2章 バイト編

第8話 ヤバい奴

(佐矢香視点)


「はいお疲れ様!! 瀬名ちゃん、今日も素晴らしかったよぉ!!」


「ありがとうございます。では楽屋に戻りますね」


 私はいつも通り撮影に入っていた。

 ベッドに寝そべったり、流行の服を着て机に寄りかかるポーズをとったり。

 

 それらの写真は、雑誌の表紙とかに載せられる予定だ。

 なので恥じがないよう気合を入れ、見事ディレクターからお褒めの言葉を頂く事が出来た。


「やっぱ瀬名さんはいいよなぁ」


「確かに。でもガードが中々固いらしいからな。家に入れてもらう事にも根気がいりそうだぜ」


 私が楽屋に行っている時、スタッフの方々から話し声がする。

 

 それに関しては否定はしない。

 これまで男性と食事に行った事すらないし、女友達や家族以外でアパートに入れた事もなかった。


 まさかその私が彼を……勇人君を同居させるとは。

 楽屋に入った後、私は奇妙な想いをした。

 

「友田勇人君かぁ。まさか二度も会うなんてね」


 撮影後の握手会で終わったと思っていたのに。

 神様も枠な事をしてくれる。

 

 しかも彼と私は遠い親戚関係。

 勇人君のお母様から彼の写真を見せられた時や、そういう事実を伝えられた時なんか、ビックリしすぎて軽く思考停止しちゃったっけか。


 ともあれこれは、運命なのかもしれない。

 握手会に会ってから、私は勇人君の事が気になっていた……いや訂正。珍しいなと思っていた。


 私を握手した方々は、例外なく熱のこもった目をしていた。

 もちろんファンだから当たり前の事だし、私もそうした方々に出会えるのは嬉しかった。


 そんな中で、私と握手をしてもあまり動じなかった子がいた。 

 そう、それが勇人君。


 私に興味なかった、あるいは知らなかったと言えばそうなんだろう。

 でもそんな勇人君が目の前に現れた事で、『私の事を知らない』彼に『私自身を教えたい』と思うようになった。


 そして私も『彼の事をよく知りたい』。

 お互い知る事で色々と深めたい……そんな期待感を抱いているのだ。


「やっぱり年下好きだな私……。まぁそれよりも楽しみね、勇人君と一緒に過ごす日々」


 私はスマホに保存した勇人君の写真を見た。

 お母様曰く、テレビを見ている最中にこっそり撮ったものらしく、当本人はテレビに夢中で全く気付かなかったとか。


 そういう無防備なところ、少し萌えるんだよね……。


 私はもう穴が開くくらいに、勇人君の写真を凝視していた。

 飽きるなんて言葉、今の私にはなかったとは思うな。 



 ◇◇◇



(勇人視点)


 瀬名さんのアパートに向かってから、だいぶ経った頃。

 

「あっけなく中学卒業しちゃったなぁ」


「ああ……」


 俺は悪友と一緒に帰路についていた。


 今さっき卒業式を終えて、中学をサヨナラバイバイ。

 数日の春休みを堪能して、それから高校進学をする予定だ。


「どうしたぁ勇人? なんか様子が変だけど?」


 卒業証書が入った丸筒を回しながら、悪友が聞き出してくる。

 

 コイツの名前は赤坂亮あかさかりょう

 瀬名さんの撮影イベントに連れて行ってくれたのもコイツだ。


 バサバサとした茶髪に、ちょいとイケメンっぽい顔立ち。

 コイツとは小学からの縁で、互いの両親もそれなりに仲良しだ。


「……なぁ、俺の顔って可愛いか?」


 俺は以前に言われた瀬名さんの言葉が気になっていた。

 亮に尋ねたところ、ソイツの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


「いきなり何だ? ……まぁ、やや中性的だなぁって思っているけどさ」


「そっか。ならいいけど」


「……もしかして引っ越しの時に何かあった? お前、遠縁の人と住むって聞いたし」


「別にそれは関係な……えっ、何でその事知っているんだ!?」


 引っ越しの件はもう伝えてある。

 でも遠縁の人と一緒に住むなんて話、コイツにはしていないつもりだ。


 どこからか漏れてしまったのか?


「スーパーで買い物した時、お前のお母さんに会ってな。その時にそういう話をしてくれたんだ。あー、さすがに誰なのかってのは聞いてないから」


「そ、そっか……」


 母さんめ……ベラベラと喋りやがって……。

 

 コイツは父さんヤンデレ変態と同様、瀬名さんの大ファン。

 それで俺は今日から、瀬名さんのアパートへとお世話になる。


 もし、俺が彼女と同居する事を知られたら……いやあっちの変態のようにならないとは思うが。ていうか思いたい。


「いいなぁ、そういう人がいてさ。お前と同じ高校に通うってのに、俺は電車通学だよ。バイトとかしなきゃなぁ」


「大変だな……」


「大変の大変。ハァ……どうせならサーヤの家にお邪魔したいなぁ。そんで間近で視姦したい」


「…………」


「おいおい、そんな養豚場の豚を見るような目するなよ。冗談だって」


 いや、お前の発言にドン引きしたのは間違いじゃないけどさ。

 俺はそのシチュエーションに晒されているんだよ……。


「……亮、もし仮に俺が瀬名さんの家に転がっていたらどう思う?」


「さっきから変な質問すんなお前? でもそうだなぁ……もしかしたら嫉妬心が暴走して、お前の事をどうにかしてしまいそうかも」


 ……あれ? 俺の周りの男ってヤンデレだらけ?

 

 今の亮、目からハイライトが消えているし笑顔が怖いし……本当に誰か助けて……。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第2章開始です。

「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や♡やレビューよろしくお願いします!

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