第2話 転生して最初の敵は普通スライムかゴブリンだろ!?

「いててて……」


 あのクソッタレな女神との出会いの後。

 意識を失った俺が再び目を覚ますと、そこはまた別の場所であった。

 辺り一面、緑の木々が生い茂る森の中。

 空から差し込む陽の光は生い茂った枝葉に遮られていて、どこかどんよりとした雰囲気が漂っている。


「えっと……」


 混乱する頭で俺は必死に状況把握に務める。

 まず俺は神丸スーパーが閉店したショックで死亡した。

 それから、その原因となった女神と出会い……今は森の中にいる。


「これってつまり、生き返ったって事か?」


 最後にあの女神はもう一度チャンスがどうだと言っていた。

 となると、そう考えるのが自然だろう。


「なんだか、漫画やアニメでよくある異世界転生みたいだな」


 トラックに跳ねられたりして死んだ人間が、神の力でファンタジー世界に飛ばされる。

 そして手に入れたチート能力で無双したり、ハーレムを作ったりして成り上がっていく。


「……なんて美味しい話があるわけないよな」


 生前の自己評価の低さから、どうにも卑屈に物事を考えてしまう。

 だから今の状況も、きっと悪いに違いないと……俺が思っていると。


「っ!?」


 ガサガサガサガサガサ。

 突然、近くの茂みが大きく揺れる。

 動物か何かだろうかと、視線を向けてみた先には……巨大な豚が立っていた。


「……は?」


 デカい。

 俺の身長の倍はあるだろう、ピンク色の巨大な豚。

 そんなモンスターがなぜだか二足歩行をしていて、その右手には血濡れの斧を握りしめている。

 あれ? 豚ってヒヅメじゃなかったっけ……?

 なんて俺が考える間もなく、こちらに気付いた豚がニヤリと笑う。


「フゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「ひっ!?」


 ビリビリと空気を震わせる雄叫び。

 ああ、すげぇ。

 残業申請をしたら、俺を怒鳴りつけて殴ってきた部長よりも迫力があるや……


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 現実離れした光景にどこか冷静な脳内とは裏腹に、臆病な俺の体は全力で逃避行動を開始した。

 よろけながらも、巨大な豚……オークから逃げようと必死に走り続ける。


「フゴゴゴゴゴゴゴッ!」


 ある日、森の中。

 クマさんではなく、豚さんに追いかけられるなんて。

 

「(どうすればいいどうすればいいどうすればいい)」


 考える。考えるが、答えなんか出るはずが無い。

 俺は今、着の身着のままの状態。

 走りながらポケットをまさぐると……スマホがあった!

 

「よし、これで助けを……あっ」


 そう思ってロックを解除しようとしたら、手が滑って落としてしまう。

 そして地面に落ちたスマホ、後から俺を追いかけてきたオークの足の下に転げっていき……バキャリッ!

 見るも無惨に砕け散ってしまった。


「ああああああああああっ! 取引先のデータがぁぁぁぁぁぁっ!」


 こんな状況でも仕事についての心配が脳内によぎるなんて、我ながら呆れてしまう。

 というかそもそも、あんな化け物がいる世界という事はスマホなんか使えないだろうに。


「くそっ! 他に何かないのか……!?」


 22世紀からやってきた猫型ロボットにでもなった心境で、ポケットをまさぐり続ける。

 しかし出てきたのは財布だけ。

 そりゃそうだ。スーパーへの買物に行こうとして死んだんだ。

 スマホと財布くらいしか持ってないっての!


「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」


 元々、体力に自信もなければ鍛えた経験もないもやし野郎だ。

 俺の足は徐々に速度を失い、オークとの距離も詰まっていく。


「ちくしょう……」


 せっかく生き返ったのに、こんなにもすぐに死ぬのか。

 俺が自分の不運を呪い、全てを諦めようとした瞬間――


『マスター、諦めてはいけません』


「え?」


 どこからともなく、機械的な女性の声が聞こえてくる。

 しかし周囲にはそれらしい人物はいない。


『どこを見ているのですか? ここですよ、ここ』


「まさか……財布が喋っているのか?」


 俺は手に握りしめていた財布へと視線を落とす。

 たしかに今、財布から声が聞こえてきたぞ。


『惜しいですが、違います。私は財布の中にいます』


「財布の中……?」


 走りながら、財布を開いて中身を確認する。

 そして真っ先に目に入った、赤いカードに注目した。

 白地に赤い文字で神丸、というロゴが描かれているポイントカードだ。


『そうです。私は女神様によって力を与えられた、マスターのポイントカードです』


「へぇ、そうなんだ。まさかポイントカードと話す日が来るなんてなぁ……って、和んでいる場合じゃないんだよ!!」


 予想通り、喋っていたのは神丸スーパーのポイントカードだった。

 しかし、だからなんだっていうんだ?


