第28話 家族の団らん



 改めて自己紹介から始まり、各々の呼び方が決まった。


 旦那さんのことは『蒼介さん』と呼ぶ。


 これは年齢的にも無理なく、自然に呼ぶことができる。


 甥と姪とは、お互いに名前を呼び捨てすることになった。


 俺にとって一番の問題は妹の呼び方で、『葵さん』と呼ぶ努力をすることで決着した。


 年齢を重ねた妹を見ても、昔のように名前で呼ぶことに違和感を覚えるし、かといって『葵さん』と呼ぶことに抵抗感を持つ。


 どちらも微妙な感じだ。



「異世界の話しを聞きたい!」


 一花が勢いよく前のめりで言ってきた。


「さっき岩沼さんが言ってたけど、それは詳しく話せないんだ。すまないが、事情はわかるよな?」


「そ~だけどさ~。少しくらいイイじゃ~ん」


「一花ダメよ。兄さんを困らせないで」


「は~い。つまんないのぉ」


「どこまで話しをしていいのか、線引が俺自身よくわかってないんだ。ごめんよ」


「蒼大くん、すまないね。一花はワガママに育ってしまったんだ」


「それ、ヒドくな~い。アタシだって、ちゃんとわかってるって」


 一花は見るからにお気楽キャラだ。


 タンクトップにホットパンツの格好で、落ち着きなくムダにピョンピョン跳ねる。


 俺が異世界へ旅立つ前の童貞小僧だったら、目に毒な女子だったろう。


 あっちでイロイロ経験を積んだ今の俺には、色気のかけらもないガキとしか映らないが……。


 ヤバイ。


 早めに抜いておかないと!



 一花の抑え役をするしかなかったのかもしれないが、雄二は落ち着いているように見える。


 この二人は双子だ。


 今のご時世、将来の戦力として出産は奨励されている。


 養育費はあまり心配しなくてもいいよう、制度化されている。


 とくに日本では、人口流出に歯止めがかからないから、産めや増やせの政策だそうだ。


 この二人は揃って探索者養成学校に通っているそうだ。


 来年の春、卒業すればシーカーライセンスを手に入れることができるだろう。


 将来はフリーのシーカーとして生計を立てるつもりだと聞いた。


 そんな未来図を描いているからだろうが、一花は異世界のことやシーカーのことを、やたらと聞いてくる。


 話しの流れで、俺のシーカーライセンスカードを見せることになった。


「貰ったばかりだが、これだ」


 バックからカードを出して、テーブルに置く。


 一花はカードを手に取りクルクル回している。


「これが本物かー。へ~。イイじゃん!」


 何となくノリで生きていそうな一花の言葉を、一々真に受けると面倒そうだから、軽く流しておく。


 すまんな。これも異世界で身につけたスキルだ。


 その後は俺の歓迎会だと、妹が作ってくれたご馳走を食べながら家族の団らんが続いた。


 妹の家族は、みんな明るくて感じよく、俺のことを家族として迎え入れてくれたことが嬉しい。


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