第32話 お風呂場でお上品なお話ですわ♡

 門での一件後。

 気絶したメルディを運んで、俺達は砦内の一室へと移動した。

 

「あいてててっ。相変わらず、カルチュアは乱暴っすねぇ」


「……貴様が暴走するから悪い」


「にゃはー。それは耳が痛いっす」


 手当てを受けて目を覚ましたメルディは、ケラケラと笑う。

 とても、もうじき死を迎える者とは思えないほどに……屈託の無い笑みだった。


「お兄さん、ごめんなさいっす。あの時、勘違いとはいえ色々と失礼な事を言っちゃったっすよね?」


「気にしなくていいよ。あんまり覚えてないし」


「にゃー、強者の余裕って感じでカッコいいっすよ。それにまさかレベル0で、カルチュアを倒せるほどに強いなんて」


「……ああ。リュートの実力は我が保証する」


「そっか。それなら……確実に、ボクにゃんを殺してくれそうっすね」


「「「「!!」」」」


 メルディの言葉に、この場にいる全員……カルチュアは勿論、俺やピィとルディスも絶句してしまう。


「おや? 何をそんなに暗い顔をしているんすか? ボクにゃんとしては、大切な親友に辛い思いをさせずに済みそうで嬉しいくらいっすけど?」


「やめろ、メルディ。そんなにも、悲しい事を……」


 ギリッと歯を食いしばり、拳を強く握り込むカルチュア。

 

「姉様を失った……あの忌まわしい事件の時。傷付いた我を、貴様はずっと支えてくれたではないか」


「……にゃは、はは」


「だから今度は、我が貴様を支える番だ。何も心配するな、必ずお前の事は救い出してやる」


「カルチュア……うん。嬉しいっすよ」


 そう告げて、カルチュアはメルディを抱きしめる。

 この二人の過去に一体どんな出来事があったのかは分からないが、その信頼関係はかなり深いようだ。


「リュート、彼女は我の大切な友だ」


「…………」


「期限ギリギリまで、我は彼女を救う方法を探す。だが、もしもそれが間に合わなかった場合は……」


 覚悟を決めた瞳で、俺を見上げるカルチュア。

 俺はそんな彼女の頭に、ポンと手を乗せる。


「失敗した時の事は考えなくていい。俺達で必ず、メルディを助けよう」


「……っ! リュート……♡」


「マスター……きゅんっ♡」


「担い手……ぞくぞくっ♡」


「にゃー……お兄さんに惚れちゃいそうだにゃー」



 4人の美少女から熱の籠もった視線を向けられるのは嬉しいが、今は舞い上がっている場合じゃない。

 なんとしても、メルディを救う方法を見付けないと。


「カルチュア、何かいいアイデアとかあるのか?」


「…………いや、無い」


 俺が訊ねると、カルチュアは何かをはぐらかすように顔を背けた。

 この感じから察するに、あるにはあるが……試したくない方法のようだ。


「そうか。なんにしても、魔女に関する情報が必要だよな」


「それなら、ここから馬で半日ほど移動したところに大きな都市がある。そこには国内でも随一の大図書館が設立されているぞ」


「なら、そこへ……」


「分かった。では、今晩は砦で休み、明日は我とリュートで……」


「ちょっと待って欲しいっす!」


 話がまとまりかけたところで、急にメルディが割り込んでくる。

 何かあるのか、と俺達は全員彼女の方へ顔を向けた。


「カルチュアやお兄さんがボクにゃんを助ける為に頑張ってくれるのは嬉しいっす。でも、それで助かるかどうかは……分からないわけで」


「「「「…………」」」」


「だから、もしもの時の為に。いつ死んでも大丈夫なように、ボクにゃんはやり遺した事を色々とやりたいんすよ」


「やり遺した事?」


「……ボクにゃんも、カルチュア達に付いて行きたいっす」


「なっ!? メルディ!! 貴様、自分が何を言って……」


「分かっているっす。でも、死ぬ前に一度……大切なカルチュアや、お兄さんと一緒に冒険してみたくて」


 今までずっと、気丈で明るい態度を見せていたメルディ。

 そんな彼女が今は俯き、涙を溢れさせながら声を震わせている。


「……王女として。国民を危険に晒すような真似は出来ん」


「にゃ、にゃは……やっぱり、そうっすよね」


 吸精の魔女復活の予定日まで余裕があるとはいえ、いつ復活の時が訪れるのか分からない以上……この砦からメルディを連れ出すわけにはいかない。

 カルチュアの判断は王女として、妥当なものだろう。


「しかし、我は王女であるのと同時に……貴様の友でもある」


「にゃ?」


「王女失格でもいい。我はメルディの望みを叶えてやりたい」


「マスター! 私からもお願いします!!」


「ふん。アタシと担い手がいれば、どこで復活されようが関係ないわ」


「……当たり前だ。メルディ、一緒に行こうぜ」


 答えなんて決まっていた。

 愚かな決断かもしれない。

周囲の事を考えず、個人的な感情で動くなんて……許されない事だろう。

 しかし俺は、ハッキリとこう思う。

 

 だからなんだ?


