第44話:卑劣な罠
「30人か……シュネー・ヘルデの
キースが馬を走らせながら、背後の討伐隊を振り返る。
「魔物の討伐隊だ。これくらい気合いを入れるのも当然だろう」
キースたちと共に討伐隊の先頭を馬で走りながら、ディアラドは答えた。
最初は討伐隊の背後についていたのだが、馬の足が全然違う。
自然とグレイデンの四人が先頭につくことになった。
幸い作ったばかりの街道は一本道で、迷うことはない。
「シュネー・ヘルデの斥候くらい、俺たち四人で充分なのにな」
キースがわざとらしく大あくびをし、馬上で伸びをする。
「油断禁物だぞ。本隊や女王が近くにいれば、加勢に来る可能性もある」
(シュネー・ヘルデを見た人間が、中途半端に攻撃をしかけていないといいが……)
素早く斥候を
圧倒的な力の差を見せつけて追い払うのだ。
これがシュネー・ヘルデ対策の基本だ。
だが、ミドルシア王国の人間は、シュネー・ヘルデの習性をよく知らない。
シュネー・ヘルデは一見、斥候を送るような慎重さがある魔物だが、仲間の危機を群れの危機と
そうなると、百を超える魔物との戦闘になる。
斥候よりも、女王を守る本隊の魔物のほうが体も大きく強い。
しかも数が多いので制圧するのが難しくなり、大きな被害が出てしまう。
「女王が出てきたら最悪だな……」
キースが顔をしかめる。
「女王と戦うのなら、おまえの剣がないとヤバいかもな。やっぱり公爵家に寄って取ってきた方がよかったんじゃないか?」
キースの言葉にディアラドは首を振った。
「いや、さすがに女王はまだ来ないだろう。本隊が出現しているなら、既にかなりの人的被害が出ているはずだ」
「まあ、そうだな。余計なことはせず、俺たちの到着を待っていてくれたらいいんだけどな……」
キースも同じ
(ここは魔物に慣れたグレイデン王国ではない。王太子の近衛兵といえど、魔物との戦闘ではむしろ足手まといになる可能性すらある……)
パニックになれば、同士討ちなども起こりうる。
「……とにかく、シュネー・ヘルデを見つけたら、俺たちで一気に
ディアラドはルシフォスの用意した討伐隊を戦力に入れていなかった。
自分とキース、そして連れてきた近衛兵の四人で倒すつもりだった。
(早く片付け、セイリーンの元へ行かねば……)
自分を見送る不安そうなセイリーンの顔を思い出すだけで、胸が痛んだ。
(気丈に振る舞ってはいるが、頼りにしていた父が病に倒れ、心配でたまらないだろう……)
ふっと昔のことを思い出した。
高熱を出し、苦しむ母をなすすべもなく見守っていた13歳の自分とセイリーンが重なる。
「ディアラド!」
キースに声をかけられ、ディアラドはハッと追憶から現実に引き戻された。
「大丈夫だ。セイリーン嬢もサイラス公爵も。俺がついている。薬草も持ってきている」
キースの言葉に、ディアラドは肩に力が入っていたことに気づいた。
「そうだな。でもおまえの薬草はちょっと怖いから……。いざという時は、ちゃんとした薬草学の先生を呼ぶよ」
「失礼だな、おまえ!」
憤慨するキースに、ディアラドは笑みを浮かべた。
(キースのおかげで焦っている自分に気づけた)
(狩りに集中しなくては……)
ディアラドは油断なく周囲を見渡した。
(馬を走らせて、もう一時間くらいか……)
だが、辺りにシュネー・ヘルデの姿は見えない。
「魔物が出現したのはどの辺りだ?」
ディアラドは振り返って、討伐隊の兵士に尋ねた。
「え、ええと、その……もう少し先です……」
討伐隊はディアラドたちを恐れているようで、何度か声をかけても
依頼に
魔獣の毛皮を羽織った異国の王――恐れられ、避けられるのは珍しくない。
特にグレイデン王国のことをよく知らない末端の兵たちでは仕方がない。
討伐隊の隊長が声をかけてきた。
「この辺りで目撃されたようです」
「……思ったより王都に近いな」
ディアラドは少し驚きながら馬を止めた。
歴史の長いミドルシア王国では魔物の目撃が極端に少ない。
人と魔物の縄張りがはっきりしているからだ。
「凶兆でなければいいが……」
そう呟いたディアラドは殺気を感じ、振り向いた。
「……っ!」
ルシフォスの討伐隊がざっと横に広がり、ディアラドたちを半円を描くように取り囲んでいた。
「なっ、なんだ、これ!」
キースが驚いて討伐隊を見回す。
討伐隊の動きは統制が取れ、他国の王に
彼らの目に迷いはない。
(王都から離れた、
ディアラドは状況を一瞬で把握した。
「罠だ!」
ディアラドがそう口にした瞬間、一斉に矢が放たれた。
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