第26話 凜花の狙い②
「えぇ⁉ それじゃあ凜花と今度の休日、デートするの⁉」
「あぁ。でも、凜花が俺とデートしたいと本気で思ってる気がしないんだ。だから、これは罠なんじゃないかと疑ってるんだけど……実際の所、どう思う?」
凜花の心の内を確かめるため、俺は南央の意見を聞いてみることにした。
模試試験で凜花に勝負を仕掛けられたこと。
負けた方が、勝った方の言うことを一つ何でも聞いてあげるという条件を取り付けたこと。
そして見事に俺が負けて、凜花が出してきた罰ゲームの条件が、デートをすることだったこと。
大まかな経緯を説明して尋ねてみると、南央は悩まし気に首をひねった。
「うーん……私、橘田さんとそんなに仲いいわけじゃないから分からないけど、多分罰ゲームを口実に、ただ慶悟と遊びたかっただけだと思うな」
「いやいやいや、それはないだろ。だって根暗でボッチな俺だぜ? 凜花にメリットなんて何もないじゃないか」
「というか、慶悟はどういう経緯で橘田さんと仲良くなったわけ?」
「ずっと、学校の校舎の骨組みでトレーニングしてるところを注意され続けてた」
「なにそれ? 意味わかんないんだけど」
まあ正直、俺だっていきなりデートに誘われるとは思っていなかったので、意味が分からないのは変わりない。
「だから俺は、罰ゲームという名のドッキリなんじゃないかって思ってるんだよ。当日、俺を矢面に立たせて恥をかかせる的な」
「流石にそこまで橘田さんも鬼畜じゃないと思うけどな……」
「でもそうじゃないと、俺をデートに誘いだす理由が分からん」
凜花にとって、俺は超えるべきライバルだと言っていた。
だとしたら、デートなどという気休めの関係を求めているはずがないのだ。
「まっ、勝負に負けたら何でも受けるって言っちゃった以上、デートにはいくしかないんじゃない?」
「そうだよなぁー」
結局、南央も俺と意見は一緒だった。
デートに誘われた以上、男としてちゃんと行くべきだと。
けれど、まだ不安は拭いきれなかった。
◇◇◇
テストの復習を南央とやって、夜も耽ってきた頃。
俺はとある人物へメッセージを送っていた。
『今、電話できるか?』
メッセージを送信すると、即既読が付いた。
そして、返事が来る前に、向こうから電話が掛かってくる。
俺は着信ボタンを押して、スマホを耳元へと傾けた。
「もしもし? 彩音か?」
『やっほー! どうしたの? 慶悟の方から電話してきてくれるなんて珍しーじゃん! もしかして、アーシの事好きになっちゃった?』
相変わらずのハイテンションっぷりに、電話していいかと声を掛けてしまったことを後悔してきてしまう。
とはいえ、南央の推しである配信者canonちゃんであることに変わりはないし、模試では全国八位の実績を誇る逸材なんだよなぁ……。
「その……ちょっと彩音に相談というか……」
『おっ、珍しいじゃーん。慶悟から相談とか。何々、何でも聞くよ?』
彩音は興味津々といった様子で食い気味に尋ねてくる。
「実はさ……とある女の子とこの前の模試でどっちの方が成績が上になるかっていう
対決をしてたんだ」
『うんうん。それで?』
「んで、負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くって約束をしてたんだけど……罰ゲームの内容が、デートをしろって言う命令だったんだけど、これってどういうことなのかな?」
『はっ⁉ デート⁉ ちょっと待って。勝負してた子って女なの? いつ、どこでデートすんの?』
彩音は声色を変えて、尋問のように質問の応酬をしてくる。
「落ち着けって。まだ日程は決まってないよ」
『あっそ。なら別にいいし』
何故か彩音は、そこですっと興味を失ってしまったかのように呆れた声を漏らした。
「それでさ、これってどういうことだと思う?」
『どういうことって、そのまんまの意味なんじゃないの?』
「そのまんまの意味って?」
『はぁ? そんなんも分かんないワケ?』
「分からないから、男慣れしてそうな彩音に相談してるんだよ」
『別にアーシ、男慣れしてないんですけど。まっ、教えてあげる代わりに、いつどこで何のデートすんのか教えてくれるっていう条件なら、教えてあげてもいいけど』
「分かった。約束する」
『いったね? 言質取ったからね?』
「分かったってば」
本当は、興味津々なんじゃねぇか。
そんなことを思っていると、彩音が一つ息を吐いてから口を開いた。
『その子はきっと、慶悟に模試で勝って、デートに誘いたかったんっしょ』
「えっ……?」
それじゃあまるで、元から凜花が俺と一緒にデートしたかったみたいに聞えるんだけど……。
「凜花が俺をデートに誘いたかった?」
『ふぅーん。その女、凜花って言うんだ』
「あっ……」
しまった、個人情報を流失させちまった。
てか、彩音の声色がさっきから怖いんですけど……なんで?
『そんで、慶悟はその凜花って事デートに行くワケ?』
「そりゃまあ、罰ゲームだからな」
『ふぅーん。そっか』
彩音は微妙な反応を示す。
『まっ、せいぜい黒歴史にならないように気を付けな。そんじゃ、アーシそろそろライブ始めるから、そろそろ切るね』
「おう、時間取らせて悪かったな」
彩音との通話を終えて、俺は自室で一人ため息を吐いてしまう。
「凜花の奴……マジでどういう意図で俺をデートに誘ったんだよ……」
謎はさらに深まるばかりで、結局凜花の思考を読み取ることは出来なかった。
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