 俺はよその知らない誰かを危険に晒す事よりも。

 世界の為に、自分の死を受け入れているこの一人の少女の……たった1つの儚い願いを叶えてやる事を優先してやりたい。


「う、ぐすっ……ひぐぅ、あ、ありが……ずびぃっ、うぇぇぇぇぇぇっ!!」


 泣きじゃくるメルディを見下ろしながら、俺は誓う。

 絶対にこの子を死なせはしない。

 何が合っても、魔女の犠牲から救ってみせると。


【数時間後】


「おっきぃおっふろー!! ざっぷぅーん!!」


 砦内に設置されている大浴場。

 その湯船に勢いよく飛び込んだのはピィ。


「ちょっと! 入浴の前にまずは体を洗いなさいよ!!」


「ぶぅー……ノリが悪いですね」


「ノリとかじゃなくて、マナーの問題でしょ?」


「はぁーい」


 ルディスに叱られたピィは、渋々と湯船から出てくる。

 2人とも今は一糸まとわぬスッポンポン。

 漂う湯気がいい感じで、2人の大切な場所を覆い隠している。


※BD特典で湯気が消えます


「ふふっ、元気がいいな」


「にゃー!! ボクにゃんも負けないっすよー!!」


 ざっぷーん!! ピィに続き、浴槽にダイブするメルディ。

 そんな友人を呆れた瞳で見つめるカルチュア。


「やれやれ、困ったものだ」


「にゃは、やってみると案外恥ずかしいっすね」


 顔を真っ赤にしながら上がってきたメルディは、体を洗う為に洗面台に並んで座ったピィ達の隣に移動する。


「ねぇねぇ、流し合いっこしないっすか? カルチュアはそういうのさせてくれないんすよー」


「いいですね。私もよくルディスに提案するんですけど、断られちゃって」


「ふん。アタシの体を好きにしていいのは担い手だけなの」


「我も同感だ。いくら親しい友とはいえ、そこは流石に譲れん」


「「ええー!?」」


 超が付くほどの美少女達が、横に並んで体を洗う。

 こんな光景を目にする事が出来れば、死んでもいいと思う者は多いに違いない。


「それにしても、君達はちっちゃい体なのに……ナイスバディっすねぇ。黒髪ちゃんはボクにゃんよりもおっぱい大きいし……白髪ちゃんはカルチュアよりも」


「おい、何か言ったか?」


「……にゃー。でも、やっぱりまだまだおこちゃまっすね。アソコがつるっつるっすもんねー」


「うー。子ども扱いしないでください」


「み、見るんじゃないわよ!」


「おや? 黒髪ちゃんの方は良く見ると……?」


「うるさいっ!!」

 

「ほげにゃっ!?」


 パコォーン!!

 ルディスの投げた風呂桶がメルディの顔面にクリーンヒット。


「全く。自業自得だ、馬鹿者め」


「あいででで……悪かったすねぇ、黒髪ちゃん。ほら、ボクにゃんってば獣人族だから毛深くて、ツルツルに憧れているというか」


「おぉー。確かにメルディさんのは……フサフサですね」


「でも、実はボクにゃんよりもカルチュアの方が剛毛ジャングルで……」


「ふんっ!!」


「にゃぎゃああああああっ!? 尻尾を掴むのはらめぇぇぇぇぇっ!?」 


「……ああもう、お風呂くらいゆっくり入らせてよ!!」


「じぃー……やっぱり、生えているじゃないですか!! 抜け駆けですよルディス!!」


「あっ、こら!! どこを覗き込んでるのよ!! この変態っ!!」


「私にも下さい!! マスターに大人と認めてもらいたいんですぅぅぅぅ!」


「アタシだってそうなの!! これは譲れないんだからぁぁぁぁぁっ!!」


「私は剛毛ではない!! ただ人より少し、濃いだけだ!!」


「にゃああああ!? それは流石に苦しい言い訳っすよぉぉぉぉっ!」


 わーわー、ぎゃーぎゃー。

 大浴場にかしましい声が響き渡る。


「何を騒いでいるんだか……」


 一方その頃。

 壁一枚隔てた先で、男性用の浴場で体を洗っている流斗。


「でもまぁ、賑やかなのは悪くないか」


 なんて、思わず笑みをこぼす流斗であるが。

 この数分後、4人の美少女達から覗きを受けることになるとは……夢にも思わなかった事だろう。

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