第30話 定期検診



 昨日は特区へ行ってバイトの面接を受けたんだが、驚きの連続。


 面接の結果は採用で、給与面の話しもスムーズに進み、魔力渦の向こうの異世界も見学させてもらった。


 異世界側でも、特区内の市場と同じように交易場が作られていた。


 あちら側でも、魔力渦周辺に壁が建設され、出入り口では兵士によるチェックも行われている。


 どちらも魔力渦周辺は特区扱いになっていて、治外法権なのだと聞いた。


 特区内でだけ使える専用の通貨が発行されていて、お互いの世界で経済に直接影響が出ないよう配慮しているそうだ。


 凡人の俺には思いつかないことだわ。



 家に戻った俺は、家族にバイトが決まったことを伝え、給料が入ったら生活費を渡す約束をしたんだが……。


 どうやら俺のバイト代は高額らしい。


 金額を聞いた妹が、「兄さん。ズルい!」とプリプリしていた。


 聞けば、近くのスーパーでバイトをしている妹の時給の5倍らしい。


 怒るのも頷けるが、専門職とはそういうものだろうと思う。


 とくに俺の場合は、並外れた翻訳能力があるようだから、通訳の正確さが必要な場面で重宝されるだろう。


 通訳の他に、本の翻訳作業も受けた。


 こちらは時給制ではなく、1冊いくらの仕事になり、自宅に持ち帰ってもいいことになっている。


 拘束時間が少なくて済むから、翻訳の仕事をメインでやって行きたいと考えている。



 昨日の出来事を思い出しながら、情報端末に日記を書き込む。


 情報端末に慣れるため、最近はじめた習慣だ。



「おっと、そろそろ乗り換えか」


 今日は国連日本支部で定期検診を受けるため、電車に乗って東京へ来た。


 毎月、月頭に健康診断をするから国連日本支部に来るよう言われている。


 朝食は抜くよう指示されているから、俺は腹ペコ。



 乗り換えた電車を降りて駅から出ると、岩沼さんが車で待っていてくれた。


「おはようございます」


「おはようございます。乗ってください」


 岩沼さんに送ってもらった後は、いろいろな検査を受け、やっと飯にありつくことができた。


 ここのご飯も久しぶりだ。ウマい!


 はじめてお金を払って食堂を利用したが、値段が非常に安い。


 やはり国連施設だからだろうか?



 午後は島松先生がメインで、問診兼聞き取り調査だった。


「とくに問題なく生活できているようで、良かったです。

 困った事があれば、いつでも連絡してください」


「ありがとうございます」


「そう言えば、魔力研究所からもオファーがあったそうですね?」


 同席していた岩沼さんが聞いてきた。


「情報が早いですね」


 当然か、俺の情報は関係各所で共有されているんだろう……。


「それで、どうするんですか?」


「取り敢えず、通訳と翻訳のバイトをすることにした」


「良かったですね。バイト頑張ってください」


 その後も近況についての報告をし、夕方になってやっと開放された。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る