第4話 レベルアップ


 ――レベルアップ。


 それが感覚的に理解できる。

 力が沸き上がる感覚と言うのか。

 脳内麻薬が湧き出る感じなのか。


 身体と心が強くなるような、そんな直観。


 そして、新たなスキルを得た自覚もある。


 自分のレベルやスキルの中身は、特別なクラスの人間に頼むか道具を使用しなければ分からない。

 確認は帰ってからだな。


 しかし、レベルアップの感覚は絶え間なく続いている。

 低レベルの方がレベルアップはし易い。

 とは言え、俺自身は戦ってすらいない。

 それで、この速度のレベルアップ。


 重要なのは幸運を引き寄せる挑戦なのだと。

 そう思い知った。


 スルトを向かわせて2時間弱。

 彼等は俺の元まで戻って来た。

 命令には、誰かがやられた場合に戻って来いと言っていた。

 ゴブリンがやられたらしい。

 Fランクの前衛だから仕方ないな。


「よくやった」


 そう言うと、4匹の魔物は独自の鳴き声を上げて首を垂れる。

 そして、持ち帰った魔石を提示していく。


 Fランク魔石。

 親指程度の大きさの魔石。

 数えると24個あった。

 魔石は3割程度の確立で採取できる。

 そんな事を、資格を取る時の講義で習った気がする。


 って事は70匹近くのゴブリンを倒した事になる。

 それで、こちらの戦力低下はゴブリン一匹のみ。

 復活させるのに必要な魔石はFランク一つだ。

 完全な黒字。


 1万円近い金額で売れる魔石が24つ。

 明日で借金を返済できる。

 巧妙が見えた。

 金策の糸があった。


 魔物を送還し、俺はダンジョンを後にする。

 その足で換金所へ行き、魔石を売る。

 そして、ステータス鑑定が可能なキットを購入した。


 地味に高い。

 お値段3万2000円。

 しかも使い切りだ。

 しかし、それでも購入者が絶えない程、探索者は儲かるという証明でもある。



 【魔力紙】と呼ばれるダンジョンから出土する特殊な道具。

 それに、自分の血液を吸わせる。

 それだけで、血文字でステータスが言語化される。


「この魔力紙と針で3万円とかぼってるだろ」


 家に帰った俺はそんな文句を言いながら、針を指に差して血を紙へ落とした。



――

神谷昇(21)

クラス『召喚士』

レベル『10』

『魔石召喚lv1』

『召喚獣契約lv1』

『召喚獣送還』

『召喚獣憑依』

『種族進化』

『独立行動』

――



 あの男を抜くまで、あと40レベル程。

 まだ、先は長い。


 俺は新たに3つのスキルを獲得した。

 憑依は魔物に意識を移せるスキル。

 種族進化は、一定以上の経験値を稼いだ魔物をランクを上げる物。

 独立行動は、魔物の行動範囲を拡張する物らしい。

 

 スキルの獲得方法や、スキルレベルの上げ方については、詳しい法則が見つかって居ない。

 そもそもレベルがあるスキルもあれば、逆に無いスキルもある。


 今の所、ダンジョンでスキルを使っていればスキルレベルが勝手に上がるというのが探索者の認識だ。

 レベルが無いスキルは、これ以上強くなる事のないスキルという事になる。


「スルト」


 声を出すと、召喚が発動する。

 スルトが俺の部屋に現れる。


 スルトを呼び出したのは【種族進化】の発動条件をスルトが満たしているからだ。


「進化しろ、スルト」


 意思を込めて、スルトへ触れる。

 瞬間、その身体が赤く光った。



 ――スケルトン・ポーター



 そんな名称が頭に天啓のように落ちて来た。


「我が主よ、これで一層お役に立つ事ができるでしょう」


 流暢な日本語で、スルトは俺にそう喋りかけて来た。


「喋んのかい!」


「進化した事で、情報の交信能力が向上したようです」


 俺のツッコミにスルトは淡々と返してくる。

 何か、店員の様な印象を受ける。


 喋らない魔物なら、手足のように使う事に戸惑いはない。

 しかし、相手に意識と言語能力があると使いにくいな。


「スルト……でいいんだよな?」


「はい。

 それが、主より賜りし我が真名であります」


「その、お前は俺に命令されていいのか?」


「……ハッ、もし我が不要であれば、今すぐに自決を」


 んな事言ってねぇけどね!

