第35話 愚痴りたいんだ



 オークを5体狩っただけで、ダンジョンを出ることになった俺は、不完全燃焼のまま帰途についた。


 俺のやる気を返してくれ!


 シーカーデビューってことで、力みすぎたのかもしれない……。


『ポジティブに行こう!』


 そうだ!


 時給1万円なんだ。それを喜ぼう。



 家に帰ると、妹も出かけているようで誰も居なかった。


 まだ昼過ぎか……。


 岩沼さんに電話してみるかな。


 国連日本支部に電話をかけて、岩沼さんを呼び出してもらう。


「はい。岩沼です」


「こんにちは。足守です。ランク1のダンジョンに行ってきました」


「そうですか。どうでしたか?」


「どうもこうも。魔獣が弱すぎて手応えが無かったんだ! 手軽にランクアップする方法を教えてください!」


「なるほど。言いたいことはわかりますが、それはできません」


「ですよねー。それでも、誰かに愚痴くらい聞いてほしくて……。すみませんでした」


「島松先生に繋ぎましょうか?」


「いえ。それは大丈夫です」


 俺はペコペコと頭を下げながら、電話を切った。



 ランクアップのため、ダンジョン巡りの旅に出るしかないかぁ……。


 情報端末でダンジョンの場所を確認しながら、旅の計画を練る。



 頼まれていた本の翻訳をしていると、


「ただいまー。蒼大居るの?」


 ドタバタと音を立てながら一花が帰ってきた。


「おかえり」


「ねぇねぇ。どおだったのさぁ?」


「何が?」


「まったまた~。ダンジョンのことに決まってんじゃ~ん」


 戻ったら話しを聞かせる約束をしていたことを思い出した。


「あーーーーっ! コレ、装備ケース?」


「そうだ。昨日買った」


「ねぇねぇ~。見せて~」


 一花よ……。


 クネクネと腰を捻ったところで、お前には色気のカケラもないんだ……。


「一花。ソレを開けると蒼大のライセンス取り上げだよ」


「なんだよぉ~。雄二はノリが悪いなぁ」


「雄二。おかえり」


 改めて一花に向き合って、


「ノリでライセンス無くしたくないわ! 話し聞かせてやるから落ち着け!」


 この3日間の出来事を、なるべく丁寧に話した。


 普段から落ち着きのない一花だが、ふざけるようなことはなく、まじめに話しを聞いていた。


 一応。危険な仕事だということは、理解しているんだろうな。



 家族揃って夕食をいただく。


 妹の作る料理は味付けが母さんに似ているから、食べていると昔を思い出すことが多い。


 異世界に行っていた3年間は、それこそ生き延びることに必死だった。


 こうして懐かしい味覚を刺激されると、両親のことを思い出すなぁ。


 雄二と一花を見ていると、子育てって凄く大変なんだと感じる。


 苦労して育てている二人が、将来はシーカーになると言う。


 親として思うところもあるだろうに、この夫婦は二人のことを見守っている。


 もし自分の子どもだったら……。


 俺はシーカーになりたいと言う二人に、何とか諦めてほしくてイロイロ言ってしまいそうだ……。


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