第15話 弁当の代わり

 午前中の授業を終えて、お昼休みを迎えた。

 朝、小塚さんからお弁当を作ってくると言われてしまっていたけど、どうなるのだろうか?

 連絡先を知っているわけではないので、どこに集まって欲しいとかも言われてない。

 ひとまず、教室で待ってみることにした。


 しかし、十分、ニ十分経てど、小塚さんの姿を現さない。

 他の生徒たちは、食べ終わる生徒も出てきている。


「俺もそろそろトレーニングしないと」


 そろそろ、お昼休みの懸垂トレーニングをしないと、午後の授業に間に合わない。

 教室の入り口を見て見るものの、小塚さんが訪れる気配はない。


「諦めるか……」


 俺は席を立ち、母ちゃんが作ってしまったお弁当を手に、プール横の花壇へと向かう。

 急ぎ足で階段を駆け下り、最後の六段ほどを一気にジャンプして飛び降りた。

 そして、左手にある昇降口へ最短距離で向かおうとした時――


「きゃっ⁉」

「おわっ⁉」


 突如、死角から女子生徒が現れた。

 流石の俺も、止まり切ることが出来ず、女子生徒と正面衝突してしまう。

 女子生徒が抱えていたノートが辺りに散乱してしまった。

 俺は慌てて起き上がり、尻餅をついてしまった女子生徒の元へと駆け寄って謝罪する。


「あのっ、ごめんなさい! 前方不注意でした! 怪我とかしてないですか?」

「はい、大丈夫です……」


 お互いの視線が交わり、俺ははっと目を見開いてしまう。


「あれ、小塚さん⁉」

「あっ……先輩」


 なんと俺がぶつかった相手は、小塚さんだった。


「えっと、ごめんね。今ノート集めるから」

「あっ、すいません」


 ひとまず、辺りに散乱してしまったノートを拾い上げていく。

 綺麗に積み上げて、俺は彼女へ手渡した。


「これで全部かな?」

「はい……手伝っていただきありがとうございます」

「いやいや、元はと言えば、俺がぶつかっちゃったのが悪いんだし」

「いえ、私もノートの山で、前があまり見えていなかったので」


 そう言って謝って来る小塚さんの手元には、顔が隠れてしまうほど山積みになったノートの山が形成されていた。


「これ、教室に持っていくの?」

「いえ、職員室に持っていきます」

「なら、手伝うよ」

「でも……」

「いいから、いいから」


 俺は、彼女の手元から半分以上のノートをひょいとかっさらってしまう。


「あっ、ありがとうございます……」

「いいって、いいって。力仕事は得意だから」


 余裕ぶって見せると、小塚さんはぺこりとお辞儀をしてきた。

 来た道を戻るようにして、俺と小塚さんは階段を登っていく。


「あの先輩。ごめんなさい、昼休みになったらすぐに先輩の元へ行こうとしたんですけど、先生から色々頼みごとをされてしまいまして……本当にごめんなさい」


 歩きながら謝って来る小塚さん。


「いや、そう言うことなら仕方ないよ。また今度の機会に食べさせてもらうからさ」

「本当にごめんなさい」

「そんなに落ち込まないで。むしろ作ってきてくれた気持ちだけでありがたいんだから」

「……先輩は優しいんですね」

「そうか? 別に優しくしてるつもりはないんだけどな」


 普通に当たり前のことを言っているだけのような気がするけど……。


「あの先輩」

「ん、どうした?」

「せ、先輩って、今日の放課後って時間ありますか?」

「えっ? まあ特に予定はないけど……」

「でしたらそのぉ……私の家に来ませんか?」

「えぇ⁉」 


 突然のお誘いに、俺は戸惑いの声を上げてしまう。


「いやっ、いきなりは流石に、ご両親とかに迷惑なんじゃ……」

「いえ、お母さんもお父さんも、お仕事に出ているので、家には夜遅くまで帰ってこないです」


 なら尚更まずい。

 初対面から二十四時間も経たぬうちに、後輩の女子生徒家に上がり込むなんて、ハードルが高すぎて出来るわけがない。


「ちなみになんだけど、家で何をするつもりなの?」


 俺が恐る恐る、確認の意を込めて尋ねると、小塚さんがバッと顔をこちらへ向けてきた。


「その……! 先輩と一緒にこの前行われたサスケを視聴したいんです!」


 先ほどまでのしおらしさが嘘のように、小塚さんの目はきらきらと輝いている。

 どうやら、俺とサスケの話が出来るのが相当嬉しかったようだ。

 まあ共通の趣味の話が合ったりすると、盛り上がったりできるもんね。


「ダメですか?」


 潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくる小塚さん。

 うぅ……そう甘えられた視線で見られると、断りずらい。


「じゃあ……俺の家ならどうかな? 俺もサスケは昔の大会の物まで全部DVDに焼き増しして映像として残してあるんだ」


 それに、母がいるので、二人きりで気まずい雰囲気になる心配もない。


「い、いいんですか?」


 食い気味に尋ねてくる小塚さん。


「うん、小塚さんが良ければだけど」

「では、お、お邪魔させていただきます」


 小塚さんは深々と頭を下げて、感謝の意を伝えてくる。

 こうして、俺は放課後に、小塚さんとサスケを視聴する約束を取り付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る