第13話  逆襲の手

 俺のそんな疑問と驚きもさておき、ヒナタがムーンさん、いや瀬川さんを見て声をあげた。


「洋介くんと浮気していたのって瀬川さんだったの⁉」

「浮気という事実は存在しませんが、クリスマスの日にお会いしましたね」

「クリスマスの日にお会いした?……どういうこと?」


 冷静に返した瀬川さんの言葉で頭の上に?マークを浮かべた亮に、俺がイブにヒナタの浮気シーンを目撃してなんか次の日にネッ友と会うことになったんだけど、そのときにまた偶然ヒナタたちと会って、そこでショックで倒れそうだった俺を慰めてくれたネッ友が実は瀬川さんだったらしい……みたいなことを簡単に話そうとしたが、その前に答えを示すように瀬川さんはスマホを取り出した。


「おそらく、説明するより今から流すものを聞いていただいていた方が早いと思いますので、少しご静聴願います」


 静かになるのを確認すると彼女はそうしてスマホをタップした。すると、音声が流れだした。


『どういうことだよ……』

『ッ——それはこっちのセリフだよ……。洋介くん、その隣にいる女の人は誰?』


 俺は思わず、えっ?と声を出しそうになったのを堪えた。なんで“あのとき”の会話が今流されてるんだ?まさか……録音していたのか?


『安心してくれ。ヒナタの邪推しているようなことでは決してないから。……こっちはな』

『……こっちはって何よ。私たちは何もしてないわよ』

『……』


「ちょっ、なんでこれを持ってるのよ!今すぐ止めなさいよ!」


 これ以上流されると少しまずいことに気付いたのかヒナタがそう声を上げて、立ちあがり音声の再生を止めさせようとするもその前に亮が立ちはだかりそれを阻止する。その間にもどんどん音声は進んでいく。


『昨日の夜、お前ら二人を見たんだよ……。腕を組んで、仲良くホテルに入っていくのをな……』

『……』

『それについてどういうことか教えてもらってもいいか?』


「ねぇ、止めて!お願い!」


 そう悲痛な声をヒナタがあげると、流石にこれでは聞こえないと思ったのか、それともお願いされたからかは知らないが、瀬川さんは一旦音声を止めた。俺の方をチラリと見てくる。俺はそれに対して黙って縦に首を振る。そうすると、最大音量で音声の再生が再開された。


『それはその……、クリスマスイブっていう恋人同士の大切な日に私をほったらかしたのが悪いのよ!その間どうせ洋介くんもその隣にいる女の子と楽しんでたんでしょ!』


「あっ、ああ……」


 ヒナタは言葉にならない声をあげて頭を抱えるも、もうどうしようもない。


『あのですね。ヨースケさんh』

『そうか……。ごめんな。ヒナタの気持ちを分かってやれなくて……、じゃあもう終わりにしようか……』

『洋介くんとその隣の子がどういう関係かは言わないのね……。まぁ、そうね……。じゃあ、別れましょうか……』

『ごめんな……、ヨースケ』

『……』


 ここで音声の再生は止まった。


 教室中の視線は疑惑ではなく、完全な嫌悪を帯びた視線に変化して、ヒナタと隣で伏している啓汰を突き刺していた。


 ニッコリと笑って瀬川さんはヒナタに話しかけた。


「岩崎さん、あなたの浮気が最初ですね」

「ちっ、違うの。この前から洋介くんはあなたと浮気をしていて」

「証拠はあるんですか?」

「そっ、それは……」

「……ないなら、それこそあなたの言っていた推論じゃないですか。確かこの法治国家では推論だけでは有罪にはならないんですよね」

「……」


 そうして、特大なブーメランを返されたヒナタは黙りこくってしまった……。




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次回でこのシーンは終わりです。

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