く違う場所にいる。

 二人はそれぞれ、電気も点けない暗い部屋でパソコン画面を見ている。

 調べている内容は二人とも同じ内容だ。

 そして二人は同時に言葉を放っていた。


『見つけた』


 真面目な男は顔をしかめ、派手な男は笑みを濃くする。お互いに探し求めていた存在をようやく見つけることができたのだ。


『連れ戻さないと』

『ボクのものにしなくちゃ』


 男たちの考えていることも、もちろん別々だ。大切だからそばに置きたいという気持ちと相手を支配しておきたいという欲。それはどちらも相手のことを考えていない、己の欲でしかないものだ。


 この人物を見つけるまでには、いなくなってから三ヶ月という月日が経ってしまった。ずっと探していたのだ。これでようやく彼の元に行くことができる。


 二人がパソコンを使って見ていたのは、とある田舎町の紹介ブログだ。最近更新したらしいそれには田舎町の物産や魅力、町にある名物店などを紹介しているものだ。

 その中にはとあるスーパーの紹介もあった。スーパー“太陽”という小さな店だ。

 そこを紹介する写真には二人の人物が並んで写っている。一人はニコニコと愛想の良さそうな背の高い人物。もう一人は背は小さく、ちょっと戸惑うように笑っているがどこか幸せそうな人物。


 二人が探していたのは小さい方だ。

 二人はその名前をつぶやく。


「ヒロキ、なんでこんなところにいるんだ。隣にいるやつは誰なんだ……」


 二人は忌々しい気持ちで、その写真をジッと睨んだ。

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