第2話 政略結婚

ミロア・レトスノムとガンマ・ドープアントが婚約したのは十歳の時だった。その婚約はレトスノム公爵家とドープアント王家の政略結婚、すなわち第一王子ガンマが王太子に、公爵令嬢ミロアが次期王太子妃になることを前提として婚約が決まった。ただ、幸か不幸か顔合わせの時にミロアはガンマに一目ぼれしてしまったのだ。


ガンマ・ドープアントは艶のある黒髪と青い瞳の美少年で、初めてであったミロアに「初めまして、ミロア嬢。僕の婚約者」と微笑みながら挨拶した。当時のミロアはそれだけで舞い上がるほど喜んだのだ。


しかし、ミロアはその時にガンマが少し不満そうにしていたことに気付けなかった。おそらくガンマの方は、最初から婚約を決められたことが憂鬱だったのだろう。幼いゆえに政略結婚に対して理解がなかったのだ。



婚約後は、いつも一緒にいたいという気持ちのミロアは何でもかんでもガンマに付きまとうようになった。



「ガンマ様、一緒に遊びましょう!」

「そ、そうだね……」


「ガンマ様、私の手料理なんです。食べてください!」

「う、うえっぷ……」


「ガンマ様、王立学園では一緒に登校しましょうね!」

「馬車は別々だ! できるわけないだろ!」



ガンマのほうからミロアに近づくことは全くしなかったが、人の目や立場もあるため渋々応じるという形でいた。本当は嫌がられていたのにも気づかないで、ミロアはアピールが成功したのだと勝手に喜んでいた。


このような形でミロアはガンマの婚約者として彼と接していくことを幸せに思いながら日々を送っていたのだ。当のガンマには鬱陶しいと思われていたのにも気づかずに。



しかし、そんなミロアの幸せな日常は王立学園に通うことになってから大きく変化することになった。



それは男爵令嬢『ミーヤ・ウォーム』の存在だった。男爵令嬢で肩までかかる緑色の髪に大きな花飾り、緑色の瞳を持つ可愛らしい顔立ちの少女。彼女こそがミロアとガンマの関係に大きな変化を与えたのだ。


何がきっかけかはミロアは知る由もなかったが、ガンマはミーヤと行動を共にするようになった。それ以来、ガンマはミロアがいくら誘っても断るようになってしまった。



「ガンマ様、一緒に図書館に行きましょう」

「そんな暇はない!」


「ガンマ様、私の手料理なんです。食べてください!」

「いらない、王宮の料理人が作った弁当がある!」


「ガンマ様、一緒に課題をしましょう……」

「他の者とグループを組んだ。必要ない!」



毎回誘うごとに理由をつけて断り続けるガンマの態度に悲しみと寂しさを感じるようになったミロアは、ガンマのことを付け回してやっと男爵令嬢ミーヤ・ウォームの存在を知ったのだ。



「どうしてあんな女が、ガンマ様と同じ時間を過ごしているのよ……!」



愛するガンマが他の女と一緒に図書館で本を読み、一緒に昼食を食べ、一緒に課題に取り組む。それはミロアにとって苦痛でしかなかった。



「ガンマ様の隣は私の居場所なのに……!」

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