ゆるゆる道場のおはなし会シリーズ4 ひかりのさき

@Mochiyama_Mochitaro

第一葉 苦情

 ケアマネジャーというのは、なんという割の合わない仕事なのだろう。まぁ、どんな仕事でも多かれ少なかれあることだろうが、いい仕事をするほどマイナス評価を受けるという理不尽な環境にたたき落とされたとき、それでも構わずにいい仕事を続けられるやつがいたとしたら、そいつは本物だろうな・・・・・・。

 里山は、今日こそはまともな睡眠をとろうと決めていた。担当している透析患者が大流行中の新型コロナ感染症の検査で陽性判定され、車いす送迎の事業者から透析の送り迎えを拒まれてしまったのだ。前回の流行が収まったとき、かかりつけの病院からは次の流行で万が一陽性判定されたとしても入院して透析を続けられるよう全力でサポートすると伝えられていた。なのに、いざ流行のぶり返しで病室の余裕がなくなると、あっさりと約束を反故にされてしまった。透析が欠ければ命に関わる。しかし、他の病院も似たり寄ったりだ。この二日間、この問題の解決に死に物狂いで動いた。もう限界だ。今日は必ずまともな睡眠をとるぞ。

 最後の送信記録を保存してコンピューターの電源を切ったそのとき、携帯電話が鳴った。

 「あのう、もしもし、転坂ですけど、遅い時間にすいません」

 「転坂さん、どうされました?」

 「いえね、今日ヘルパーが来なかったんだよ。俺だってね、いろいろやることがあるしさ、ヘルパー来るの待っててすっぽかされるのは嫌なんだよ。ヘルパー来るときはさ、それなりに準備したりさ、これでも気を遣ってるんだぜ。それがさ、・・・・・・」

 「それは申し訳のないことでした。明日の朝一番で担当者に事情を確認します。それにしても、ヘルパーの担当者からは何の連絡もなかったのですか?」

 「それがよう、俺もちょっとしくじって、今日急に友だちに誘われて携帯持たずに出ちゃってよ、帰って着信はあったけど録音はなかった。」

 「そうですか・・・・・・。どのような事情であったか明日きちんと確認してみます」

 「いや、別によう、俺はあんたを責めているわけじゃないんだ。こりゃヘルパーの問題だからよう。俺はあんたにすごく感謝してるんだ。5年前に俺のお袋が死んだとき・・・・・・」

 里山は相談記録簿を開き、「お袋」と書き留めた。



 

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