『落ち着いてくださいマスター。私の力を使えば、あのように図体だけの豚野郎は恐れるに足りません』


「君の力、だって?」


『はい。ひとまず立ち止まり、あの豚を迎え撃ちましょう』


「……」


 足を止めるなんて自殺行為にしか思えないが、どうせこのまま逃げてもいずれ捕まる。

 俺は藁にもすがる思いで、その場に立ち止まって振り返る。


『では続けて……私のロゴを指で押してください』


 ポイントカードはそう言うが、もう目と鼻の先にオークは迫ってきている。


「フゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「うわぁぁぁぁっ!?」


『さぁ! 早く!!』


「うおおおおおっ!!」


 オークが俺の前で斧を振り上げるのと同時に、俺はポイントカード中央のロゴを押す。

 すると次の瞬間。

 キィーンという音と共に、周りの世界の色がモノクロへと変わっていく。


「……あれ?」


 いつまで経っても、オークの斧が振ってこない。

 恐る恐る俺が顔を上げると、そこには斧を振り上げたまま硬直しているオークの姿。


『ふぅー。なんとか間に合いましたね』


「な、なんだよこれ? もしかして俺が時を止めたのか……? 時間静止の世界に入門してしまったのか?」


『いいえ違います。マスターにも分かるように説明すると、今はRPGで言うメニュー画面を開いている状態なのです』


「ああ、なるほど……なるほど?」


 理屈は分かる。俺だってゲームくらいはやった事あるし。

 たまにホラゲーとかだと、メニューを開いている間にゾンビが動いていて殺されるとかあるけど……基本的にメニュー画面は聖域だ。

 しかし、そんなメニュー画面をなぜ俺が開けるのだろうか?


『こちらをご覧ください』


 ポイントカードの言葉と共に、ブゥウンッという音。

 そして俺の眼前に、ゲーム的なステータスウィンドウが展開される。


「これは……?」


『マスターの現在ステータスです』


「これが俺のステータスって……嘘だろ?」


 俺は自分のステータスウィンドウを見て、思わず驚愕してしまう。

 なぜなら、そこに記されていた俺のステータスというのが……


<<安藤流斗>>

【レベル0】

【体力】1

【力】1

【技】1

【速度】1

【防御】1

【魔力】1

【幸運】1

【魅力】1

【武器適正】

・剣 1(G)

・斧 1(G)

・槍 1(G)

・弓 1(G)

・杖 1(G)

【所持スキル】

・無し

【残ポイント】99999


「よっわっ!?」


 ステータスの数値というのは、ゲームごとに上限が異なる。

 HP上限が99999のゲームなら1なんて大した価値もないが、99のゲームなら相応の価値があるといえるだろう。

 でも、それにしたって……これはひどすぎる。

 レベル0でオールステータスが1って、どうやって戦えばいいというんだ!?


『慌てずにしっかりと画面を見て下さい。下の方にある数字を』


「下にある数字……? おぉっ!?」


 言われた通りによく見てみると、なんだか異様に大きい数字がある。


『このポイントこそ、マスターが培ってきた努力の結晶。新たな世界で、マスターの未来を作る希望なのです』


「俺の努力の結晶……99999って、もしかして?」


『はい。マスターが私の中に貯めてくださっていたポイントです。そして今のマスターは、このポイントをステータスに割り振る事が可能なのです』


「俺のポイントを……使ってもいいのか」


『さぁ、私にご指示をください。そして共に生まれ変わりましょう』


 俺はポイントカードの声にいざなわれて、ポイントを割り振る事にした。

 さぁて、まずはどのステータスを上げてみようか……

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