 口から出かかったその言葉を飲み込む。

 どうやら、召喚獣の忠誠心というのはかなり高いらしい。


「それはいい。

 これからも働いてくれると助かる」


「御意」


 そう言うと、スルトはドアノブに手を掛ける。


「ちょっと待て、どこ行こうとしてるんだ?」


 慌てて俺はそれを止める。

 流石に息子の自室から、骸骨が出てきたら家族がビビる。


「早速ダンジョンへ参ろうかと」


「一人で行く気か?

 俺も一緒じゃないと無理だろ」


 召喚獣の行動範囲は召喚士を中心に、半径300m程だ。

 それ以上離れる事はできない。

 だからこそ、俺は自分の足でダンジョンに向かっているのだ。


「いえ、独立行動のスキル効果によって、行動範囲の制限はありません」


 スルトが口にしたその言葉をかみ砕くのに、俺は少し時間を有した。


「……マジ?」


 時間を掛けて絞り出した返答は、そんな間抜けな物だった。




 ◆




 頬杖を突きながら、俺は教授の話を聞いている。

 土日は探索活動に費やせたが、現役大学生は平日は講義だ。

 出席日数が足りていない訳では無い。

 正直、学校を休んででも探索者をする予定だった。


 けどなぁ……



 ――レベルアップ



 その感覚が頭に来る。



 ――ゴブリンの進化条件が満たされました。



 講義を受けながら探索者の活動が可能。

 その事実を知れば、もう休む理由は無かった。


 魔石を持ち帰る事ができないという問題に関しても解決している。

 スケルトン・ポーターとなったスルトの能力。

 それは、ある程度の大きさの物質を収納できるという物だ。


 スルト自身が死んだ場合、中身はその場にブチ撒かれるけど。

 しかし、その前に送還してしまえばいい。

 朝一にダンジョンへ行き、スルトたちに狩りを命じる。

 そして、俺はそのまま学校へ登校。

 そのサイクルが成り立ってしまうのだ。


 講義を聞きながら、レベルアップの感覚を何度か感じた。

 それと憑依のスキルを試してみる。

 召喚獣の感覚を乗っ取るスキルだ。

 試しに、ビッグアイの視界を共有してみる。


 戦闘はしていない。

 探索中の様だ。

 へぇ、スルトが指揮官なんだ。

 最初の契約魔物だからだろうか。


 ビッグアイが索敵と後衛。

 グールとゴブリンが前衛。

 ヴァンパイアバットが遊撃か。

 そして、スルトは全体の指揮と敵のコントロール。

 悪くない戦法な気がする。

 魔物というのは、最初から戦闘に関する知識を持っている物なのだろうか。


 その光景をボケーっと眺めていると、声が掛かる。


「先輩?」


「うおっ!」


 視界が飛んでいた状態で、間近から声が掛かるとめっちゃ焦った。


「どうしましたか?」


「幽霊とか駄目なんだよ俺」


「それって私が幽霊に見えるって事ですか?

 こんな可愛い後輩の私が!?」


 少し怒りながら、自己肯定感の高すぎる返事をする女。

 俺の後輩で、名前は柊木葉ひいらぎこのは


「あぁ、可愛い可愛い。

 どうかしたか?」


 気が付くと、既に講義は終了していた。

 ビッグアイの視界共有にかなり見入っていた様だ。


「適当じゃないですか。

 お昼休み、ご一緒してもいいですか?」


 別に、俺とこいつは一緒に昼食を取る仲という訳じゃない。

 というか、俺は基本的に雅と一緒に食べてたから……


「なんで、嫌そうな顔するんですか」


 雅の事を思い出していたのが顔に出たらしい。


「嫌な訳じゃないって。

 いいよ」


「いいんだ」


 少し驚いて、彼女は言う。


「という事は、やっぱり別れたって本当なんですね」


 俺の事情を知っているかのように、木葉はそう言った。

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